バイオハッキングとは
ハッカーの中には、バイオハッカーと呼ばれる人たちがいます。多くのハッカーはテクノロジーを使ってソフトウェアやハードウェアをいじくっているわけですが、バイオハッカーは、テクノロジーを使って生き物をいじっているハッカーです。苔をコントロールして何かしら絵や文字を描かせるアート的な表現活動や、企業や研究者がやっているようにDNAを解析したりしています。
コンピュータが大企業や政府しか使えなかった時代から、小規模な研究室や個人でも使える時代になるにつれて、ハッカーという人種が生まれました。
DNAやタンパク質の解析、合成などの装置も以前に比べると安くなり、インターネットを使った知識のシェアも進んだことで、かつては製薬会社や研究機関でしか行いづらかった生物を対象にしたハックが、個人でもできるようになっています。3Dプリンタのような工作機械の発展もバイオハッキングを後押しし、日本の鳥人間株式会社は「誰でも遺伝子組み換えができる時代を」と考え、オープンソースのDNA増幅器NinjaPCRを開発しています。
パリには、750m2のスペースを誇る、世界でも最大級のバイオハッキングスペースがあります。今日はパリのバイオハッカーたちのお話です。
バイオハッキングの流れは、パソコン黎明期に似ている
前回紹介したBlackboxeを訪問したとき、ほかにもHackerspace Wikiをたよりにパリのハッカー達に声をかけたのですが、「今まさにハッカースペースを作っている最中なんだ」とコンタクトしてくれた人がいました。
彼はThomas Landrain(以下トーマス)。La Paillasseというハッカースペースの創業者です。La Paillasseというのは「道化師」という意味で、こういう名前をつけるところもパリジャンっぽい気がしています。
彼のトークでは、「今のバイオハッキングは、1980年代に、IBMのような巨大企業しかコンピュータを作れなかった時代から、スティーブたちがガレージでパーソナルコンピュータを作れるようになった時代の流れに似ている。今ちょうど、まさにムーブメントが立ち上がるところにあって、世界のいろいろなガレージで”最初のバイオハッキング”が行われている」と語られています。
トーマスの専攻は合成生物学。DNAをいじって、狙い通りの作物を作る技術の専門家です。自分自身が研究するだけでなく、この新しいハッカースペースの創業者でもあり、バイオベンチャーのためのシードアクセラレーター、Axlr8rのメンターの一人でもあります。
バイオハッキングは、コンピュータをいじるハッカーたちが生き物に目を向けたことによるムーブメントで、ハッカーの哲学に大きく影響を受けています。何よりも楽しみのためにハックを行い、成果をWebにアップし、オープンソース化し、互いに共有して楽しみを大きくすることを好みます。