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【デブサミ2020】セッションレポート (AD)

理想論に終わらせない、ティール組織のつくり方――進化型のアーキテクチャとは【デブサミ2020】

【13-E-3】常識を破壊するティール組織とエンジニアリング組織論

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役職ではなく「人」に役割をひもづける

 続いて片岡氏は、ティール組織の代表的な組織モデルの1つである「ホラクラシー」(ティール組織とは異なるものとする考え方もある)について説明。ホラクラシーにはさまざまな定義があるが、特に重要なポイントとして、役職主導ではなく「役割主導」であること、誰もが役割の新設・変更を行って「役割分散」がなされることの2点を挙げた。

 役職主導とは、役職に対して役割がひもづく仕組みで、昔ながらの一般的な形態といえる。例えば「マネージャーが部門内の全責任を負う」など責任の所在が明確だが、役職者に負担が集中してしまうといった問題がある。特に、「マネジメント」という役割の範囲が曖昧なまま一任されているケースが少なくない。一言でマネジメントといっても、プロジェクトマネジメント(プロジェクト管理)、プロフィットマネジメント(売上利益予算管理)、プロセスマネジメント(業務標準化・ルール決め)、ピープルマネジメント(人事考課・目標設定など)と、その内容は多岐にわたる。

 ゆめみでもかつては役職主導で組織を運営していたが、ある時大きな問題に直面したという。

 「負担の集中から、3人続けて部長を辞めることが起きてしまい、明らかに組織の構造に問題があると気付いた。そこで2014年に役職主導をやめ、役割主導へと変更した」と片岡氏は振り返る。

 役割主導とは、役割に対して人をひもづけるスタイルだ。従来は、部長やマネージャーが一手に担っていたマネジメントの役割を細分化して明確に定義することにより、複数人をひもづけて分担することが可能となる。例えば、ある人はプロジェクトマネジメントとプロフィットマネジメント、ある人はピープルマネジメントのみといったように、それぞれが得意な分野で、できる範囲の役割を担当すればよいと片岡氏は言う。

役職に役割がひもづく役職主導から、人に役割がひもづく役割主導へ 役職に役割がひもづく役職主導から、人に役割がひもづく役割主導へ
役職に役割がひもづく役職主導から、人に役割がひもづく役割主導へ

 さらに役割分散として、外部の専門家に一部の役割を任せることも考えられる。例えば、ピープルマネジメントの役割をさらに細かく分割して、カウンセリングやコーチングなどの役割を専門家に依頼し、人材配置や目標設定・人事考課は社内で担当者を割り当てるといった具合だ。

 ホラクラシーでは、こうした役割の分割や新設・変更などを検討する会議が定められており、その会議体には誰もが参加できる。これはつまり、組織が自らの設計を常に変更できるスキームがあり、ボトムアップできめ細かな組織変更や人事異動が行えるということだ。実際に、ゆめみの場合は1年に数百回もの細かい組織変更を行っているそうだ。

 「常に流動的に変化するので毎日せわしないのだが、外部環境の変化に合わせて機敏に組織を変更できるメリットは大きい。また、旧来のトップダウンで年に1回行われる、大きな組織変更といった現場の痛みや混乱もない」と片岡氏は補足する。

誰もが制度自体を変更できる仕組みをつくる

 ティール組織における制度設計や実装はどのように行われるのか。片岡氏は次のような事例を紹介した。

 ある会社では、エンジニアも売り上げなどの成果によって評価し、給与に反映するように評価制度を変更。売り上げが低いと評価が下がってしまうことになるが、逆に売り上げが高ければ評価も上がるのでモチベーションアップにつながることも考えられる。しかし、実際には評価制度変更後、退職者が相次いだ。

 この会社の事例は何が問題で、どこを改善すればよいのか。例えば、売り上げのインセンティブをさらに厚くするなどの「評価設計の改善」や「給与制度の改善」などが考えられるが、「いずれもティール組織が採るべき進化型の解決策ではない」と片岡氏は指摘する。

 「ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』(講談社刊)でも指摘されているが、金銭的報酬による動機づけは、短期的思考になるほか、創造性を損なうことや、成果につながらないことへの意欲がそがれるなどの問題がある。また、給与の全公開や自己決定などティール組織で採用されている給与制度に変更するのが有効な場合もあるが、もっと本質的に重要なところがある」

 それは、「会社がソフトウェアだとすれば、それに対して誰もがコミット権限を持つこと」だと片岡氏は強調した。

 「具体的には、被評価者である一人ひとりの社員が評価制度設計チームなどに関与できる権限を持ち、制度自体を変えることができる仕組みをつくること。状況が変われば、『あるべき制度』もどんどん変化していくので、制度をどう変えるかよりも柔軟に変えられる仕組み、常に変化できる『進化型のアーキテクチャ』を組織に実装することが何よりも求められる」

制度をどう変えるかではなく、誰もが制度を変えられる仕組みが重要
制度をどう変えるかではなく、誰もが制度を変えられる仕組みが重要

 それは経営の民主化でもあり、経営者の役割も大きく変わることを意味している。片岡氏は、これを「ゲーム」に例えて説明した。

 「これまではゲームのプレイヤーが社員、ゲームマスターは経営者で、プレイヤーはゲームが面白くなくても我慢してプレイするしかなかった。ティール組織という進化型のアーキテクチャを実装した組織では、プレイヤーがゲームマスターになって、自分自身で面白いゲームをつくれるようになる」

 ただし、ゲームをつくる上でもよりどころとなるルールは必須であり、そこを担うのが経営者だ。

 「経営者には、ゲームマスターがゲームをつくるためのルールブックを設計・実装するゲームシステムデザイナーのような役割が求められる。ルールがきちんと守られているかを観察し、状況に応じてルールブックを改定することも必要。時には自らもプレイヤーとなってゲームを楽しむこともできる。それが、新しい組織のかたちだと考えている」

 もちろん、このような進化型のアーキテクチャを組織に根付かせるのは決して簡単ではない。「自分は経営者でも、マネージャーでもないので無理だ」と考える人も多いだろう。

 最後に片岡氏は、「私は経営者だから制度設計ができる部分も確かにあるが、取締役会の決定事項や内部統制、外部監査など、さまざまな制約はある。組織はどの部分を切り取ったとしても必ず外部の制約を受け、その外部は変えることができない対象として存在する。皆さんも自分に組織は変えられないという思い込みを捨てて、まずは自身の所属するチームなど手の届く範囲で進化型のアーキテクチャを取り入れられないかトライしていただきたい。そういった行動が、最終的に組織全体を変える大きなうねりにつながっていくはず」と呼びかけ、セッションを終えた。

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