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ITエンジニアのための量子コンピュータ入門

量子コンピュータがビジネスに役立つ!? 日本と海外の量子コンピュータ開発動向

ITエンジニアのための量子コンピュータ入門 第3回

3. 海外の量子コンピュータ開発動向

 さて、量子コンピュータがビジネスになるかもしれないということで、まずは量子コンピュータ開発動向の大枠を知っておきましょう。世界の量子コンピュータ開発をしている代表的な企業のリストを示します。

 この表から最初に分かることは、Google、IBM、Microsoft、Intelなど、有名大企業が名を連ねていることです。これらの巨大IT企業は、量子コンピュータにかなりの投資をし始めているようです。そして、活動内容を見ると、上で述べた量子アニーリング方式の他、量子ゲート方式の開発が多数を占めていることが分かります。

 一方、量子アニーリングのソフトウェア開発を行っている企業も多くみられます。やはり量子アニーリングに多くの企業が参入しており、実用化をねらっていることが分かります。量子アニーリングはここ数年のアプリケーション開発によって、使えるかどうかが決まってくる状況なのです(ここでいうアプリケーション開発とは、 従来解けなかった問題を量子アニーリングを使って解けるようにするソフトウェアの開発のこと)。

 また、実装方法の欄には、量子ビットのタイプを記載しています。トランズモンと呼ばれるタイプの超電導量子ビットがもっとも多いですが、Microsoftはマヨラナフェルミオンと呼ばれるタイプ、Intelはトランズモンだけでなくこれまで培ってきたシリコンを使ったタイプと、独自の方法を開発している企業もあります。IonQは、メリーランド大学発ベンチャーであり、イオントラップと呼ばれる手法での量子コンピュータ開発をしています。このように、未だ量子コンピュータの実現方法に確立した方法は存在しておらず、群雄割拠、各企業がしのぎを削っている、まさに「黎明期」といえる状況です。

 それぞれの企業の最近の活動を見ていくと、まず、D-Wave Systemsは、2000量子ビットを有するD-Wave2000QTM Systemを開発し2017年1月に商用化しました。一台17億円で絶賛発売中です。

 Googleは、唯一量子アニーリング方式と量子ゲート方式の2つを同時にやっており、超電導量子ビットの権威であるJ.Multinisの研究グループを丸ごと引き抜いて、D-Waveマシンの検討、新たな量子アニーリングマシンの開発、それに加えて量子ゲート方式の研究開発を行っています。すでに22量子ビットの開発を行っており、近いうちに50量子ビット程度を実現する可能性があります。ここまでくると、古典コンピュータに対する優位性(量子超越性、量子スプレマシーと呼ばれる[3])を示すことができる可能性があり注目されています。

 また、IBMは、量子ゲート方式一本で、現在5量子ビットおよび16量子ビットの量子コンピュータをクラウド上で一般に公開し、誰でもお試し利用ができるIBM Q Experienceというサービスを行っています。これは、量子ゲートモデルの計算を、実機を使いながら勉強・研究することができるという画期的なサービスで、近くGoogleもクラウド公開するといわれています。

 Rigetti Computingは、元IBMの研究員であったC.Rigettiのベンチャー企業で、8量子ビットのチップ開発やソフトウェア開発を行っており注目を集めています。さらに、Microsoftは、半導体ナノワイヤを使った「マヨラナフェルミオン」と呼ばれる準粒子を用いて「トポロジカル量子計算」と呼ばれる量子計算を行うことをめざしており、オランダのデルフト工科大学と共に基礎研究を進めています。

 D-Wave Systems、Google、IBM、Rigetti Computing、Microsoftはそれぞれソフト開発やプログラミング言語、シミュレータの開発も行っています。D-Wave Systemsは1QBit(1QB Information Technologies)やNASA、Googleと量子アニーリングのソフト開発、アプリケーション開発を積極的に行っており、これについては次のページで紹介します。また、Microsoftは、量子コンピュータ用プログラミング言語を開発していることを公表しており、近くシミュレータなどが公開される可能性があります。

[3] 量子スプレマシー

 「量子コンピュータが古典コンピュータを本質的に超えられる」ことを示すのが、量子ゲート方式での当面の目標であり、各社がこの「量子スプレマシー」の実験的な検証をめざしている。これが検証されると、さらに量子コンピュータの開発競争が加速する可能性がある。

 続いて、Intelは、シリコンCMOSの微細加工技術を駆使して量子ドットを作成し、スピン型と呼ばれる量子コンピュータの開発を、これもデルフト工科大学と共に行っています。IonQはイオントラップと呼ばれる、文字通りイオンを電磁場によりトラップすることで量子ビットを作る方法による量子コンピュータ開発を行っており、上記の超電導型、トポロジカル量子計算型、シリコン/スピン型と共に、量子コンピュータ実現方式の候補として期待されています。

 以上がハードウェアの開発状況ですが、続いてソフトウェアについて解説しましょう。アプリケーション・ソフトウェアの面では量子アニーリングの開発が数年前から進んでいます。1QBit、QC Wareは量子アニーリング用アルゴリズムを開発しており、特に1QBitの開発状況の一部は、1QBitのホームページで公開されており、論文などを見ることもできます。

 これらの企業は、「いかにして現実の問題をD-Waveマシンで解けるようにするか」を研究しており、後述するようにいくつかの応用例が示されています。また、航空機のLockheed Martinは、D-Waveマシンを初期に購入しており航空機の制御ソフトのバク検出などに利用することをめざし、南カリフォルニア大学と共同で研究を行っているとみられます。自動車のVolkswagenは、D-Waveマシンをクラウド利用して、交通流最適化の基礎研究をしていることを明らかにしました。

 以上が、量子コンピュータ開発の主な海外動向です。日本では、NTTがImPACTプロジェクトでCIMの開発を行っており注目されています。これについては次回詳しく解説します。

次のページ
4. 量子コンピュータのアプリケーション開発の現状

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この記事の著者

宇津木 健(ウツギ タケル)

 「量子情報勉強会」主催。東京工業大学大学院物理情報システム専攻卒業後、メーカーの研究所にて光学関係の研究開発を行っています。 また、中野付近でお芝居をしています! Twitter:@utsugitakeru

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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