「なぜやるのか」が伝わらない指示が、チームメンバーを単なる「駒」に変える
役割と権限委譲の失敗は、より根本的な部分に起因する。出石氏が「なんちゃって権限委譲」と呼ぶのは、仕事を与えているつもりが実態は作業指示に過ぎず、目的も裁量も与えられていない「駒」になっている状態のことだ。
「仕事だけ与えられて責任を取らされる。仕事だけ与えられて時間がない。『金曜日の夕方までにやっておいてね』『いやいや、今日金曜日ですよ!』という話ですよね」と出石氏は苦笑しながら振り返る。また、新人に学習を兼ねて社内ツールを作らせる際も、「これを作ってね」という指示だけを出した結果、何度も作り直しが発生。原因はシンプルで「何のために、なぜ作るのかが伝わっていなかった」からだ。
出石氏は「ソフトウェア人材は、世の中の課題を解決するための業務をしています。ソフトはその手段に過ぎません。それを伝えずに作業指示だけしていては、必要なものは出来上がりません」と語る。さらには目的を告げず作業だけを指示し続けると、「キャリア成長が望めない」「仕事の内容とミスマッチ」といった理由でZ世代のエンジニアが辞めていく事態につながるとも指摘した。
「作業を与えるのではなく、きちんと目的のある目標を設定し、そのために必要な支援を行い、メンバーそれぞれの役割に応じた権限委譲をする。当たり前のことですが、私はそれができていませんでいた」と出石氏は率直に認めた。
リーダー自身が先にダメになる!? 心理的安全性の意外な育て方
心理的安全性の確保について、出石氏は「リーダーの性格や会社の雰囲気次第なので正解はないですが」と前置きしつつ、自身がやってきた方法を紹介した。
まず進捗会議では自分が一番遅れているため、「ごめん。俺、今週自分の作業がまったく進んでないんだ」と先に話してからメンバーの話を聞く。すると「ダメですね先輩」といった雑談になり、「最近他部署からの依頼も多いよね」と話が転がっていく。リーダーが自分の遅れを話すことで、メンバーの遅れている本当の理由(他部署からの依頼増加)が見えてくるという。自分が先に「ダメになる」ことで、メンバーが報告しやすい空気が生まれるのだ。
もうひとつの取り組みが、毎週金曜日の「おやつ会」だ。「自分が食べたいおやつを持って食堂で食べているだけなんですが、通りかかる人をとにかく捕まえておやつを食べさせていました」と出石氏は笑う。コロナ禍に入社してリモート勤務だった社員たちが「初めまして」と自己紹介し合い、業務上の課題解決につながる情報交換が生まれることもあった。「人間、『ここでは生きていける』と感じることが大事。食べ物をもらえるということは、『ここでは殺されない』ことを意味します」という出石氏の言葉には、心理的安全性の本質が凝縮されている。以前にあったタバコ部屋のような感覚を、おやつ会で再現した形だ。
この「リーダーが先にダメになる」姿勢と「おやつでつながる」仕掛けが照らし出しているのは、チームが機能する条件とはリーダーの肩書や手法ではなく、人と人との関係性にあるという事実を示している。
