――まずはご経歴と、現在はどんな業務を行っているか教えていただけますか?
丸山ひかるさん(以下、丸山):私は、2014年に独立系のソフトウェア会社に新卒入社して、そこから開発者としてのキャリアが始まりました。そこで最初に携わったのはWeb APIの開発で、Ruby on RailsやAWSを触っていたのですが、提供しているプロダクトを開発者に啓蒙しようという流れがあり、声がかかってエバンジェリストとして活動していました。その後、クラウド系のスタートアップ企業に転職して、そこでもエバンジェリストの役割を担っていました。
その後、2019年にアクイアにジョインし、テクニカルトランスレーターとして働いています。アクイアは2007年に創業したソフトウェア企業で、オープンソースのCMSであるDrupalの有償サポートやプラットフォーム提供としてスタートし、現在はデジタルエクスペリエンスプラットフォームとしてビジネスの幅を広げています。日本オフィスは2年前に設立されました。海外と比較して日本ではDrupalはあまり知られていませんし、Drupal開発者も多くありません。日本でもDrupalをもっと知ってもらいたいということで、開発者向けにコンテンツを作ったり登壇したりしています。
福岡由梨さん(以下、福岡):私は大学時代にサイバーエージェントで営業職のインターンを始めたところからIT業界でのキャリアがスタートました。そのままサイバーエージェントに新卒入社して、その後リクルートで新規事業開発に携わりました。その後、結婚して、妊娠がわかった時点で一旦会社を辞め、5年間専業主婦をしました。その後社会復帰をし、国内の企業で2社マーケティング担当として勤務したあと、アクイアには2019年からマーケティング担当としてジョインしています。丸山さんとは前職が同じで、丸山さんがエバンジェリストとして活動している姿を見て、アクイアにも技術を伝播する人がいたらドライブするだろうなと思い、アクイアにお誘いしたという経緯があります。
多様な方がオープンソースへの貢献できるよう「自由な時間」を与えたい
――Drupalコミュニティでは、ダイバーシティを高めるためにどんな取り組みを行っていますか?
丸山:Drupalの創始者であり、アクイアのCTOであるドリス・バイタルトは40歳ほどの男性ですが、「The privilege of free time in Open Source」というブログエントリで、「オープンソースは実力主義ではない」と述べています。人種差別によって賃金格差が生じている方々や、家事育児に追われる女性などのことを、ブログでは「過小評価されたグループ(underrepresented groups)」と呼んでいますが、こうしたグループに属する方々は、オープンソースに貢献するために必要な「自由な時間」を持つことが困難であるとしています。
毎年行われている、Drupalへの貢献に関する調査レポートでは、ジェンダーバランスについて取り上げられています。男性以外のDrupal貢献者が年々数パーセントほど増加していますが、その割合は未だ不均衡です。
例えば、女性は男性の2倍以上の時間を家事や育児などの無給の家事に費やしているという調査結果が出ていて、こうした方々がオープンソースに貢献するだけの同じ量の時間を持っていると仮定することは不公平で非現実的です。こうした方々が、よりオープンソースに貢献したり、学んだりできるような取り組みとして、Drupalプロジェクトをサポートする非営利団体「Drupal Association」は、過小評価された人々からのコミュニティ参加を促進することをサポートしています。DrupalのグローバルカンファレンスであるDrupalConでは奨学金プログラムが設けられていて、彼らをイベントに招待するための奨学金チケットを提供しています。
Drupalが大事にする価値観の一つとして、「誰もが使用できるソフトウェアを構築する(Build software that everyone can use)」という原則があります。Webが全ての人々に対してオープンであるように、誰もがDrupalにアクセスし、安全に利用できるようにする必要があります。さまざまなバックグラウンドを持つ人々とのコラボレーションによってDrupalソフトウェアに多種多様なフィードバックが反映され、それが人々に豊かな体験を提供することに繋がるはずです。
また、アクイアとしても、Drupalに関わる女性をブログで紹介する取り組み(The Women of the Drupal Community)をしていますね。
福岡:ドリスはサポーティブな人柄で、メールでのやり取りなども全く権威的でないんですよね。オープンソースならではなところもあるでしょうし、ドリス・バイタルトという人物の思想として、アクイアの社内文化にもいい影響を与えているんじゃないかなと思います。
丸山さん自身も、男女はもちろん、年齢の違いや、お客様に対しても、変にへりくだったりせず、分からなくて困っている人に対して別け隔てなく接しているなと思います。
性差もそうですが、今の10代~20代のデジタルネイティブな世代と、社会に出てからデジタル化が進んだ世代では、デジタルリテラシーのギャップも大きいと思うんですね。マイノリティやマジョリティに限らず、どんな人にも正しく理解してもらえるように解説するところを、誰に対しても開け隔てなくやっているなと、隣で見ていて思いますね。