デザインセンター制と関わりの深い「デザインマネジメント」とは
「広義のデザインが実現できている状態」を作るために私たちが採用したのは「デザインマネジメント」だ。デザインマネジメントの定義は、下記より引用する。
「デザイン マネジメント」とは、デザインの創造性を生み出す環境づくり、マーケティングを通してユーザーの価値観、好みを継続的に把握するシステムづくりなど、人・物・金・情報・時間を最大限に活かし、経済効果を上げる諸活動である。
上記をふまえ私はデザインマネジメントを、「ただサービスや製品を作るだけでなく、製造方法、マーケ、広報、広告宣伝、販売、必要があれば組織構造までを、デザインを用いてユーザーを中心においたうえで、統一すること」だと解釈している。
またデザインマネジメントで成功したとされる企業には、この3つの共通した要素が観察できるとも指摘されている。
1)デザイン・ポリシー
デザイン・マネジメントに関する企業としての方針や政策。デザイン・ポリシーはいわば、トップレベルにまでデザインの「地位」を引き上げるための宣言でもある。
2)デザイン・マネジメント組織とディレクター
デザイン・マネジメントを実行するための具体的な組織、及び統括責任者。
3)デザイン・マネジメント・システム
デザイン・ポリシーや組織的な位置づけを受け、デザイン・プロジェクトを具体化していくための社内構造、プロジェクト開発体制、サポートシステム、優秀なデザイナー体制(製造部門を持つ企業であれば自社のデザイナー、そうでなければ外部のネットワーク)など。デザインマニュアルやガイドライン、教育ツール、デザイナーのネットワーク、具体的なデザイン開発プログラム等もこれに含む。
出典:紺野登『創造経営の戦略』(筑摩書房、2004年)、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「広義のデザインが実現できている状態」のために必要なこと
これらをふまえ、「広義のデザインが実現できている状態」を実現するために必要なことは、下記の3つであると考えた。
- ユーザーに提供する価値に合わせて現状社内で必要な組織構造を作ること
- デザイン経験(クリエイティブ経験)のあるシニアデザイナーがトップにいること
- 経営幹部にシニアデザイナーがいるか経営幹部のフォロー(接続)があること
必ずしもCDOのポジションを用意する必要があるわけではない。センター長としてデザインのマネージャーを置き、有形と無形のデザイン両方にまつわるあらゆるものを集約すればよい。
ここでもうひとつ大切なのは、経営と接続されていることだ。会社の経営方針やビジョンなどとデザインが常時つながっており、「事業」、「組織」、「コミュニケーション」の3つの軸で、有形、無形のデザインに落とし込むことが必要になる。
いまから約1年半前にデザインセンターを立ち上げたとき、これらの軸をもとに、私は以下の施策を実施すると宣言し、実際に取り組みを行ってきた。下記はその一例だ。
ここからはいくつかの施策を具体的に見ていこう。
CI、VI、BI 見直し
これらを見直すべくプロジェクトを立ち上げ、1年近くかけて完成した。現在はビヘイビアアイデンティティの見直しを進めている。
※本連載記事「CIのなかで今とくにカギとなるのは? コーポレート・アイデンティティの基本をおさらい」を参照。
組織の構造づくり
最初はUIチームとフロントエンドチーム、ディレクターチームを立ち上げ、現在はUXチームとブランドデザインチームが新たに新設された。
プロジェクト開発体制強化
中期ビジョンと短期目標を作成し、半期ごとにメンバーに共有。デザインセンターの短期目標をメンバーそれぞれの目標に落としこみ、みんなで実現する仕組みを構築した。
デザイナー社内外への認知拡散(イベント登壇、Twitterでの情報発信など)
「Designship」や「ReDesigner」、「vivivit」などのイベント登壇や、まったく更新していなかったTwitterを2020年1月から再始動。その際のフォロワーは9名だったが、2020年12月には3,240名に。このコラム執筆のきっかけもTwitterからだ。
育成(キャリアパス、ナレッジ共有など)
私が入社したときには、正社員のUXデザイナー、UIデザイナーが0名であったが、1年半で正社員のUXデザイナーが2名、UIデザイナーが新卒ふくめ8名となった。なお、デザイナーがいなかったころから現在にいたるまで、業務委託のパートナーの方に協力していただいている。
※本連載記事「面接で意識すべきポイントや事前に準備すべきこととは キュービック流採用の流れを一挙公開!」を参照。
おわりに
デザインセンターを立ち上げるためにさまざまな準備をして実践してきたが、ひとりで実現できたことは少ない。デザインセンターを作り、いろいろな人たちの力を借りながら達成できたことばかりだ。デザインセンターを作っていちばんよかったと感じているのは、目的を作り、みんながそれに集中する環境ができたことである。
今後も未来を描きながら、たくさんの方を巻き込みながらビジョンの実現にむけ邁進していきたいが、そのためにはさらに多くの方の協力を得ながら自身の影響範囲を広げ、多くの人の目的達成もあわせて目指していきたいと思っている。
デザイナーひとりでは実現できないことがあっても、チームで目的を作り、具体的な施策に落としてこむことで実現していってほしい。