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QA to AQ:アジャイル品質パターンによる、伝統的な品質保証からアジャイル品質への変革

品質の特定のためのパターン(2):「測定可能なシステム品質」「品質の折り込み」「着陸ゾーン」

QA to AQ 第6回

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品質の折り込み

  • パターン:品質の折り込み(原題Fold-out Qualities , 原著 Joseph Yoder, Rebecca Wirfs-Brock, Ademar Aguilar)[1]

 「今やストーリーの残りがわかっている」――Paul Harvey(アメリカのブロードキャスター)

 ユーザーストーリーまたはフィーチャは、プロダクトオーナーの期待を満たし、もともと合意していた品質特性を備えている場合、出荷可能と見なされます。通常、プロダクトオーナーが期待することは、技術非依存な形で大まかな受け入れ基準として表現されます(例:「ユーザーは、ラジオボタンをクリックしてクレジットカードによる支払いを選択できる」ではなく、「ユーザーは、クレジットカードによる支払いを選択できる」)。

 しかし、実装されたストーリーによって示されなければならない合意されたシステムの品質特性を、どのように定義して記述すればよいでしょうか?

***

 一部のユーザーストーリーには、完成にあたってのシステム品質に関する明確な基準があります。それらのストーリーが受け入れられるためには、特定の性能、使いやすさ、国際化、信頼性、またはその他の非機能要件を満たす必要があります。

 スプリント中は主に、機能要件に焦点を当てることになり、多くの場合、システムの品質特性の推定に多くの時間は与えられません。また、特定の機能要件が実装されるまで、一部の品質特性やシステムのさまざまな部分への影響は明らかになりません。

***

 したがって、これらの状況では、具体的な品質受け入れ基準を作成し、ユーザーストーリーに添付します。

 これらの品質は、ユーザーストーリーの受け入れに不可欠であるため、折り込み品質と呼ばれますが、必ずしも最初に特定できる受け入れ基準とは限りません。システムがどのように振る舞うべきか、どのような性質を示すべきかについて、より深く対話を交わしながら展開します。最初の関心事はその機能を正しく実装することですが、折り込み品質を満足させることで、設計と実装の選択に大きく影響する可能性があります。したがって、議論して合意に達することが重要です。多くの場合、完成の定義(DoD)を説明するのに役立つ重要な品質特性となります。

 たとえば、「ユーザーとしてクレジットカードを用いて注文の支払いをする」というストーリーを満たすには、「システムは1分間につき100,000回VISAクレジットカード支払いトランザクションを処理できる」という性能上の品質を指定するかもしれません。

 このストーリーにシステムの必要な品質特性に関する追加の受け入れ基準を明らかにするために、いくつかの品質関連の質問をすることができます。

  • 使いやすさ:クレジットカードを使用して行った注文をキャンセルできるか? その場合、いつか?
  • セキュリティ:システムはクレジット情報を保持するか? その場合、保持方法を制御できるか?
  • セキュリティ:クレジット情報は不正アクセスから保護され、安全に送信されるか?
  • 性能:注文して確認を受け取るまでにどのくらいの時間がかかるか? 多くのユーザーがいるのはいつか?
  • 可用性:クレジットカードサービスが利用できない場合はどうなるか?

 通常、これらの質問に答えることで、クレジット情報を安全に送信したり、特定の性能目標を達成したりするなど、ストーリーの受け入れ基準に対して品質受け入れ基準を明示的に付加することにつながります。様々な品質特性が同時に複数特定される場合もあります。たとえば、クレジットカード情報を安全に送信するだけでなく、すべての個人情報や財務情報も安全に送信する必要があります。この場合、特定の品質受け入れ基準を当該ストーリーに添付することに加えて、バックログに追加されるいくつかの品質関連のストーリーを特定し、いくつかの特定の品質シナリオを作成することもできます。

 品質関連の質問をすることで、新しい機能が特定される場合もあります。たとえば、注文に関する使いやすさの関心事により、注文をキャンセルして追跡する必要性を特定できます。この場合、キャンセルおよび注文の追跡に関する新しいユーザーストーリーを作成し、バックログに追加できます。

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着陸ゾーン

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この記事の著者

鷲崎 弘宜(ワシザキ ヒロノリ)

 早稲田大学 研究推進部 副部長・グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所所長・教授。国立情報学研究所 客員教授。株式会社システム情報 取締役(監査等委員)。株式会社エクスモーション 社外取締役。ガイオ・テクノロジー株式会社 技術アドバイザ。ビジネスと社会のためのソフトウェアエンジニアリングの研究、実践、社会実装に従事。2014年からQA2AQの編纂に参画。2019年からは、DX時代のオープンイノベーションに役立つデザイン思考やビジネス・価値デザインからアジャイ...

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長谷川 裕一(ハセガワ ユウイチ)

 合同会社Starlight&Storm 代表社員。日本Springユーザ会会長。株式会社フルネス社外取締役。 1986年、イリノイ州警察指紋システムのアセンブリ言語プログラマからスタートして、PL,PMと経験し、アーキテクト、コンサルタントへ。現在はオブジェクト指向やアジャイルを中心に、コンサルテ...

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濱井 和夫(ハマイ カズオ)

 NTTコムウェア株式会社 技術企画部プロジェクトマネジメント部門、エンタープライズビジネス事業本部事業企画部PJ支援部門 兼務 担当部長、アセッサー。PMOとしてプロジェクトの適正運営支援、及びPM育成に従事。 IIBA日本支部 教育担当理事。BABOKガイド アジャイル拡張版v2翻訳メンバー。ビジネスアナリシス/BABOKの日本での普及活動に従事。Scrum Alliance認定Product Owner。SE4BS構築やQA2AQ翻訳チームのメンバー。

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小林 浩(コバヤシ ヒロシ)

 株式会社システム情報 フェロー CMMコンサルティング室 室長。CMMI高成熟度リードアプレイザー(開発,サービス,供給者管理)。AgileCxO認定APH(Agile Performance Holarchy)コーチ・アセッサー・インストラクター。Scrum Alliance認定ScrumMaster。PMI認定PMP。SE4BS構築やQA2AQ翻訳チームのメンバー。CMMIやAPHを活用して組織能力向上を支援するコンサルテ...

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長田 武徳(オサダ タケノリ)

 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ シニアITアーキテクト。ITサービス・ペイメント事業本部所属。2006年入社以来、決済領域における各種プロジェクトを担当後、2018年よりプロダクトオーナ・製品マネージャとしてアジャイル開発を用いたプロジェクトを推進。現在は、アジャイル開発におけるQAプロセスの確...

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田村 英雅(タムラ ヒデノリ)

 合同会社 GuildHub 代表社員。日本 Spring ユーザー会スタッフ。大学で機械工学科を専攻。2001 年から多くのシステム開発プロジェクトに従事。現在では主に Java(特に Spring Framework を得意とする)を使用したシステムのアーキテクトとして活動している。英語を用いた...

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陳 凌峰(チン リョウホウ)

 フリーランサー。2003年に上海交通大学(ソフトウエア専門)を卒業後、2006年から日本でシステム開発作業に従事。技術好奇心旺盛、目標は世界で戦えるフルスタックエンジニア。現在はマイクロサービスを中心にアジャイル 、DevOpsを展開中。

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