「利用者との間に立ってプロダクト価値を最大化する」エンジニアの新しいキャリアの形「プロダクト・スペシャリスト」とは?
そうしたSaaSを利用する企業が増える一方で、日本でもSaaSを作る企業が急増している。そして、「SIer的な世界のSEやPG」の仕事の一部がSaaS企業に吸収されると考えられる。当然ながら、そこに属するエンジニアも増え、それがエンジニアのキャリアの選択肢にもなりうる。
それではSaaS企業の中で、エンジニアにはどのような役割が求められるのか。池上氏は「SaaSプロダクトを開発するエンジニア」と「SaaSプロダクトを使う人を支援するエンジニア」の2つに大きく分かれていく。後者について、プレイドではプロダクト・スペシャリストと呼び、役割が似ている職種としてはCRE、テクニカルサポート、ソリューションアーキテクト、デベロッパーアドボケイトなどがある。
プロダクト・スペシャリストの仕事は、SaaSと利用者の中にある2つのギャップをすり合わせていくことだ。まず1つ目は、「エンジニアリングスキルのギャップ」で、汎用性の高いSaaSを業務に合わせるために必要なエンジニアリングスキルが、利用者のほとんどが非エンジニアであるために不足していることだ。2つ目は、SaaS側の問題として、業務が日々変化する中で「業務知識のギャップ」が生じてしまうことにある。
エンジニアリングスキルについては、いくつか勘違いや誤解を解消する必要がある。まず、SaaSでの「ノーコード」について、非エンジニアでもシステムやアプリケーションの構築ができるとされているが、「誰でも簡単に操作できる」ことと、それを使って「複雑な現実に対処する」こととの間には大きな開きがある。池上氏にとってノーコードとは「超高水準プログラミング言語」であり、エンジニアとしてのスキルが必要だ。
池上氏は、事例として自社SaaSの「KARTE」の管理画面を出し、Webサイトにコンテンツを挿入する際はやはりHTMLやCSSセレクタなどWebの知識、データ連携のためにはデータ管理のリテラシー、とそれぞれエンジニアとしての知識が必要になることを明かした。そのギャップを解消するために存在しているのが、プロダクト・スペシャリストという仕事だ。
非エンジニアのエンジニアリングスキルのギャップを埋めるために、テクニカルサポートや運用設計支援、ドキュメント執筆、テンプレートやツールの開発などの業務に当たる。また、逆に利用者目線でプロダクトに対してフィードバックを行い、「業務知識」のギャップを埋めることも重要な役割だ。
そうした活動によって、プロダクト・スペシャリストが目指す価値とは何か。それは、「利用者との間に立ってプロダクト価値を最大化する」ことだ。
「どんなに良いプロダクトを作っても、適切に使ってもらわなければ、価値は半減する。エンジニア目線で、プロダクトのより良い使い方を利用者に浸透させたり、逆に使いにくいところをブロダクトにフィードバックしたりすることが必要」と池上氏は強調した。
ちなみに、セッションのタイトルでは「開発しないエンジニア」と銘打っている通り、プレイドのプロダクトスペシャリストの多くはプロダクト本体のコードはあまり書かないという。ただし、SaaS上での実装や外部連携の検証、周辺ツールの開発など、手段としてコードを書くことは普通にあるとのこと。
池上氏は「目的に応じてジョブを使い分けるのが好きな人に向いている。スペシャリストとついているが、実際の中身はジェネラリストだと思う。インストラクターとして利用者に直接教えたり、ライターとしてドキュメントや教材を作り、その作業の一部を巻き取るSaaS Ops、PdMとしてプロダクト仕様を変えにいったり、開発部分も含まれる」と語る。
こうしたプロダクト・スペシャリストについて、SaaSが増え、人が必要になることは明白であるにも関わらず、人材不足の状況にある。池上氏は、「SaaSプロダクトを通じてより多くの人をエンパワーメントしよう。ぜひ、一緒にテクノロジーの民主化を進めよう」と呼びかけ、セッションのまとめとした。