AI(人工知能)の全体像――その歴史と現状、今後の展望
スピーカ-:株式会社KDDI総研 リサーチフェロー 小林 雅一氏
「AI(人工知能)」の歴史を振り返ってみよう。初期のAIは1960年代前後、基本的にはルールベースで処理をしていた。しかし柔軟性に欠け、また処理性能などの課題があり、動きは一時停滞する。1980年代には統計学的なアプローチが始まる。IBMであればスーパーコンピュータ「ディープブルー」があり、チェスの世界王者との対戦で勝利するという成果を挙げるようになる。人工知能は人間と対峙するようになるものの、小林氏は「人間の考え方とは異なるアプローチをしている」と指摘する。ただし、今後は「脳科学を採り入れたアプローチで進む」(小林氏)のだという。
現実に目を向けてみよう。ハードウェアの進化で演算や記憶のコストは低下しているため、近年ではさまざまな形でコンピュータを採り入れた製品が出てきている。スマートなテレビや掃除ロボットなどだ。人工知能の技術が進むことにより悲観的な見方もあるものの、小林氏は「見慣れた製品が生まれ変わり、既存の産業を活性化させる可能性を秘めている」と前向きな視点もあることを指摘する。
例えば自動車。各社が人工知能技術を採り入れて自動運転を実現しようとしており、そこには主導権争いも起きている。IT企業は「革命的な製品」、既存の自動車メーカーは「ドライバー支援システム」とスタンスが異なる。
自動車の自動運転で考えると、多数のセンサーから集めたデータを車内で処理して動きを制御する。スマートフォンやロボットを通じた質問応答であれば処理の一部をクラウド側のサーバーで実行することもあるが、自動車の場合は事情が異なる。常に通信できるとは限らず、遅延が起きれば致命的なことになるためだ。
自動運転の処理をおおまかに見ると、まず目的地を設定、現在地を把握、周囲の状態を把握、動きを制御する、などの順で処理を進める。ポイントとなるのが周囲を走行している車や通行人や障害物など、周囲の状態を把握するところ。今のところ、ここには条件付き確率論のベイズ理論と計測の繰り返しにより精度を高めている。
しかし、現実の自動車運転では統計学的には「ありえない」ような状況も起こりうる。例えば、前の車が突然減速して車間距離が縮まることがある。これは「ファットテール現象(問題)」ともいわれ、検知が遅れたらあわやの事態である。機械学習の手法の1つとして「ディープラーニング」があるが、こうした現実の課題を対処する技術として注目されるようになってきていると、小林氏はいう。
自動車以外、例えばロボットで考えてみると、これまでは動きを制御するのが精いっぱいで動作が遅く、実用的にはほど遠かった。しかし「近年、プロセッサの進化などで技術的なブレイクスルーがあり、成果が出始めている」(小林氏)。今後さらに多方面で発展していくことが期待されているとして、小林氏はセッションを終えた。