中村教授はW3Cの活動とWebが目指す未来について。及川氏は、検索からソーシャル・モバイルへと変わりつつあるWebブラウザの今後について、それぞれのセッションを行った。なお、及川氏は、マイクロソフトではIEの開発を、GoogleではChromeのエンジニアリングマネージャを担当している。
Webは世界中を網羅した分散OSだ
中村教授の話は、HDR(ハイダイナミックレンジ合成)から始まった。HDRは、自然界のコントラストをカメラやディスプレイの世界で実現しようとする技術。さまざまな露出で取り込んだイメージを、ピクセルごとに輝度を変え記録・表示することで、より自然な画像を再現しようというものだ。
NetflixがHDR対応動画の配信を始めるなど、「これは映画の世界だけの話ではないのではないか」と中村教授はいう。Webブラウザやアプリでも、これまでの24ビットカラー以外の情報を扱えるようにすべきであり、Webは、HDRのような新しい技術にも対応していく必要があるという。
これまでも、HTMLはハイパーメディア技術として、テキスト、映像、音声などに対応してきたが、どちらかというと既存の文化や、紙などの既存のメディアにとらわれているきらいがあった。IT業界では、ビッグデータ、AI、IoTが注目されているが、WebやHTMLもこれらの技術に対応すれば、Web開発者がアプリを介して、自動運転、ロボット、VRの利用を広げることができる。
インターネットがITの基盤であるなら、Webはその上で動作するOSのような存在と位置付けることができる。しかも、世界中に計算資源が分散している大規模な分散OSである。インターネット上に世界中のサーバーやPC、スマートフォンがつながり、IoTではカメラ、センサー、ロボット、自動車などもつながっている。これらの計算資源を、WebはHTTP(HTTPS)、HTML、APIによってユーザーやWebアプリが使えるように管理している。
この考えの元、W3Cでは各種の技術部会(IG/WG)でWebの拡張について研究活動を展開している。中村教授によれば、例えば、HybridcastやHbbTV 2.0などのテレビ関連技術のHTML5対応が研究され、IVI(車載インフォテインメント;車載の情報と娯楽の両方を提供するシステム)や自動車内の情報端末がHTML5をしゃべり、電子書籍やブロックチェーンもW3Cの中でどのように対応していくかが議論されているそうだ。
自動車のインパネはタブレットになり、そのブラウザが自動車と通信し、メータ情報、カーナビの情報、Webコンテンツを表示するようになるだろう。ブロックチェーンは、中央機構を持たない分散システムで信用・認証を与える技術であり、オープンかつ分散環境のWebでこそ発展し力を発揮する。
このように、あらゆるサービスやアプリがWebによってつながる「WoT:Web of Things」の世界は確実にやってくると中村教授は断言する。
W3Cでは、WoT実現のため、センサーデバイス、カメラ、自動車やロボットとHTMLで会話する必要があるとして「WoT Servient」というアーキテクチャを提唱している。WoT Servient(サービエント)は、物理デバイス、Webサーバー、Webクライアントそれぞれの入出力を持つ一種のゲートウェイだ。Webアプリケーションは、このゲートウェイ(ホームゲートウェイのようなアプライアンスが想定されている)を介してIoTデバイス、Webサーバー/クライアント、別のサービエントと通信する。
最後に中村教授は「Webとインターネットの共通哲学はオープンで平等であると。これを基準に、Webはさまざまなデバイス向けのAPI、セキュリティ強化、クライアント/サーバーモデルの拡張を進めていく」とした。