4. 量子コンピュータのアプリケーション開発の現状
以上で、日本および海外の量子コンピュータ開発動向を解説しました。ここで気になる「実際、量子コンピュータって何に使えるの?」という疑問にお答えしておきましょう……といっても、これは今ホットな話題で、未だ「よくわかっていない」というのが現状です。
量子ゲート方式のソフトウェア、アプリケーションについてはまだまだなので、すでに検討が進んでいる量子アニーリング方式のアプリケーションについて、すでに検討されているものをまとめたのが以下の表です。

もちろん“基礎検討の段階”であり、上記の論文には、量子アニーリングが使えそうだ(古典コンピュータに対して飛躍的に性能向上が可能そうだ)という趣旨の結論もそうでない結論もあります。D-Waveマシンのハードウェア的な制約(量子ビット数、結合数、結合荷重設定レンジ、コヒーレンス時間など)の課題が明らかにされてきており、今後これらの課題を克服する方向に開発が進められると思います。
この表では、論文タイトルの後に報告元を記載していますが、ほとんどが1QBitとなっています。1QBitは、ここ数年で精力的にD-Waveマシンを使ったアプリケーション検討を進めている代表的な企業であり、ホームページに論文などの資料を公開しています。
機械学習や最適化問題が多いですが、素因数分解などの興味深い検討結果もあり、ビジネスのヒントが隠されている可能性も十分にあると思います。「実際量子コンピュータって何に使えるの?」という疑問への現時点での答は、「上の表にヒントが隠されているのでは?」ということです。
5. 量子コンピュータのユーザー目線
最後に、「ITエンジニアのための量子コンピュータ入門」の趣旨に基づき、量子コンピュータを利用するユーザーの立場で考えてみます。
ユーザーの立場からは、「量子かどうか」や「量子スプレマシーが実証されたかどうか」は関係ないでしょう。重要なのは、「これまで解けなかった問題がいかに高速に解けるようになったか」です。そして、非ノイマン型チップや量子アニーリング、その先の量子シミュレーションや量子ゲート方式の量子コンピュータが、「どういった使い方をすれば、どれだけの性能が出るのか」を理解しておくことが最も重要です。
だからこそ、量子コンピュータのことを今から勉強して知っておくことは重要です。もう、「実用化はまだまだ」「時期尚早」とは言っていられない状況となりました。巨大IT企業や国が真剣に投資し始めているのです。では、何からやればよいのでしょうか? 量子コンピュータの理論に使われる「量子力学」や「線形代数」を一から勉強するのも一つの方法ですが、「手を動かしたい」方は、まずIBM Qをクラウドで使ってみる、量子モンテカルロ法(QMC)による量子アニーリング(量子アニーリングを古典コンピュータでシミュレートする)、上にあげた量子アニーリングのアプリケーションに関する論文を実装してみる、などがあります。そして、ビジネスのチャンスになるようなアプリケーションを探索すれば良いのです。
キラーアプリケーションを見つけることができれば、全く新しい世界が開けます。そして、それができるのは現場で日々問題にぶち当たっているITエンジニアの方々です。量子コンピュータに関するさまざまなニュースにより過度に期待したり、暗号が解読されてしまうことを恐れたりするよりも、量子コンピュータのキラーアプリケーションを見つけることが、今やるべきことだと筆者は思います。
次回は、IBM Qに続いて日本でもクラウド利用できるようになる予定のコヒーレントイジングマシンについての解説をします。
参考文献
- 阿部英介、伊藤公平「固体量子情報デバイスの現状と将来展望 - 万能ディジタル量子コンピュータの実現に向けて」応用物理 第86巻 第6号(2017)p.453
- C.R.モンロー、R.J.ショルコフ、M.D.ルーキン「量子コンピューター - 難関を突破するモジュール量子計算」日経サイエンス 2016年8月号
- 量子アニーリング by 西森 秀稔
