失敗の上にしか成功はない! ベテランエンジニアが失敗を語る理由
ソフトウェア開発に向き合い続けて30年。コニカミノルタのセンシング事業本部 開発部でソフトウェアリーダーや技術者の育成に取り組んできた出石聡史氏が、デブサミ2026の壇上で語ったのは技術でも手法でもなく、これまで業務において積み重ねてきた「失敗」だった。
出石氏はこれまで『ソフトウェア開発現場の「失敗」集めてみた。 42の失敗事例で学ぶチーム開発のうまい進めかた』『エンジニア育成現場の「失敗」集めてみた。 42の失敗事例で学ぶマネジメントのうまい進めかた』という、自身の失敗事例を集めた2冊の著書を執筆。よく通うレストランのオーナーシェフとも「人間、成功か失敗の2択ではなく、たくさんの失敗の上に成功がある」という話で盛り上がり、失敗事例を集めた書籍執筆の強いモチベーションになった。
もちろん、失敗だけでは会社が立ち行かなくなってしまう。出石氏は自身の失敗について、「ぜひ若手技術者の皆さんに活かしていただきたい。特に失敗から漂う『悪いにおい』を感じられるようになってほしいです」と自身の思いを述べる。プロジェクトとは本質的に「未解決の課題を、設定した期限までに解決するもの」であり、一直線に成功することなど不可能だ。必ずどこかでつまずいてしまう。だからこそ、「そこからどうやって立ち上がっていくか」が重要となる。
出石氏はまず、良いチームが技術人材を育て、そして良いチームとは早く失敗でき、失敗から学んで成長できる環境を持つチームだという信念のもと、「良いソフト開発チームの6つの要素」を整理。それが目標・役割・オープン・学び・安心・特別感の6つだ。
出石氏は「これは私が勝手に言っているだけで研究成果ではありません。良いとこだけ取り入れてもらえれば」と謙遜するが、言葉の裏には、この6つの要素それぞれでリーダーとして失敗してきた重い経験知がある。
リーダーの「やっているつもり」が、静かにチームを壊していく
6つの要素それぞれについて、出石氏は「ついやってしまった失敗」を挙げた。目標については「成果がはっきりしない、ほんわかした目標設定」。役割については「権限を持たせない、人間将棋の駒」。オープンに関しては「ダメになるまで報告しない、しなびたホウレンソウ」。学びについては「失敗の経験を与えない、一流技術者のメッキ」。安心については「悪いのは部下だ、という吊るし上げ文化」。そして特別感については「チームでひとりぼっちになる、疎結合配属」だ。
いずれも、リーダー側がある程度「やっているつもり」である点が厄介だ。目標を設定しているはずが、対立を避けるためにあいまいなものになる。権限を委譲しているつもりが、実態は作業をただ指示するだけで自由になるリソースを与えず、しかも「何のためにやるのか」という目的を伝えていない。こういった「見えにくい失敗」のパターンが、チームを少しずつ、しかし確実に蝕んでいく。
最初に言及されたのは、目標設定の失敗だ。「リーダーの仕事として1番辛いのは人事評価です」と出石氏が言うように、部下に厳しい評価をつければ面談でバトルが始まり、全員に高い評価をつければ上司から「なぜ全員そんなに高評価なんだ」と追及される。その板挟みを避けようと、ほんわかした目標を設定してしまうのである。例えば「ハードウェアを開発する」といった、どこまでやればOKかわからない、あいまいな目標を設定して、期末の雰囲気で評価するといったものだ。リーダー自身が部下の成果のエビデンスを示せなくなるだけでなく、部下側にも「ちゃんとやったのに」という不満だけを残す。
解決策は明快だ。どこまでできたらOKとするのかを最初に明確にし、できれば測定可能な目標にしておく。「『こういう目標にしようよ』という相談に時間をかけることが大事です」と出石氏。しかし、目標設定を正しくしても根深い失敗が存在する。それは権限委譲という、多くのリーダーが「問題なくできている」と思いこみがちな領域に潜んでいた。
