2. 量子コンピュータの開発ロードマップ
量子コンピュータの位置付けのイメージを以下に図示してみました。
まず、前提として、現在我々が使っている普通のコンピュータ(古典コンピュータ)が量子コンピュータの登場により完全に置き換わることはありません。これからも性能が向上していくことでしょう。
しかし、古典コンピュータの性能が向上していったとしても、組み合わせ最適化や大規模シミュレーションなどのどうしても解けない問題は解けないままです。特に、機械学習が発展してくると、こういった問題を解く需要はますます増していきます。
そこで、こういった古典コンピュータで解けない「特定の問題」を解くため、現在「非ノイマン型チップ[1]」が開発され、実用化され始めています。上記した日立製作所の「CMOSアニーリング」、富士通の「デジタルアニーラ」だけでなく、深層学習専用プロセッサである、IBMの「TrueNorth」、Googleの「TPU」、富士通の「DLU」、東芝の「TDNN」など、その他、Apple、Intel、Huawei、NVIDIAなどでも開発している、「メモリ+CPU」という普通のコンピュータのノイマン型アーキテクチャとは異なるアーキテクチャの計算機が、特定の高速化を目的としたアクセラレータとして開発されています。GPGPU(GPUによる汎用計算)はこの流れの先駆けともいえます。
[1] ノイマン型アーキテクチャ
現在最も普及しているコンピュータのアーキテクチャのこと。「プログラム内蔵」方式であり、「CPU(Central Processing Unit)」「メモリ」とそれらをつなぐ「バス」で構成される。
1945年に天才数学者ジョン・フォン・ノイマン(John Von Neumann)が発表したレポートで広く知られるようになった。なお、実際にはエッカート(Eckert)とモークリー(Mauckly)が考案し、ノイマンが数学的に発展させたらしい。『エニアック―世界最初のコンピュータ開発秘話(パーソナルメディア)』に詳しい。
さて、このGPGPU、非ノイマン型チップに並んで登場したのが、量子アニーリングやCIMなどの技術です。ここ数年でソフトウェア、アプリケーションが開発されてきており、「本当に使えるのか?」が問われている状況で、今後数年でこの問いに対する答えが出るものと思われます。量子アニーリングのアプリケーションについては、本記事の後半で詳しく解説します。
そして、その次に量子シミュレーションができるようになるのではと期待されています。文部科学省のロードマップでもこの点が重要視されており、創薬や新規材料探索に有用と考えられています。最近も、IBMによる6量子ビットの量子コンピュータによる量子シミュレーションに関連した論文がネイチャーに掲載されています。
量子シミュレーションのその先に、真の量子コンピュータというべきものが来ます。これは、量子コンピュータ研究の主流であり、最近では量子アニーリングとの混同を避けるために「量子ゲート方式」とも呼ばれています。この量子ゲート方式は、量子回路モデルや万能ディジタル量子コンピュータとも呼ばれ、古典コンピュータでできる計算はすべて、量子アニーリング、量子シミュレーションさえも計算できます。多くの研究者がこの量子ゲート方式の実現をめざして研究しており、後述するように、現在、数量子ビットの開発に成功しています。
以上の技術に共通する目的は、現在のコンピュータで解けない特定の問題を解く、つまり古典コンピュータを“補う”使い方であることをご理解頂けたかと思います[2]。
[2] 量子アニーリング、量子シミュレーションと量子ゲート方式
現在は、一口に「量子コンピュータ」といってもその実現方法によってさまざまなものが出てきている。それぞれ計算モデルやエラー訂正、使用目的によって使い分けられているが、開発途上のためこれらを呼び分ける定まった定義はなく国際標準を策定する動きもある。量子コンピュータと呼べるかどうかで重要なことは、「量子」かどうかであり、つまり「量子的な効果」により計算が行われているか、「古典計算機で同じことができないか」により判断される。(解説「量子スプレマシー」も参照)
