Keynote:Dr. Werner Vogel

4日目のKeynoteは、CTOのDr.Werner Vogel氏が登壇し、技術的な側面からのアップデートを発表しました。本イベントでキーワードとなっている「Nitro System」の全貌を解説しています。VMWareやXENといった従来の仮想化技術は、オーバヘッドが大きくVirtualization TAX(仮想化税)をユーザが支払う必要がある点が課題となっていました。特に、従来の仮想環境ではネットワークやストレージなどのI/Oを複数の仮想マシンが共有するため性能面で課題を感じていました。こうした課題を解決するためにAmazonの経験を活かしてマイクロサービスの考え方を仮想化レイヤに持ち込みました。つまり、ハイパーバイザに管理されているネットワークやストレージなどのハードウェア・コンポーネントを外出し(疎結合化)して、仮想マシンがハイパーバイザによるオーバヘッドの影響を受けないようにしたのです。
こうした変更は、長い年月をかけて少しずつ実施されてきました。Step1では、ネットワーク系のコンポーネントを切り出し、ネットワーク関連の処理をオフロードしています。

続いて、EBSの処理を切り出しています。これがC4インスタンスのアーキテクチャであり、ハイパーバイザのメインCPUを仮想マシンのネットワークやストレージのI/Oの処理に割り当てなくて済むようになりました。さらに、2015年にAWSが買収したイスラエルのチップデザイン会社であるAnnapurna Labs社の技術を活用して、ローカルストレージなどのすべてのI/Oやマネージメント、セキュリティ関連も含むハイパーバイザ以外のすべてのコントロールの外出しを実現しています。Nitro Systemにより、ジッタも大幅に改善され、ストレージレイテンシーも最大4倍改善しています。ストレージのアクセス性能はベアメタルと遜色がないレベルとアピールしていました。


Nitro Systemにより、XENハイパーバイザを管理するための仮想マシン(Dom0)をなくすことができ、これによりセキュリティリスクを大幅に改善しています。Dom0は、特別な管理権限と、すべての物理ハードウェアへのアクセス権限を持つため、Dom0の存在はセキュリティ上課題となっていました。さらに、Nitro Systemではデフォルトで全通信を暗号化しており、セキュリティ面を強化しながら性能改善も併せて実現しています。こうしたNitro Systemでは、他にもさまざまな課題に対応しており、Live Updateや異なるハイパーバイザの対応、ベアメタルサーバの対応、Outpostsの提供などは、Nitro Systemの成果であると述べていました。

Nitro Systemを活用して、新たに「Nitro Enclaves」というサービスを発表しています。正式なリリースは2020年を予定していますが、本サービスにより機密性の高いデータをAWS上に格納することができます。EC2インスタンス内に他のインスタンスとはCPU・メモリレベルで完全に隔離されたローカル接続のみをもつ仮想マシンを生成し、親インスタンスとのみ接続します。機密性の高いデータの取扱は、パブリッククラウド採用における最も大きな課題の一つであり、その障害を取り除くためのサービスという位置づけと推測されます。

マイクロサービスや分散システムなど、Amazonは難易度の高いシステムも多数構築しており、こうした知見を広く公開する「The Amazon Builder’s Library」という取り組みを発表しました。AWSのWebサイトからすでに公開されており、さまざまなアーキテクチャやベストプラクティスが掲載されています。

Dr. Werner氏は、Nitro Systemの仕組みをステップも踏まえて解説し、Nitro Systemによるさまざまな改善や新しいサービスについて紹介しました。こうした技術的改善の多くはAWS独自の技術となっており、他社との技術的差別化につながる点をアピールしていることかと思います。AWSの過去のインスタンスやサービスと比較した性能改善やサービス改善は非常によく認識できましたが、他社のクラウドサービスと比較して優位性があるのか、この点については継続して確認する必要があると感じました。
おわりに
第1弾では、4つのKeynote(基調講演)を振り返ることで、AWSの今と未来についてお伝えしました。AWSのエコシステムは、非常に大きく、熱狂的な盛り上がりを見せており、今後も拡大していくものと予想されます。従来のIaaS中心の世界観からミドルウェアやコンテナ管理、セキュリティ機能などのPaaSへの拡充も積極的に実施しており、量子コンピュータなどの最新技術への大規模投資も精力的に行っています。開発者が必要としている機能やサービスを一日も早く提供する姿勢はAWS提供開始当時から変わってなく、こうした姿勢が熱狂的なファン層の獲得につながっているのでしょう。今後もIT業界、特にIaaSやPaaSといったクラウドサービスにおいて、AWSの動向から目を離せません。昨今では、ミッションクリティカルなシステムなど、エンタープライズシステムへの対応にも注力しています。
第2弾では、AWSをエンタープライズシステムへ適用する上で課題となるセキュリティについてお伝えします。
