GovTech東京が作る「必要とする人に支援の情報や支援の制度が届く関係性」
GovTech東京の取り組みは実際にどのような効果を上げているのだろうか。
定量的な側面では、都内62自治体すべてがなんらかの形でGovTech東京の協働事業に参加し、具体的な成果としては、共同調達による約23億円のコストメリットを生み出した。また、自治体からの「スポット相談」の件数は累計346件に達し、その満足度は5点満点中4.5点という高スコアを記録している。
「スポット相談」の成果
「共同調達」の成果
また、「保活(保育園探し)」のデジタル化プロジェクトでは、東京都・GovTech東京が、国や区市町村という行政機関だけでなく民間企業とも連携し、リアルタイムの空き状況確認や見学予約、オンライン申請までを一気通貫で実現する、保活ワンストップサービスを開始した。
もちろん、課題解決のプロセスは平坦ではなかった。特に「東京アプリ」の開発・運用においては、受託開発中心から同財団のエンジニアやデザイナーを中心とする内製開発体制へのシフトに伴い、トラブルや混乱も生じていると宮坂氏は率直に認める。しかし、GovTech東京は「トラブルは前進するための必要な障害」と捉え、ベータテストを通じて改善を繰り返すスタートアップ的なアプローチを貫いている。困難がある中でも前を向く理由について宮坂氏は、「根底にあるのは、迅速に必要とする人に支援の情報や支援の制度が届くような、そんな関係性を作りたい」とその思いを語る。
「東京発のモデルを日本全国、そして世界へ広げる」宮坂氏が掲げるGovTech東京のゴール
本事例から得られる最も本質的な教訓は、戦略と実行の間に横たわる深い溝についての認識だ。宮坂氏は映画『マトリックス』の台詞を引用し、「道を知っていることと、道を歩くことは全然違う」と語った。
IT業界やコンサルティングの領域では時折、「あるべき論」や「戦略」が語られる。政府の方針やDXの教科書を読めば、何をすべきかは明白に書かれている。しかし、泥臭い現場の制約、法制度の壁、組織の抵抗、そして技術的な負債の中で、実際にその道を「歩く」ことの困難さは、当事者にしか理解できない。
GovTech東京の事例が示唆するのは、DXの本質は「最新技術の導入」にあるのではなく、「道を歩く人々のコミュニティ形成」にあるという点だ。宮坂氏は、外部からのアドバイザーとして正論を述べるのではなく、リスクを背負って内部に入り込み、共に進む仲間を増やすことに注力した。

講演の最後、宮坂氏は今後の展望として「東京発のモデルを日本全国、そして世界へ広げる」というビジョンを提示した。現在はまだ「前半戦」であり、東京という一地域の変革に着手したに過ぎない。しかし、ここで確立された「共同調達」「内製開発」「データ連携」などのモデルは、他の自治体にとっても再現可能なテンプレートとなり得る。
宮坂氏が目指すのは、単に行政サービスを便利にすることだけではない。「公共」という概念そのもののアップデートである。それは、公務員だけが担うものではなく、民間のエンジニア、デザイナー、そして副業人材(GovTech東京パートナーズ)など、多様なバックグラウンドを持つ人々が参画し、テクノロジーの力で社会課題を解決していく新しいエコシステムである。
「道を知っている人ではなく、道を歩く人を増やしたい」
このメッセージは、行政職員のみならず、全てのビジネスリーダーやエンジニアに向けられた問いかけでもある。社会課題解決のために、自らのスキルをどう活かすか。GovTech東京という「船」は、まだ完成していない。しかし、その航路は確実に、デジタル時代の新しい公共のあり方を指し示している。
