求めるのは「共通の言葉で話せること」、意識しているのは「組織で取り組むこと」
――経営者として、デザイナーにはどのようなマインドのもと事業成長に貢献してほしいですか?
柴田 ひとつは、デザインに閉じないでほしいということです。事業に関わっている職種はデザイン、技術、ビジネスなどさまざまですが、デザイナーはデザインを軸にしながら、ビジネスやエンジニアリング、テクノロジーに関する知識を身に着けてほしい。
それは広く浅くで良いと思っていますが、事業を推進する上で関わる職種の人たちと共通の言葉で話ができるくらいのレベル感まではスキルを上げてほしいですね。その知識があれば職種をまたいだコミュニケーションがよりスムーズになり、それぞれの職種に対して共通の理解をもつことができるはずです。
あとは、まずやってみようという意識を持ってもらいたい。たとえば綿貫は、企画やアイディア段階からデザイナーに入ってほしいと声をかけると、二つ返事でイエスと言ってくれます。少し特殊なのかもしれませんが、ちょっと忙しいとかそこは遠慮しておきますとはまず言わないんですよね。自分の専門領域に閉じずに、まずはやってみるというマインドでいてくれると、自ずと事業成長に必要な人材としてチームに存在することができるのではないでしょうか。
――では、デザイナーではないメンバーには、どのようにデザインを捉えてほしいですか?
柴田 どの職種でもそうだと思いますがデザイナーと同様、さまざまな立場の人と共通の言葉で、共通の認識や理解を得られるまでの情報量は持っておいてほしいと思います。そのために行ったのが、綿貫が企画してくれた「デザインスクラム」いう講義です。社内のビジネス職のメンバーに知っておいてほしいデザインの知識を、全15回で解説してくれた。それに参加したメンバーは、共通の認識でデザイナーと話ができるまでになっているはずです。
綿貫 Incrementsに加わった際に、これからデザインをどうしていきたいのか、どのように考えているのかについて意思表示をした記事をチーム内のドキュメントに投稿しました。僕がIncrementsに異動になって2週間ほど経ったころのことです。そこでデザインを皆さんにひらいていくつもりですと宣言したところ、デザインに興味を持ってくれるメンバーも多かった。それならば最低限必要なデザインの知識を体系立てて話そうと思ったのがデザインスクラムの始まりです。2週間に1回程度のペースで、およそ半年かけて行いました。
――そんな綿貫さんが、いちデザイナーとして事業成長のために大切にしていることはありますか?
綿貫 大きく3つあります。ひとつめは、わからないことをわからないままにしないことです。最近、デザイン経営や高度デザイン人材などが注目されていますが、デザインを経営の次元で考えようと思ったら、わからないことがあったときに、デザイナーであることを理由に向き合わないわけにはいきません。僕自身は「わからないのでやれません」とは口にしないようになりたいですし、デザイングループとしても高いレベルで考えられるようにしていきたいです。
ふたつめは、組織で取り組むという点です。1人ひとりのスキルを高めることは大前提ですが、ひとりでものを作るのには限度があります。チームで補い合いながら、それぞれの強いところを共有しながら進めていかなければいけないと感じています。
それにも通ずるのですが、先ほど柴田が「デザイン“に”閉じないでほしい」と言っていたのに対し、僕は「デザイン“を”閉じない」ということを意識しています。
企画の会議でメンバー同士が話しあい、いろいろ決まったとしても、ここからはデザイナーが持ち帰りますとなると、次にみんなが目にするのは完成したものであることが多い。PhotoshopやFigmaで作っている画面の途中経過はあまり見せないですし、散らかっている最中をチームに見せるデザイナーは少ないと思います。
ですが制作のプロセスを知らないとほかのメンバーは、いつの間にかデザインが完成していたような感覚になってしまう。それってチームプレーではないと感じるんですよね。
ツールの強みとしても、たとえばFigmaはURLにアクセスすればいつでも見ることができます。そのURLを議事録に貼っておき、「今こういう状況だけど、これとこれを迷っているんだよね」という話や「いったんこんなアウトプットにしてみたけれど、足りていないところあるかな」などの会話はチーム内でも積極的に行うようにしています。
デザイナー間はもちろん、ほかの職種のメンバーと一緒に進めていくためにも、デザイナーがデザインを閉じないという点は意識しています。