思いをそのまま発信できる場所を stand.fmが目指した世界
同講演の後半では、大石さんのほか、stand.fm代表の中川綾太郎さんも交えたパネルディスカッションが行われた。ここでは、寄せられた質問におふたりが答えた様子を抜粋して紹介したい。
――昨今音声サービスが盛り上がっていますが、この流れをどう捉えていますか?
中川 僕らがサービスを作ったタイミングは2018年の後半でした。その当時は、投資家コミュニティでも一部の人が「半年か1年後くらいにオーディオが来そうだよね」と話しているくらいでした。中長期的には盛り上がっていくだろうと思っていましたが、短期的にこのようなトレンドになったのは僕らの予想を超えましたね。
また、音声SNS「Clubhouse」が話題になったことで、複数人で話すとどうなるのか、耳のながら聞きに対するニーズなどを、多くの人が実体験に沿って感じたのではないでしょうか。これは僕らにとってもポジティブなことではないかと考えています。
――当時、いまほど盛り上がりを見せていなかったオーディオ配信市場に注力すると決めた理由はありますか?
中川 2~3年前くらいからでしょうか。いまの若い世代の人の生活にYouTubeが馴染んでいたり、好きな有名人がYouTuberという人が増えたなど、実体験として影響を受けている人が多くなったことを感じていました。いままで一部の人しかできなかった動画の制作をはじめ、表現の民主化が進んだことで、誰もが人に影響を与えられるようになっています。写真で言えば、Instagramもそうですよね。
市場全体の大きさは関係なく、ラジオやPodcastは、日本でまだ民主化されきっていない領域だろうと考えました。動画だったら、TikTok、YouTube、Instagramのストーリーなどとても混み合っていましたし、ディスプレイの時間を取り合うのは大変でしょう。一方、僕らの中でもラジオが好きなスタッフは多かったこと、またオーディオ配信ならば市場としても、多くの人が表現できる場所としても可能性があるのではないかと思いました。
――stand.fmでは、ユーザーからのフィードバックをどのようにUI/UXに落としこんでいますか?
大石 定期的にユーザーインタビューを行っていたり、アプリから問い合わせいただいた内容がSlackに流れるようになっているので、それらを1つひとつチェックしたりしています。そのほかには、Twitterからの意見をプロダクトマネージャーやエンジニアと話し、改善できる部分は対応することも。デザイナーとしては直接インタビューをするところまで手が回っていないため、現在はテキストにされたものを拝見しています。
――「声でつながる、優しい世界を創る」というミッションを採用した理由をおしえてください。
中川 まず、私たち独自の価値とは何かを考えました。いろいろなサービスを見ていると競争してもらう設計になりがちですが、それに疲れている人がすごく多い。YouTubeだと数字が見えるため、自分が配信したいことよりも世の中にウケることをやらなければならないといった方向にいきがちなんです。みんなが発信したいことをそのまま発信できる場所を作りたいと思っていたときに出てきたキーワードが“優しい”でした。
――この“優しい”がデザインに影響を与えた部分はありますか?
大石 数字を出さないというお話を先ほどしましたが、そこはかなり“優しい”に直結する部分だと思います。今回のイベントでも、Zoom上でいま何人が閲覧しているのかが見え、それでさらに緊張してしまったのですが、そういったプレッシャーを無くすことが“優しい”に繋がる要素のひとつだと考えています。
――中川さん、大石さん、ありがとうございました。