Keynote:Andy Jassy

2日目のCEO Andy Jassy氏によるKeynoteは、AWS re:Inventで最も注目されているメインイベントとなります。座席はもちろん事前予約制となっており、予約できずに会場へ入れない人が続出し、予約している人も良い席を確保するために8時開始の1時間以上前から並ぶ人もいるほどでした。
Andy氏は、毎回テーマに即した音楽を効果的に活用してKeynoteを盛り上げていますが、今回のテーマは「Transformation」。まず最初に流れたのがVan Halenの「Right Now」。”Don’t want to wait ‘till tomorrow”から始まるこの曲で、Andy氏は「Transformation」が起きるのを待つのではないと聴衆に語りかけます。「Transformation」、すなわち変革には、リーダーシップが重要であり、トップダウンによるアグレッシブなゴール設定が必要と述べています。クラウドを活用し、「Transformation」を実現するためには、開発者やボトムアップだけではなく、リーダーシップとトップダウンが重要であると熱く語り、すぐに行動することを促していました。

2曲目は、筆者も大好きなQueenの「Don’t Stop Me Now」です。“Don’t Stop Me Now”の歌のフレーズを使い、クラウドへの移行を考えているなら止まる必要はないと述べました。AWSは、Builders(開発者)のために最も幅広く、さまざまな機能を提供するクラウド・プラットフォームであり、IaaS市場では、47.80%のシェアを持っていることをアピールしていました。

ここから怒涛の新サービス発表が始まります。まずは、1日目のMonday Night LiveでもNitro Systemによる性能向上を発表していましたが、この日もNitro Systemの恩恵を受けた新しいインスタンスタイプが発表されました。ARMベースのAWS Graviton2プロセッサを用いた、M6g、R6g、C6gインスタンスが発表されました。x86系の5世代目インスタンスよりも40%コスト対性能が良いとのこと。ここで、AWS Inferentiaチップを用いたInf1インスタンスについても発表がありました。

続いて昨今IT業界で熱狂的に注目されているコンテナやKubernetesに関するアップデートがありました。AWSでは、Fargateと呼ばれるコンテナ実行環境をAWSが管理するサービスを提供しています。今までは、Dockerコンテナを管理するのみでしたが、新しくKubernetes環境を管理するAmazon Fargate for Amazon EKSのサービス開始が発表されました。Kubernetesが異様な盛り上がりを見せる中、本サービスはKuberntes環境運用の複雑さを解消するものであり、これにより開発者が開発に集中でき、簡単にコンテナ環境へアプリケーションをデプロイできるようになります。一方で、AWSのパートナーの中にはこうしたKubernetes環境をマネージドするサービスを提供している企業も多く、ビジネスモデルを見直す必要もあるように感じました。

ここで、ゴールドマン・サックスのCEO David M. Solomon氏が登壇し、ゴールドマン・サックスにおけるTransformation事例を発表しました。David氏がDJに扮してすでに登壇済みというサプライズもありました。世界有数の金融機関であるゴールドマン・サックスは、実は全社員の3分の1にあたる9000人がエンジニアとして働いています。こうしたエンジニアをベースにAWSを活用して、テクノロジーカンパニーに変革しようとしています。Apple Card用のプラットフォームをAWS上に同社が構築し、数か月前にサービス開始しています。また、リスク管理や分析などの機能をAPIで提供するデジタルプラットフォーム「Marquee」をAWS上に構築し、提供開始しており、2020年にはトランザクション・バンキング市場にも参入予定とのこと。筆者も同社に対しては金融機関のイメージが強く、ここまで変革していることには驚きました。GEのようにユーザ企業が自社の強みとITを掛け合わせてテクノロジーカンパニーに変革する事例が米国で増えてきていることを実感しました。

次に、Andy氏は、IBM、Oracle、MicrosoftなどのITベンダーが提供してきたレガシーなIT資産とそのコストからの引っ越しを考えるべきだと訴えました。引っ越しにおいて重要なのは、何を持っていき、何を持っていかないかを決めることであり、それはITシステムの引っ越し(Migration:移行)でも同様とのこと。誰もメンテナンスできなくなったメインフレームや古いRDBMSから離れることをAndy氏は推奨しています。特に本イベントでは、AzureのようなIaaS競合ベンダーに対してはIaaSの性能向上やコスト削減をアピールし、Google、Microsoft、IBMといった大手ベンダーが注力しているAI・機械学習領域でプレゼンスを上げるための新サービスを多数発表しつつ、Oracle DBからの移行を促す事例やデータベース系のサービス拡充をアナウンスしており、プラットフォーマーとしてAWSが中心となる世界観やエコシステム形成を強く打ち出していました。

データ爆発の時代において、従来のサイロ化したデータベースから統合的なデータレイクへとトレンドが移ってきている中で、オブジェクトストレージサービスであるS3は重要な役割を果たしています。一方で、S3の設定ミスによるインシデント(主に情報漏えい)は世界中で発生しています。こうした状況を踏まえて、アプリケーション単位でS3へのアクセスポイントが設定できるAmazon S3 Access Pointsという新サービスを発表しました。エンタープライズ領域では、S3によるインシデントをどう防ぐかが重要なセキュリティ課題となっており、本サービスにより、簡単に対策できるようになることでしょう。

他に、Amazon AurolaやAmazon RedShift、AQUA、UltraWarm、Managed Cassandra Serviceといったデータベースやデータ分析系のアップデート、新サービスの発表が多数ありました。Oracle DBといった既存のRDBMSから移行だけでなく、データ分析系が得意と言われているGCPへの牽制という意味合いも兼ねた狙いがあるのかと感じました。
さらに機械学習、特にAmazon SageMakerに関する発表が続きました。機械学習のための統合開発環境「Amazon SageMaker Studio」や機械学習モデルを自動的生成する「Amazon SageMaker Autopilot」など、機械学習を簡単に使える環境やサービスを拡充し、機械学習へのハードルを下げる取り組みを積極的に展開しています。こうした機械学習の知見を活かしたサービスも合わせて発表しています。
アカウント生成や購買データなどから不正の可能性が高いアクティビティをリアルタイムに検出するマネージドサービス「Amazon Fraud Detector」の提供開始を発表しました。さらに、機械学習を用いて自動的にソースコードのレビューを実施する「Amazon CodeGuru」の提供も開始しました。筆者のようなシステムインテグレータには、大変興味深い内容であり、Amazon自身のコードとGitHub上に公開されている1万ものオープンソースのコードをベースに機械学習のモデルを生成し、そのモデルを用いてコードレビューを実施するというもの。Amazon社内ではすでにCodeGuruを利用しており、Prime Day向けに改善を実施したところ2018年は2017年に比べてCPUが325%効率よく使用でき、コストは39%削減できたとのこと。


その他、機械学習を活用してコンタクトセンターの分析サービスを提供する「Contact Lens for Amazon Connect」や非構造データが多い社内ドキュメントなどを検索する「Amazon Kendra」のサービス開始を発表しました。
最後に、エンタープライズ向けの発表が続きました。筆者も動向を気にしていた「Amazon Outposts」がついに正式リリースとなりました。自社のデータセンターでAWSのサービスを利用することできるものであり、現時点ではEC2、EBS、ECS、EKS、EMR、VPCが利用可能であり、東京リージョンでも利用できるとのことでした。現在、RDSがプレビュー中であり、今後S3も拡充予定とのこと。

Outpostsは、Expo会場で実機が展示されていました。OutpostsもNitro Systemを採用しており、サーバなどもすべてAWSで設計しているとのこと。写真のとおり、ストレージ筐体はなく、複数のサーバを並べてサーバに内蔵されているストレージをソフトウェアで分散ストレージとしてみせるHCIのようなアーキテクチャで管理しているとのことでした。

次に、遅延を1ミリ秒以下に抑えたいニーズに対応する「AWS Local Zones」を発表しました。先述したOutpostsとは異なり、AWSが管理するデータセンターを活用するものとなります。まずは、ロサンゼルスから提供を開始し、今後拡充していく予定とのこと。利用できるサービスもOutposts同様、現時点では限られており今後Local Zonesの拡充と合わせて、提供可能なサービスも増やしていくと発表しています。

プライベートクラウドのニーズは、マーケット規模からも明らかであり、筆者も仕事でそのようなニーズを持つお客様によく会います。プライベートクラウドは、データやSLA、運用などをすべて自社でコントロールしたいニーズ向けのソリューションであり、現時点でのAWS OutpostsはAWSがすべてコントロールするため、こうしたニーズへはまだ対応が難しいように感じました。Local Zoneのような超低遅延環境でAWSの各種サービスを使いたい場合には適しているかと思いますがプライベートクラウドマーケットへ向けては今後のさらなる改善に期待したいと思います。
最後に5G向けのサービスとなる「AWS Wavelength」が発表されました。これは5GキャリアのエッジロケーションにAWSのインフラ(おそらくOutpostのようなものと推測されます)を設置し、5Gを利用するデバイス(モバイルやコネクティッドカーなど)から超低遅延でアクセスできるようにするものです。5Gの特性を活かした超低遅延が求められるアプリケーションにおいてもAWSの各種サービスが利用できるようになります。ここで、VerizonのCEO Hans Vestberg氏が登壇し、Verizonが5Gキャリアとして提供していくことを発表しました。他にも、VodafoneやSK Telecom、KDDIが5Gキャリアパートナーとして参画していくとのことです。日本では、NTTドコモが大規模なAWSユーザとして有名ですが、本サービスのパートナーがKDDIというのは少し意外でした。

本イベントのテーマである「Transformation=変革」は、しばしば抵抗に合うことがあります。しかし、reInvent(改革)を恐れてはいけません。AWSは、“Here to help you build”の精神でみなさんのTransformationを支援していきます。と、Andy氏は3時間ものKeynoteの最後を締めくくりました。筆者がAWSと関わり始めたのは、ちょうど東京リージョンに関する検討をAWSがはじめた2009年頃からとなりますが、ここまで影響力をもつITベンダーになるとは想像できませんでした。クラウドインフラに関してはAWSを中心にIT業界が動いているといっても過言ではなく、今後もAWSの動向には業界全体で注目していく必要があると強く感じました。
