解説:「むきなおり」でチームの方向を見直そう

さて、今回はむきなおりについて解説をしたいと思います。
「チーム」になりきれない「グループ」、つまり個々人バラバラのままの集まりにはある特徴があります。それは、チームとして目指すべき方向性があっておらず、それぞれが「各自頑張れ」でしかない状態になっているところです。これでは、お互いの協力を引き出すこともできません。1+1が2でもなく、1と1のままという感じです。
どうすればこういった状態から抜け出すことができるのでしょうか。不足しているのは、「チームとミッションの一致」です。ここで言うミッションとはチームとして果たすべき、もしくは果たしたい目標のことです。
チームとミッションが一致していない状態とは
- チームとしての目標がそもそもない、またはあいまい
- 目標への関心が薄く、メンバーの自分ごとになっていない(とってつけた目標でしかない)
- 目標が大きすぎて、日常の活動とのつながりが弱い(達成の度合いが測れない)
- 目標は定めているがすぐに現実と乖離し、なおかつそのままにしてしまって、意味がなくなっている
まず、チーム内で共通となる目標を置きます。目標をチームの協働を促すための足がかりにするわけです。ただ、意外と難しいのは目標を置いた後です。上記のように、目標とチームの距離感によって、あっという間に意味をなさなくなることもあります。
そこで必要となるが、目標を定期的に捉え直すチーム運営なのです。これを「むきなおり」と呼びます。前回の「ふりかえり」と似ていますね。ふりかえりが過去から現在(いま)を正すための活動なら、むきなおりは未来から現在(いま)を見直すためのものです。
むきなおりとしてやるべきことは、以下の2つだけです。
- チームでミッションを捉える(自分ごとにするために)
- 定期的に捉え直し続ける(目標自体が陳腐化しないために)
(1)は少なくともチームが立ち上がった時に確認しあうようにしましょう。インセプションデッキの「われわれはなぜここにいるのか?」という問いに向き合うことで、ミッションを捉えることができますよね(インセプションデッキについては、『アジャイルサムライ』や『カイゼン・ジャーニー』をあたってください!)。
(2)が大事です。チームとミッションの間で距離感ができてしまうのは、立てた目標を定期的に捉え直す習慣がないためです。チームとしての運用に落とし込むことが必要です。また、ただ単に立てた目標を「確認する」だけではありません。「捉え直す」とは、「この方向性でチームとして進んで良いのか?」という問いに向き合うことを意味します。つまり、ミッション自体を変える機会をチーム運営に織り込むということです。
ところで、チームの目標を捉えるのって、実は難しいんですよね。一口に目標と言っても、どんな粒度にすれば良いのか判断がつきにくいですよね。なので、こういう指標を置いてみてください。
一度置いた目標を、定期的に捉えた(むきなおりをした)時に
- 全く達成していない場合→チームにとって大きすぎる
- 楽勝で達成している場合→チームにとって小さすぎるもしくは簡単すぎる
そう、目標のむきなおりを定期的に行っていくのですが、目標の粒度は1周目の結果で判断するということです。2周目以降は早速、目標に一歩近づけますよね。チームの構成も、作るべきプロダクトも、その時々で違いますから、適切な粒度を最初から正確に定めるのはかなり難しいですし、それほどの意味もありません。なぜなら、むきなおりは定期的に行うものです。一定期間後に向けてチームの活動を修正することで十分状況に対処できるはずです。
では、定期的とはどのくらいのスパンで行うと良いのでしょうか。目安として「3回ふりかえりをやったら、1回むきなおりをする」くらいとしましょう。ただし、結果としてむきなおりの間隔が1か月を越えてしまうようだと、もう少し距離を縮めたほうが良いです。
例えば、1スプリント=1週間で、毎スプリントふりかえりを実施しているようであれば、3スプリントを終えたところで、むきなおりを実施しましょう。1スプリント=2週間の場合は、2スプリントを終えたところでむきなおりをするくらいの頻度が良いでしょう。
あまり頻繁にむきなおりをすると(例えば毎週むきなおりをするなど)、捉えるミッションが小さくなりすぎて、短期的な成果目標になってしまいがちです。1スプリントごとで取り組むようなことは、スプリントゴールとして捉えるようにしましょう。
「むきなおり」のポイント
- すぐにでも取り掛かりたいこと(重要かつ即時が求められる)→「スプリントゴール」として「スプリントプランニング」で捉える
- 時間をかけて取り組むこと(重要かつ即時ではない)→「ミッション」として、「むきなおり」で捉える
続いて、むきなおりの対象についてです。むきなおりの対象は、「チーム」と「プロダクト」の両方がありえます。どうしてこの2つに対してむきなおりが必要なのか、どうやって実施するのか具体的に見ていきましょう。
チームについてのむきなおり
目的
チームとして獲得したいことを捉え、その達成を得る。
※成功循環モデルにおけるチームの「行動の質」「思考の質」を高めるために必要なことを挙げる(参考:前回記事)。
これができていないと?
チームとしての成長は運任せ。なかなかチームの活動が結果につながっていかない。
どうやってやる?
「1か月後にチームとしてどうなっていたいか?」を問う。
- 「チームとしてどうなっていたいか?」をチームで向き合う
- 「それができるようになるために必要なことは何か?」を挙げる
-
取り組むべきことをスプリントの活動に落とし込む
※スプリントバックログに加えるようにする(取り組むべきことを複数のスプリントに分ける) - 「ふりかえり」で取り組みの結果を確認する
プロダクトについてのむきなおり
目的
プロダクトの方向性を見立て、望ましい方向へと進む。
これができていないと?
何を作るべきかのチームの理解がまとまりにくい。目の前のことに終始しがち。目先に捕らわれがちになると、プロダクトに関する意思決定力(何を作るべきかの判断)がチームで養われない。
どうやってやる?
「1か月後にプロダクトとして達成したい状態とは?」を問う。
- 「プロダクトとしてどうなっていたいか?」をチームで向き合う
- 「そうなるために必要なことは何か?」を挙げる
-
取り組むべきことをスプリントの活動に落とし込む
※スプリントゴールに織り込むようにする(取り組むべきことを複数のスプリントゴールで達成できるよう分ける) - 「スプリントレビュー」で取り組みの結果を確認する
エピローグ
むきなおりが進行する中で、やはり押し黙ったままの宮坂さん。また、彼から場を否定する火の手があがるのではないかと、僕は気がかりで仕方なかった。場が温まってきたところで、唐突にちひろさんが宮坂さんに声をかけた。
「そろそろ、宮坂さんの意見も聞いてみたいところです。そうですよね、世田谷さん」
「え、ああ、そうだね」
「……」
僕は、目を疑った。宮坂さんが、オンラインボード上で動き始めた。付箋に自分の意見を書いて、みんなが意見を集めている場所へと寄せていく。ちひろさんに目を向けると、得意げに僕のほうを見ていて、目があった。
ちひろさんは後になって教えてくれた。チームのカイゼンをしようとする人が、チームの活動に無関心でいられるはずがない。心理的な安全性が確保されれば(今回で言えばリーダーの言質を取れれば)、きっと乗ってくれると考えていた、と。
僕は思った。これは変わるかもしれない。このチームも変われるかもしれない。

