日本市場にあわせカスタマイズされたクラウド移行支援プログラム
社会のあらゆる領域で「デジタル化」が進むなか、企業には「クラウド」や「ビッグデータ」「アナリティクス」「ソーシャル」「モビリティ」といった最新のIT技術を活用しながら、新たなビジネス価値を生みだす「デジタルトランスフォーメーション」(以下、DX)の実現が求められている。
その一方で、2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」では、「2025年の崖」という表現で、日本企業におけるDXがうまく進んでいない現状に警鐘が鳴らされた。「2025年の崖」は、日本企業の多くが、DXの重要性を認識しつつも、それを思うように進められておらず、状況が変わらない場合「2025年には、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」という最悪のシナリオを指している。DXレポートでは、DXの「足かせ」となっている要因として「内部がブラックボックス化したレガシーシステム」と「IT技術者の不足」が挙げられた。同レポートによれば、国内企業の約8割が、現在もレガシーシステムを保有し、その延命に多大なITコストを投じているという。「2025年の崖」を回避するには、一刻も早くレガシーシステムから脱却し、ITインフラのクラウド化を進めると同時に、クラウドのメリットを十分に引き出せるスキルを持ったエンジニアを育成していくことが急務になっているのだ。
こうした状況を背景に、日本マイクロソフトでは、DXの推進とクラウドの活用を検討する日本企業に向けて、クラウド移行の支援プログラム「Cloud for Japan App Modernization」(以下、Cloud JAM)の展開を開始した。Cloud JAMは、同社が提供するクラウド導入フレームワーク「Microsoft Cloud Adoption Framework for Azure」の一環であり、特に日本市場に向けて内容をカスタマイズしたものだという。
DXは「目的地」ではなく将来にわたって続く「ジャーニー(旅)」
日本マイクロソフト、マーケティング&オペレーションズ クラウド&エンタープライズビジネス本部 シニアプロダクトマーケティングマネージャーのパルタサラティ ゴパラスワミ氏(以下、パルタ氏)は、Cloud JAMを通じて、日本企業の「アプリケーションイノベーション」を支援したいと語る。
「アプリケーションイノベーション」とは、企業がこれまでオンプレミスで展開してきたアプリケーションを、単にクラウド上に置き直すだけではなく、クラウドのメリットを最大限に生かしながら、より高い価値を生みだす形に変革していくことを意味しているという。
「DXがバズワード的なものになる中で、多くの日本企業がDXを目指した取り組みを行おうとしています。しかし、理解していただきたいのは、DXは企業システムのあり方の『最終地点』ではなく、将来にわたって継続的に続けられる変革や改善の取り組み、つまり『ジャーニー』であるということです」(パルタ氏)
企業がDXジャーニーに乗り出すべき根拠について、パルタ氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)がまとめた「企業のデジタル化」に関する調査結果を引用した。
この図は、グローバルで調査対象となった400を越える有名企業を「デジタル化の進行度(縦軸)」と「デジタル化に向けた経営層のリーダーシップ(横軸)」の2軸でプロットしたものだ。右上の「DIGITAL MASTERS」のグループに含まれる企業は、デジタル化が他のグループより進んでおり、その取り組みに対する経営陣のコミットも強いことを示す。重要なのは、このグループでは「収益(Revenue)」「利益率(Profitability)」「市場価値(Market Value)」のいずれもが、他のグループと比して高くなっている点だという。
「この調査結果からは、クラウド移行とアプリケーションイノベーションを、経営課題として強力に推進していくことが、コスト削減だけでなく、企業の利益に直接貢献することにつながることが分かります。このことを、特に経営者のみなさんには理解していただきたいですね」(パルタ氏)
「デベロッパーベロシティ」の強さが企業の収益にダイレクトに影響する
では、企業が「DIGITAL MASTERS」となるために、最も重要なポイントは何なのだろうか。パルタ氏は、そのカギになるのは「デベロッパーのパワー」だとする。
「DIGITAL MASTERSに属する多くの企業では、デベロッパーを増やしており、彼らが触媒(Catalyst)となって、イノベーションを促進しています。企業のデベロッパーがどれだけ活性化しているかを、マイクロソフトでは『デベロッパーベロシティ(Developer Velocity)』と呼んでいます。このベロシティが高まれば高まるほど、デベロッパーは開発部門だけでなく、業務部門、マーケティング部門、バックオフィス部門など、社内のあらゆる部分に好影響を与えます。デベロッパーが企業の収益向上に、より直接的に貢献できるようになるのです」(パルタ氏)
マイクロソフトでは、主に開発生産性を高める技術や製品の提供を通じて、企業の「デベロッパーベロシティ」の向上をサポートしているとする。統合開発環境である「Visual Studio」ファミリー、開発者コミュニティの「GitHub」、IaaS/PaaS/SaaSの全要素を備えたクラウドサービス「Microsoft Azure」、そしてビジネスユーザー向けのローコード開発プラットフォーム(注1)の「PowerApps」といったものがそうだ。
注1:ローコード開発プラットフォーム
特定の統合開発環境などを使わなくてもブラウザなどの GUI 環境にてコーディングなし、あるいはほとんどコード記述をしなくても高速にソフトウェアを開発できる環境のこと。
「2014年にサティア・ナデラがCEOに就任して以来、マイクロソフトは大幅なマインドチェンジを行いました。開発者が、マイクロソフトのプロダクト上で、.NETだけでなく、あらゆる環境向けのアプリケーションを、あらゆる言語を使って書けるように強化してきました。今では、Linux向けのシステムであっても、AzureとVisual Studioの組み合わせで、環境構築とアプリ開発、運用が可能です」(パルタ氏)
パルタ氏は、これらのツールによって「デベロッパーベロシティ」を高めつつ、「アプリケーションイノベーション」を実現していくにあたっては、具体的に以下の「4つの柱」が必要になるとする。
- 既存Webアプリのモダナイズ(Modernize web apps)
- クラウド移行に向けた既存アプリの評価(Assess Apps)
- 「クラウドネイティブ」なアプリの構築(Build cloud-native apps)
- DevOps環境の実現(DevOps)
1.は、主に顧客との接点となっている既存のアプリケーションを、スマートデバイスのような新たな情報環境へと対応させていく「モダン化」の取り組みとなる。これには、アプリケーションの稼働環境を従来のオンプレミスからクラウドへと移行していく作業も含まれる。2.は、ITインフラを、オンプレミスからクラウドへ移行していくにあたり、個々のアプリケーションの移行適性を見積もる「アセスメント」の作業となる。
3.は、ITインフラとしてクラウドを導入した後に、クラウドの柔軟性や迅速さといったメリットを最大限に引き出せるアーキテクチャに基づいて、新たなアプリを構築したり、既存のアプリを再構築したりといった段階。そして、4.の「DevOps」はクラウドをベースに、システムの迅速な開発と運用のサイクルを確立し、継続的に改善が行われ続ける体制を作っていく段階となる。パルタ氏は「企業におけるDevOps体制の確立こそが、DXジャーニーの最も強力なドライバーになる」とする。
低コストかつ短期間で企業のDXジャーニーへの旅立ちを支援する「Cloud JAM」
日本マイクロソフトが展開するクラウド移行の支援施策「Cloud JAM」は、DXの「4つの柱」の確立に取り組もうとしている企業と、そのエンジニアを強力に支援していくものになるとパルタ氏は言う。
「DIGITAL MASTERSを目指している企業から、具体的に挙がるニーズのトップ2は『すでに利用しているクラウドの使い方を最適化してコストをセーブしたい』というものと、『より多くのワークロードをオンプレミスからクラウドに移行したい』というものです。マイクロソフトでは、そうした企業にAzureのPaaSを活用していただくことで、開発からデプロイメントまでのリードタイムの半減、DevOps基盤を得ることによるDXジャーニーのドライブといったメリットを享受していただきたいと考えています」(パルタ氏)
パルタ氏によれば、オンプレミスからAzure上のPaaSに移行することで、企業はアプリケーションのリリース頻度を「13倍以上」に高められ(コンテナ型デプロイを活用)、アプリの移行に対する投資対効果も「466%」まで高められるという。
Cloud JAMでは、特にこの「オンプレミスからAzure PaaSへのマイグレーションプランニング」に焦点を当てており、希望する企業に対しては、サードパーティのアセスメントツールである「CloudPilot」のライセンスを、マイクロソフトが4週間、無償提供するという。「CloudPilot」は、UnifyCloud社が提供しているアセスメントツールだ。このツールを利用することで、企業のIT担当者は、自社で運用しているアプリケーションを評価し「このアプリをクラウドへ移行するために、どのくらいの工数やコストが必要か」の見積もりを行った上で、具体的な作業計画を立案できるという。
「まず、CloudPilotによるアセスメント通じて『クラウドに移行したいがどこから手を付ければいいか分からない』という段階を超えていただくことが重要だと考えています。このアセスメントサービスは、シンガポールやインドなどでも先行して実施しましたが、利用したお客様の約70%は、その後、実際にAzureへの移行を決めました。ちなみに、CloudPilotはサードパーティツールであり、移行先としては他社のクラウドを対象とすることも可能です。もちろん、われわれとしてはAzureを選択していただくのが一番うれしいのですが」(パルタ氏)
CloudPilotによるアセスメントは、3~4週間程度の短期間で可能なことも大きな利点だという。従来、こうしたアセスメントと移行計画の立案には4~6か月の長い期間と、高いコストがかかっていた。それを無償かつ短期間で実施できることで、早期のマイグレーション完了と、DevOps環境の確立に向けて、より多くのリソースを割けるようになるという。
Cloud JAMでは、マイグレーションプランニングや実際のAzureへのマイグレーション作業にあたっても、スペシャリストによるナレッジの提供や、PoCの資金支援など、さまざまな形で企業のクラウドジャーニー、DXジャーニーの実現を支援していくという。
「マイクロソフトは、DXを目指す企業にとって、デベロッパーベロシティの向上こそが最も強力な推進力になると考えています。道具としてのテクノロジーだけでなく、その価値を最大限に引き出し、収益に結びつけていくためのプロセスやサポートの提供を通じて、デベロッパーが直面する課題を解決し、アプリケーションイノべーションの実現を支援していきます」(パルタ氏)
日本マイクロソフトでは、クラウド活用を目指す企業向けのセミナー「Azure Training Day: Migrating Applications to the Cloud」を毎月開催しているほか、「Cloud JAM」の詳細を紹介するセミナーも11月に行うことを予定している。クラウド活用やDXの実現に課題を抱えている担当者にとって、有益な指針を得られる機会となるのではないだろうか。
関連セミナーのご案内
本稿でご紹介した、Microsoft Azureを活用したアプリケーションのクラウドへの移行方法を学べるセミナーが、2019年12月11日(水)に、日本マイクロソフトの品川本社で開催されます。参加無料です。詳しくは下記のサイトをご参照ください。
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