.NET 10/Visual Studio 2026の組み合わせが拓く、高性能なアプリ開発
イベントの最初のセッションに登壇したマイクロソフトの井上章氏からは、「.NET 10で未来を描く AI時代のアプリ開発最新アップデート」と題し、先ごろ実施された「.NET Conf 2025」においてリリースされた、.NETの最新バージョン「.NET 10」とVisual Studioの最新版である「Visual Studio 2026」のアップデート内容をそれぞれ詳述する講演が行われた。
まず.NET 10については、.NETにおける3回目のLTS(長期サポート版)としてリリースされ、2028年11月までの3年間のサポートが保証されている。「合わせて、今回、STSのサポート期間がこれまでの1年半から2年間へと延長。STSの前バージョン『.NET 9』のサポート終了が、2026年11月となったほか、1つ前のLTSである『.NET 8』についても、.NET 9と同様、2026年11月にサポートが終了する予定となりました」と井上氏は説明した。
一方、このような.NET環境に追随する形で進化を遂げているのが、.NET用の開発ツールであるVisual Studioだ。今回のVisual Studio 2026には、数多くの新機能や改善が盛り込まれており、例えばツールのUIデザインが従来に比べてより軽快に操作できるようになっているほか、AIに関連した開発をネイティブレベルでサポートする機能の強化などもなされている。
中でも体感的に最も顕著な進化といえるのが、起動速度が大幅に高速化していることだ。例えばある調査では、223のプロジェクトを含む開発環境において、前バージョンであるVisual Studio 2022で14.7秒を要していたロード時間が、Visual Studio 2026では8.3秒となり、実に44%高速化しているとレポートしている。
また.NET 8以前のLTSバージョンと比較して、今回の.NET 10では、メモリ使用量が93%と大幅に削減されていることを報告する調査もある。これについて井上氏は「例えば、.NET 8や.NET 9のソースコードを.NET 10に変更するだけでも、こうしたパフォーマンス上のメリットを享受できます」と語る。
そのほか.NET 10では、ランタイム、SDK、そしてライブラリ群という3つの要素に関してさまざまなアップデートが行われている。例えばランタイムの部分では、最新のインテル Advanced Vector Extensions 10.2(インテル AVX10.2)のサポートをはじめ、Just In Time(JIT)コンパイラの最適化、またSDKについては、発行サポートとネイティブAOT(Ahead-Of-Time)を備えたファイルベースのアプリケーション、コンテナイメージのネイティブ作成が可能で、ファイル単位での実行が行えるほか、Microsoft.Testing.Platformという新たなテストプラットフォームが、.NETのコマンドの中で利用できるようになっている。
加えてライブラリに関しては、MCP(Model Context Protocol)のファーストクラスサポートや、セキュリティ面についても、ポスト量子暗号(PQC)の新たなAPIをサポートしていることもインパクトが大きいといえるだろう。
さらに、Visual Studio 2026、.NET 10 SDKにより利用できるC# 14のアップデートにおいても、言語仕様上いくつかの改善が行われている。その1つが、Null条件付きの割り当てについてで、Nullの評価がこれまでに比べて簡略的に行えるようになっている。またfieldというキーワードを通して、コンパイラが用意しているバッキングフィールドに対するアクセスが容易になっている。
「結果、コードをよりシンプルに書けるような改善が加えられていて、拡張メンバーの新しい構文なども使えるようになっているので、ぜひ試してみていただければと思います」と井上氏は言う。
今回の.NET 10は、.NET 8以来のLTS版で登場しており、2028年11月までの3年間のサポートが保証されている。合わせて、すでにリリース済みのSTS版についても、従来の1年半から2年間へとサポート期間が延長されていることにも留意が必要だ。
生成AIの機能を実装するための数々の仕組みが新たに搭載
現在のアプリケーション開発をめぐる技術トレンドとして、とりわけ注目されているのが、生成AIエージェントの実装である。具体的には、LLM(大規模言語モデル)を内包したエージェントに対し、例えばチャットや他のエージェントからのプロンプトで指示を与え、LLMがその指示に沿って外部のデータベースやWebなどを、ツールを介して検索して情報を収集。それにより何らかのアウトプットを生成するというアプリケーションの実現が求められるケースが増えている。
こうした生成AIを利用したエージェントを実装するためのフレームワークとして、新たに「Microsoft Agent Framework」が登場してきている。そこでは、AIエージェントとマルチエージェントワークフローを構築するための統一基盤を提供し、エージェント開発やテスト、デバッグをインタラクティブに支援する「DevUI」と呼ばれるツールも用意。
「このMicrosoft Agent Frameworkは、これまで皆さまが利用してきたSemantic KernelやAutoGenと呼ばれるフレームワークをベースに、それらを統合して新たに誕生したものです」と井上氏は説明する。
また、AIを活用したエージェント開発の中で、もう1つ押さえておくべきポイントといえるのが、MCPを介した外部データソースとの連携強化である。エージェントの処理では、プロンプトの取得や外部情報の参照を含め、アクセスするデータソースもさまざまで、またLLMとそれらの連携を介在するSDKやツールも異なっており、当然、実装のあり方もそれぞれに違ってくる。そういった部分を、MCPサーバーという形で公開して、より簡便にLLM側から参照することができる。
これについては、MCP用のC#のSDKが現在、パブリックプレビューとしてリリースされている状況だ。それを使うことにより、C#、.NETをベースに、MCPサーバーやクライアント側の実装がやりやすくなっている。例えばVisual Studio 2026においても、MCPサーバーを実装するためのプロジェクトテンプレートなどがすでに用意されている。
また、マイクロサービスなど複数のサービス間を連携するアプリケーションを作っていくための総合的なソフトウェアのスタックである.NET Aspireも今回アップデートされている。.NET Aspire自体、ダッシュボードを通して、各種サービス間の連携やトレース、ログの管理などを一元的に行えるものだが、それが今回新たに「Aspire 13.0」という形で登場してきている。
「.NETという表記が取れた理由は、.NETだけではなく、JavaScriptやPythonにまたがる統合的なインフラストラクチャとして、ダッシュボードを介しての管理が可能になっていることがあげられます」と井上氏は解説する。
今回のAspire 13.0では、すでに述べたMCPサーバーをサポートする機能が搭載されている点が注目される。またAspireのダッシュボードの中から「GitHub Copilot Chat」を利用して、MCPサーバーを経由したログを分析するといったことも可能。したがって、何らかの不具合対応において、ログを分析しながらバグを検証して、ソースコードをアップデートしていきたいといった場面で大きな威力を発揮することになる。
このように.NET 10およびVisual Studio 2026を使うことで、例えばアプリケーションへの生成AI機能の搭載など、開発者はさまざまな新たな価値を享受できる。そこで問題となるのが、既存のレガシーなアプリケーションをいかにモダナイズしていくかということだ。
「例えば既存資産の依存関係が非常に複雑になっている、呼び出しているAPIがすでに廃止されている、あるいはそもそも規模が大きいプロジェクトをリファクタリングしなければならないといったこともあるでしょう。それらの対応には多大な手間と時間がかかりますが、セキュリティやパフォーマンスの観点からは、やはり最新バージョンにアップデートすることが得策です」と井上氏は語る。
そうした.NETのアプリケーションのモダナイゼーションを支援しているのが、「GitHub Copilot app modernization」と呼ばれる、AIを活用したエージェントだ。Copilotが既存のソースコードを多角的に分析し、より安全かつスムーズに.NETのバージョンをアップグレードするための支援を行う。
また、コードの単体テストを支援するツールとして用意されているのが「GitHub Copilot testing for .NET」である。現在はパブリックプレビュー段階で、Visual Studio 2026のインサイダービルドでのみ利用可能だが、このエージェントの活用により、Copilotがソースコードを分析して、必要なテストクラスやテスト用プロジェクト、ソースコード、ファイルを自動生成することができる。
「これにより、プログラムの品質を担保するうえで欠かせない単体テストの実施に要していた膨大な労力を削減することができるわけです。ぜひ、お試しいただければと思います」と井上氏は言う。
以上のように現在、最も注目される技術である生成AIの機能をアプリケーションに実装する、あるいはアプリケーション開発のプロセスでAIを活用して大幅な効率化を図るといった観点でも、.NET 10/Visual Studio 2026がもたらす開発環境は、まさに大きく進化を遂げている。現在利用している環境を、いち早くアップデートしていくことが、多大なメリットをもたらすことになるわけだ。
プロンプトによる指示を受けたLLMが、データベースやWebなど外部の各種データソースを参照するにあたり、MCPサーバーを公開して、LLM側からのアクセスをより簡便に行うことができる。
AI機能を搭載することでさらに加速──ActiveReportsを使ったレポートデザイン
続く2つ目のセッションには、メシウスのDeveloper Solutions事業部 マーケティング部でプロダクトマーケティングを担当する米井優顕氏が登壇。「AIで加速するレポートデザイン:ActiveReports for .NET 次期バージョン先行紹介」と銘打つ講演を行った。
ActiveReportsは、.NETアプリケーション開発における帳票機能をトータルに支援するコンポーネント製品で、企業システムの中核に位置づけられる帳票機能を効率よく、そして高品質にアプリケーションへと実装できるツールである。
セッションではまず、このActiveReportsにおける.NET 10とVisual Studio 2026への対応について紹介された。次期リリースの「ActiveReports for .NET」では、対応フレームワークに.NET 10のサポートを追加。また開発ツールとしてVisual Studio 2026に対応する。
「特に、複数のプロジェクトをまとめて管理できる新しいファイル形式であるSLNXのサポートが重要なポイントだ。従来のSLN形式も引き続き利用できるが、Visual Studio 2026からはSLNXがデフォルトとなる点に留意が必要である」と米井氏は語る。
また、Visual Studioで利用可能なレポートデザイナのサポートがActiveReports for .NETで追加される。これまで.NET Frameworkのプロジェクトでしか利用できなかったコード形式によるセクションレポートのデザインに、.NETのプロジェクトへの対応が加わることになる。
「今回の対応で、.NET Frameworkから.NETへのアップグレードも行いやすくなるものと思います。ぜひリリース後には、早々に.NET Frameworkから.NETプロジェクトへとアップグレードし、アプリケーションのモダナイズを行っていただければと考えます」と米井氏は言う。
ActiveReportsの次期リリースにおいて、特に注目されるのがAI機能の追加である。セッションではAIを活用した2つの新機能がデモを交えて紹介された。その1つめが「画像からレイアウト作成」である。文字通りこれは、用意した画像からレポートデザインが行えるというもので、AI機能であるAzure AI Document Intelligence(旧Form Recognizer)を利用して画像の解析を行い、解析結果をもとにレポートを自動生成できるというもの。「このとき必要となるAzure AI Document IntelligenceのAPIについては、ユーザー自身で準備する必要がある点に注意してほしい」と米井氏は指摘する。
また2つ目のAI機能は「AI表示パターン生成」である。これはAIがデータソースを解析して、レポートコンポーネントを生成するという機能。生成されるコンポーネントは、Table、Tablix、Chartの3種類である。この機能の利用には、OpenAI、Azure OpenAI、いずれかのLLMのAPIが必要で、こちらもユーザー側で準備する必要がある。
「いずれの機能もレポートデザインをこれまで以上に効率化できるので、リリース後にはぜひ活用いただければ幸いです」と米井氏は強調する。
ActiveReportsの次期リリースでは、Windows FormsやWPF、ASP.NET、ASP.NET Core、ASP.NET Core Blazorといった技術を用いた開発を、.NET 10とVisual Studio 2026の環境においてもトータルに支援する。
3つのステップで各種開発支援ツールを.NET 10/Visual Studio 2026に対応
この日、最後のセッションは、メシウスのDeveloper Solutions事業部 マーケティング部でプロダクトマーケティングを担当する氏家晋氏による「メシウス開発支援ツールの.NET 10/Visual Studio 2026 最新対応情報」と題する講演である。
そこでは、メシウスが提供する業務システム向け.NET UIコントロール製品として、Excelと互換性の高いスプレッドシートをアプリケーションに提供する「SPREAD」、入力フォーム開発を支援する「InputManPlus」、そして複数行や自由レイアウトの表画面作成と日本固有のカレンダー表示をサポートするグリッドコンポーネントセットである「MultiRowPlus」、および幅広いコンポーネントをスイート製品で提供する「ComponentOne」が、最新の.NET 10およびVisual Studio 2026にどのように対応していくのかが紹介された。
スケジュール的には、メシウスのこれら製品群における.NET 10/Visual Studio 2026への対応は、2026年から始まる予定だ。その第1弾として、1月にはComponentOneにおける.NET 10とVisual Studio 2026への対応を行う。「それに合わせてComponentOneでは、『FlexChart』に新しい種類のチャートとして二次等高線チャートを追加。ヒートマップから派生したこのチャートでは、二次元データにおいてデータの大小を色分けして描画するセル形式のチャートではなく、等高線形式のスタイルで塗りつぶす形となっていることがその特徴です」と氏家氏は紹介する。
またComponentOneの「FlexGrid」では、チェックボックスによる行の選択が追加され、行ヘッダーにあるチェックボックスのオン/オフで、行の選択/選択解除が実行できるようになる。すべての行を一括で選択あるいは選択解除することも可能である。
続く2月〜3月には、第2弾としてSPREAD、InputManPlus、MultiRowPlusにおける、.NET 10/Visual Studio 2026への対応がそれぞれ行われることになる。そして、2026年3月以降には第3弾として、Excelファイルを生成・更新するための「DioDocs for Excel」と、PDFファイルを生成・更新するための「DioDocs for PDF」という2つのAPIライブラリで構成される「DioDocs」、および先ほどの米井氏のセッションでも紹介された帳票コンポーネントであるActiveReportsがそれぞれ.NET 10とVisual Studio 2026に対応していく予定だ。
「なお、これら新製品へのバージョンアップについては、保守サービスの契約期間中であれば、別途費用を要することなく実施が可能なので、ぜひ速やかな移行を検討いただければと思います」と氏家氏は述べる。移行方法の詳細については、各製品のヘルプのほか、Webで公開される移行ガイドにも手順が記載される予定だ。また、各製品の情報ページやナレッジベース、ブログ記事においても随時情報提供がなされるので、そちらも常々参照しておくことが望ましいといえるだろう。
2026年1月からの第1弾では、ComponentOneにかかわる.NET 10とVisual Studio 2026への対応を実施。続く2月〜3月には、第2弾としてSPREAD、InputManPlus、MultiRowPlusでの対応をそれぞれ行ったのち、3月以降には第3弾としてDioDocs、ActiveReportsにおける対応が予定されている(※イベント開催時点の情報)。
氏家氏による最終セッションの終了後、イベントでは受講者からの質問に講演者が答える質疑応答の時間が設けられた。以下、そこでの主なやり取りについて、井上氏への質問を中心に、簡単に触れておきたい。
1つ目は「現在.NET Framework 4.8.1で開発したクライアント・サーバーの、Visual Basicで記述された基幹システムを運用している。これをC#を使って.NET 10用にアップグレードしたいと思うが、そもそも巨大なシステムでもあり、一気にアップデートすることが困難。順次アップデートしていければと考えているところだが、それに当たってのノウハウ等があれば聞かせてほしい」という質問だ。
この質問に対し井上氏は、「お手元のシステムのアプリケーション構成にもよるので、端的に回答することは難しい」と前置きしながら、「仮にクライアント側のアプリケーションがWindows FormsやWPFなどWindowsベースのものであれば、その部分だけを.NET 10にアップグレードするということも考えられます。そうした形で、部分ごとにアップグレードできそうなところから始めるというアプローチもあるでしょう」と回答。
また、「.NET Framework 4.8もまだまだサポートは継続されるので、順次アップデートをするという観点では、ランタイムであるフレームワークの部分を.NET 10に変える前に、まずはVisual Basicのところの言語の部分だけを、.NET Framework 4.8のままC#に変えていくというパターンも考えられます」と付け加えた。
特にクライアント部分については、Visual Basicのままランタイムだけを変えることもできるので、そのあたりの構成をよく検討して、どこから着手していくべきか最適なアプローチを調査してほしいとアドバイスした。
2つ目の質問は「Visual Studio 2026でGitHub Copilotを使って、.NETプログラムの保守開発をする際に、既存の.NETのプログラムソースがCopilotによって学習されるのか」というもの。質問者は、プライベートにプログラム開発を行いたいという意向である。
この質問にも井上氏が対応。「そのあたりについては、お客様がお使いのGitHub Copilotのプランによって多少変わってきます」と語り、例えば「Free」や「Pro」といった個人向け契約では、基本的には学習されることがあるものの、明示的にソースコードが学習されないようにするための設定項目が用意されている。それを確認して、適正に設定することがポイントになってくるという。
さらに「より安全にコード資産を守りつつ、GitHub Copilotを使いたいというケースでは、ビジネス上での利用を前提とした『Business』『Enterprise』という2種類の契約プランが用意されています。そちらの契約では、皆様のコードが基本的にはしっかりと保護され、学習には用いられません。そうした観点でプランを見直していただければと思います」と井上氏は付け加える。
3つ目の質問は、「バイブコーディングやAI駆動開発といったキーワードで、GitHub Copilotなど生成AIをコーディングに利活用していく方向性が現在、顕著なトレンドになっていこうとしています。そうした中で、Visual Studioにおいてもバイブコーディングの実践は可能でしょうか」というものだ。
これに対し井上氏は、「Visual Studio 2026の中でも、GitHub Copilotを活用してバイブコーディングを行うことは十分に可能です。例えば、本日紹介したように、テストやデバッグ、あるいはプロファイリングを生成AIによりサポートするエージェントも登場してきているので、それらをうまく活用しながら進めていっていただければと思います」と応対する。
ただ、それに当たっての留意点にも言及。「もっとも、そういったエージェントが生成するコードが100%正しいというわけではありません。当然、それをベースに開発者自身がコーディングをしていかなければならないケースも出てくるはずです。要は、全てを生成AIに委ねるのではなく、人手による作業もうまく融合しながらコーディングを効率化していっていただければと考えます」と井上氏は強調する。
すでに700万人を超える月間アクティブユーザーを擁し、オープンソースの開発コミュニティには6万8,000人超のコントリビューターが参加している.NETの世界。常に進化を遂げるその最新技術動向をしっかりとキャッチアップしながら、既存資産のメンテナンスや新規開発において、この技術を適切に活かしていくことが肝要だ。今回の「ECHO 2025」ではまさに、それに当たっての指針となる有益な情報の数々が提供されたものといえる。

