Illustrator iPad版、ついに正式版提供へ
ここからは、基調講演内で紹介された新製品や製品アップデートについて主なものをまとめていこう。アドビが注力してきたのは、(1)スキルの向上、(2)共同作業の加速、(3)新しい形式の創造を解き放つ――の3点だという。
まず、目玉の新製品としてIllustrator iPad版が発表された。同製品は、昨年のAdobe MAX 2019でお披露目されたものであり、ベータ版の先行配信を通じて改善が施され、今年のMAXに合わせて正式版の提供を迎えた。クラウドドキュメントに対応し、デスクトップ版の従来製品と連携して利用できるほか、とくにベクターでの直感的な描画や、パスファインダーで作成する図形のライブプレビュー、リピートグリッドなどの機能に注目したい。デスクトップ版に搭載されているすべての機能が使えるわけではないが、今後のアップデートを通じて対応する機能を増やしていくという。
なお、デスクトップのIllustratorでもカラーピッカーが強化されたこともトピックのひとつだ。基調講演では、参照した写真から色のパターンを抽出してデザインに適用できる機能が紹介された。
Creative Cloudライブラリを使った共同作業がよりスムーズに
続いて、共同作業を円滑にする視点で、Creative Cloudライブラリを活用した制作システムの強化が紹介された。前提として、ライブラリに保存した素材はアプリケーションをまたいで利用可能となるが、グラフィックやカラーだけでなく、オーディオ、ビデオ、3Dマテリアル、3Dライト、Sparkテンプレートなどにも対応する。
新たに追加されたチームライブラリ機能では、複数人での管理・共有が容易に行えるのが特徴だ。たとえば、クリエイター向けのSNS「Behance」上のムードボードとして作成した拠点で、フォントやカラーなどの情報をチームメンバーで共有することもできる。ブランドチームがロゴに微調整を加えた場合などにも、ロゴのデータはライブラリ上で自動的に更新され、そのロゴを使用するすべてのドキュメントで更新される仕組みも備わっている。
PhotoshopはAI機能をさらに拡充
次に紹介されたのは、Photoshopのアップデート。同製品のアップデートは、1年を通じて行われているが、MAXのタイミングでも新機能が追加されている。
iPad版では、境界線の調整機能が強化された。まず、「スマート半径」をオンにする。そして境界線検出の精度をあげ、境界線調整ブラシを使うことで、精密な輪郭に切り抜ける。さらにトーンカーブ機能によって、シャドウ、中間色、ハイライトの微調整も行うことが可能だ。
また、デスクトップ版では、「ニューラルフィルター」という機能が新たに追加された。Adobe Senseiを利用し、スライダ操作で被写体の角度や年齢などの調整を手軽に行える。さらに、パターンプレビュー機能も追加され、パターンの外観がどのように変化するかをあらかじめチェック可能になった点や、Photoshop Cameraのように素早く空を置き換える機能が追加されたこともトピックだ。なお、Creative Cloudからは、新しいプラグインマーケットプレイスに直接アクセスできるようにもなったという。
Photoshopのパートの最後には、フェイク画像などの画像の悪用を防いだり、製作者の著作権を守るために、画像の編集履歴を確認できる「コンテンツ認証イニシアティブ」の取り組みについても進展が紹介された。この取り組みは約1年前に立ち上げられ、パートナー企業とともに技術を開発してきたもの。近々Photoshopのベータユーザーの一部に提供を開始し、2021年からはほかのCreative Cloudアプリにも順次拡大提供する予定だ。
Lightroomは「ローカル色相」や「バッチ処理」が便利に
Adobe Photoshop Lightroomについては、iPad版を例にモバイルアプリの新機能群を紹介。「バージョン」機能では、ファイルのデータを重複させずに複数の編集結果を保存可能になる。また、「ローカル補正」に追加された色相調整機能では、編集したい部分を選択することで、カラーをまとめて調整できるようにもなる。
新機能の「カラーグレーディング」機能も大きなアップデートだ。具体的には、シャドウ、ミッドトーン、ハイライトそれぞれのカラー値をそれぞれ調整できる。さらに、複数の写真に同じ編集効果を適用させる「バッチ処理」ができるようになったことも見逃せない。
また、「チュートリアル」タブでは、プロの写真家やクリエイターが投稿した作品が表示され、編集手順を学ぶことが可能だ。これも「学び」を重視するアドビの戦略的な文脈では、重要なアップデートと言えるだろう。