解説:教えて那々子先生
不正指令電磁的記録とは
不正指令電磁的記録に関する罪は、マルウェアを取り締まるもので、「ウイルス罪」などの通称で呼ばれています。刑法168条の2と刑法168条の3に定められています。
(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。
(不正指令電磁的記録取得等)
第百六十八条の三 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
条文を読むと、法律上の不正指令電磁的記録の定義は、以下の両方を満たすプログラムということになっていることが分かります。
- 意図に反する動作をする
- 不正であること
これは、技術的な観点でのマルウェアの定義に比べると非常に曖昧で、その法運用が技術者や専門家から問題視されています。
「意図に反する」「不正」とは
この条文における「意図に反する」は、本来、「プログラムがちょっとでも意図に反したら違法」という風に解釈されるものではありません。
『大コンメンタール刑法』によると、大前提として、この条文の保護法益は「プログラムに対する社会一般の信頼」とされており、「意図に反する」かどうかは「プログラムに対する社会一般の信頼」を害するかどうかという観点で判断されます。
また、「俺の意図に反したから、はい違法」という解釈も誤りです。「個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法などを総合的に考慮して、その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として規範的に判断する」とされています。
そして、例え「意図に反する」ものであっても、「不正」とはいえないものは罪の対象となりません。そして、「不正」かどうかは、「社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断する」とされています。
出典:『大コンメンタール刑法〔第三版〕第8巻』(大塚仁ほか編、青林書院刊) P340-346 吉田雅之(2014)「不正指令電磁的記録に関する罪」
つまり、まとめると
- プログラムに対する社会一般の信頼を害するほど意図に反する(以下「反意図性」)
- 社会的に許容されないほど不正である(以下「不正性」)
という2つの条件を満たすプログラムがこの罪の対象であるということになります。したがって、本来は、相当に悪いマルウェアが想定されていると考えられるのです。
ところが、どうとでも解釈できてしまうことが災いし、法運用が混乱を来してしまったのです。