ソフトウェアの品質は、コミュニケーションの質で決まる
出石氏は「ソフトウェア開発における問題の原因のほとんどが、コミュニケーションに関することです」と断言する。チームの人間関係が良くなければ、ソフトの品質も良くならない。部署が技術ごとに分かれている企業では、部署の切れ目と製品の切れ目がリンクして品質問題が生じることも多い。
コロナ禍に中途採用で入社したエンジニアをチームに配属した際、リモートで業務だけを与えて放置してしまったという苦い経験をした出石氏。そのエンジニアが1カ月間、孤独に考え続けて提出した成果物は、すでに社内で検討済みの内容だった。「誰に聞けばいいかもわからず、聞けば1日で終わることが1カ月かかってしまった」。孤立感と無力感がいかにエンジニアを蝕むかを、出石氏は痛感したという。
「仲良しチームじゃダメだ、もっとやり合え」と上司に言われたこともあったが、出石氏の答えは「仲良しでいい」だった。仲良しになるほど「面白い技術を見つけたよ」「生産部のキーパーソンが変わったらしいよ」という情報が自然に流れてくる。さらには全員で半休を取得し、万博公園でバーベキューをするという「みんなが働いている中ビールを飲む」という小さな悪の共犯者体験が、チームの結合を高めた。ただしチーム外との断絶が大きくなるリスクには注意が必要と出石氏は少し冗談交じりに補足した。
また出石氏は、今年5月に発売された3冊目の著書『ソフトウェア受託現場の「失敗」集めてみた。 42の失敗事例で学ぶ受託開発のうまい進めかた』のテーマである、「委託開発における失敗」も紹介。年単位の遅延、億単位の予算超過、崩れたアーキテクチャ……これらすべての根本原因も「コミュニケーション不足」だったと振り返る。特にオフショア開発は難易度が高く、「仕様書に書かれていないことや曖昧なことは、最も楽な形で実装されます。当たり前は万国共通ではないのです。仕様というのは必ず間違って伝わるという前提で、アジャイル的に反復しながらギャップを小さくしていくしかありません」と出石氏は語る。
「人を好きであること」がリーダーにとって最も重要な資質
6つの要素、目標・役割・オープン・学び・安心・特別感を、30年かけて失敗しながら学んできた出石氏が最後にたどり着いたリーダーの資質とは何か。
「結局、人を好きであること、じゃないかなと思っています」と出石氏は静かに語る。管理職を誰にするかを決める際に最も重視するのも、その人が人を好きかどうかだという。「部下にも一人ひとりの人生があります。こんな人になりたい、こういうキャリアを描いていきたい、といった思いを大事にしながら、チームとしての成果を出していく。人を好きであることがベースにないと、そこに目がいかないのです」。
「チームメンバーそれぞれが楽しく生きることで、結果として良い製品が生まれる」。出石氏はセッションをその言葉で締めくくった。
