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プロダクトマネジメントの基本を学ぼう

プロダクトを成功させるチーム構築のためにPMがすべきこととは?

プロダクトマネジメントの基本を学ぼう 第8回

他部署との関わりを図にする

 プロダクトマネージャーが関わる部署としてプロダクトチームの外にも一時的にタスクを依頼する必要がある部署がある。具体的には、広報、法務、総務や情報セキュリティを管理する部署である。可能であれば、これらの組織からもプロダクトの担当者を出してもらい、プロダクトチームと同じ距離でコミュニケーションが取れるとよい。

 しかしながら、実際にはこれらの一時的にタスクを依頼されることになる部署の担当者は抱えている案件数が多いため、距離が遠くなってしまいがちである。それでも、円滑なコミュニケーションを維持するために、要件がある時以外にも各マイルストーンのタイミングでは状況を報告できるようにしておこう。

 さて、プロダクトマネージャーが気にかけなければいけない相手がとても多いことが伝わっただろうか。多くの相手と円滑なコミュニケーションを取るためのtipsとして、各担当者を可視化して都度見直すために関係者を図に表しておくことを推奨する。

★図式化の例★
図式化の例

 また、自分と相手との関係の強さと、今後の改善点の方針を書き込んでおけば、後ほど振り返る時に役に立つだろう。

 上図はプロダクトマネージャーを中心とした関係者の図のサンプルである。5段階で相手との現在の関係性を評価する。図ではそれを赤字で表した。次に本来あるべき関係性を同じ5段階の数値で記入する(図では青字とした)。この差分を見ることで、関係を強める相手やもう少し距離をとってもよい相手が可視化される。このような可視化を定期的に振り返ることで、抜け漏れなく各組織との関係を維持することができるようになるはずだ。

Team & Collaborationによって行う心理的安全性の確保

 「全体は部分の総和に勝る」。このアリストテレスの言葉に表されるように、チーム力というのはそのチームのメンバー個人個人の能力の足し算ではなく、チームとして働くことによりさらに価値を生み出すことを言う。

 このアリストテレスの言葉を名前に持つプロジェクト、「プロジェクトアリストテレス」がGoogle内に立ち上がったのは2012年のことだ。Googleは人事施策についての効果測定をデータを用いて行っていたが、このプロジェクトアリストテレスでは、115のエンジニアリングチームと65のチームを対象として優れたチームに共通する条件を調査した。

 その結果、優れたチームには次の共通点があることが判明した。

  1. 心理的安全性
  2. 信頼性
  3. 構造と明瞭さ(期待される仕事とOKRを用いた目標設定)
  4. 意味合い(仕事の目的)
  5. インパクト(成果の影響度)

 この中で心理的安全性はチームメンバー全員がヒューマンスキルを用いて、維持していく状態であると考えられる。「チームメンバーが」と書いたが、チームのリードであるプロダクトマネージャーの役割も大きい。

 この心理的安全性はハーバード大学のエイミー・エドモンドソンにより提唱された考えだ。1999年に発表された論文「作業チームにおける心理的安全性と学習行動(Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams)」において、エドモンドソンは心理的安全性を「チームは、対人関係のリスクをとっても安全であるというチームのメンバーが共有する信念を持った状態」と定義した。

 この心理的安全性は信頼と類似点もあるが、エドモンドソンは信頼との心理的安全性の違いを、「信頼とは、他者の将来の行動が自分の利益に有利になることを期待し、そのような行動に対して脆弱になることをいとわないことである」と定義しており、一方のチームの心理的安全性は、「対人信頼が含まれているが、それを超えたものであり、対人信頼と相互尊重によって特徴づけられるチーム風土」であると説明している。

 また、心理的安全性は多くの場合、暗黙のうちに存在することが当たり前のように受け取られる傾向がある。そして、個人やチーム全体から心理的安全性が存在することに直接の注意を払うことはないが、明示的に定義されたとしても、心理的安全性が変わることはないとしている。

 そのため、心理的安全性が保証されたチーム環境であったとしても、その後の環境の変化などに備えて、心理的安全性についてチームで議論し、それをチーム方針として掲げることには意義があると言える。

 心理的安全性が重要であることを示すエピソードとして、NASAのスペースシャトル「コロンビア号」の事故発生前の出来事がある。ケネディ宇宙センターに勤務していたエンジニアの1名は事故原因となった断熱材の問題に気づきかけており、調査の必要性を上司には伝えたものの、それ以上のエスカレーションは行わなかった。なぜなら、自分よりも肩書の上の人間に具申することは控えるように言われていたためだ。結果、コロンビア号は大気圏再突入時に燃え上がり、宇宙飛行士7名の命は失われた。

 病院での医療過誤を防ぐにも、心理的安全性が確保された場が必要と言われている。看護師と医師との力関係が必ずしも対等でない医療施設も多いが、医療過誤を防ぐためには、どんなささいなことでも共有できる心理的安全性が重要だ。

 エドモンドソンの論文のタイトルが「学習行動」となっているのには理由がある。エドモンドソンは「心理的安全性のあるワークプレイス」と題したTEDxのトークでも仕事を実行の機会ではなく、学習の機会と捉えることの重要性を語っている。失敗が許されない環境だと学習の機会が得られずに、個人としてもチームとしても成長できず、結果として生産性の向上も期待できない。心理的安全性が担保された状態でこそ、学習行動を取ることができるのだ。

プロダクト組織移行へのヒント

 本連載を読まれている方はプロダクトマネジメントの必要性について十分に理解を深めたはずだが、もしプロダクトマネージャーやプロダクトマネジメントという概念自体が根付いていない組織に所属しているとしたら、どのように働きかけるとよいだろうか。

 いきなり、プロダクトマネジメントの必要性を伝えて、プロダクトマネージャーを置くべきであるという提言をしたとしても、共感を得ることは難しいかもしれない。そのため、まずはプロダクトマネージャーがいないことによって起きている課題に目を向け、共通の課題認識を持つことから始めるとよいだろう。現状の課題をあげ、その原因について周囲を巻き込んで考えてみよう。

 もし、現状の課題の中に「プロダクトの成功にコミットしている人の不在」が出てきたら、それを足がかりにプロダクトマネジメントの必要性について組織内で啓蒙を始めるとよいだろう。こういった課題が出てこない場合には、問題に光を当てるために以下のような質問に答えてみるとよいだろう。

「私たちのプロダクトには、大方針はありますか?」

「私たちは大方針に従って、的確な、時として厳しい決断でも恐れず、意思決定をしていますか?」

「このプロダクトは誰のどのような課題を解決しようとしているか、誰にどのような価値を届けようとしているかなど、関係者全員が共通の目標を言えるでしょうか?」

 これらの質問はプロダクトを成功に導く重要な要素を問う質問である。もし、関係者が明確に回答ができなければ、これらの要素を満たす存在であるプロダクトマネジメントの必要性を訴えるとよい。

 プロダクトマネジメントの重要性までは伝わったとしたならば、兼任ではなく、一時的でもよいので専任で、それが無理ならば、少なくとも比重を重くした形でプロダクトマネジメントの担当者を置くように訴えよう。複数人が分担してプロダクトマネジメントを行うことは、不要なコミュニケーションが発生することになり、ただでさえ難しいプロダクトマネジメント業務の立ち上げをさらに難しくする。

 ある一部の組織でうまく回り始めたならば、それを横展開、さらには全社展開を図る。そして、どこかの段階で経営層にまで、この重要性を認識してもらう努力をするのがよい。トップダウンの会社ならば、経営層からの指示は必要だ。だが、いきなりトップダウンだけで行うと、その重要性も理解していない担当は、形だけのプロダクトマネジメントを行うことになり、実質何も変わらない。

 実際、プロダクトマネジメントの認知が広がったため、プロダクトマネージャーを配置したという企業の人から話を聞いても、そのプロダクトマネージャーの仕事はとてもプロダクトマネージャーの仕事とは言えず、プロジェクトのタスクの調整をしているだけのこともある。これは、プロダクトマネジメントの重要性を認識はしたものの、本質は理解しないまま、トップが指示を出したために起きたことだ。トップダウンとボトムアップの両方のアプローチがプロダクトマネジメントの実践には必要だ。

 プロダクトと同様、プロダクトマネジメントの組織内への展開も、仮説検証の形をとり、成功例をもとに徐々に広めていき、常により良い方法を模索し続けよう。

次回は

 今回はプロダクトマネージャーがチームを率いる際に必要となるスキルや進め方、組織の動かし方について解説した。

 次回はプロダクトマネージャーのスキルからは離れて、プロダクトの強い軸ではCoreに含まれるプロダクト戦略のとり方について解説しよう。

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この記事の著者

及川 卓也(オイカワ タクヤ)

 早稲田大学理工学部を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

曽根原 春樹(ソネハラ ハルキ)

 Fortune500系外資企業に入社後、SE、カスタマーサポート、マーケティングなど様々な役職を日米で従事。その後シリコンバレーでプロダクトマネージャーに転身。B2B、B2C領域で米系大企業・スタートアップの双方でプロダクトの世界展開に携わる。現在はSmartNews社米国法人にて日本のスタートア...

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小城 久美子(コシロ クミコ)

 toC向けサービスを提供するWeb系企業に入社し、その後いくつかの企業で新規事業の立ち上げなどにエンジニア、スクラムマスターとして携わる。どう作るかより何を作るかに興味関心が移り、プロダクトオーナー/プロダクトマネージャーに転身。プロダクトマネジメントについてより深めるために、2019年よりTab...

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