教育現場の調査・研究で浮かび上がった課題
優れたUXを作り出すには、ペルソナやカスタマージャーニーマップの設定や、人間中心設計(人間=ユーザーを中心としたものづくりにおける設計プロセス)に基づいたデザインを軸に進めることが大切となります。日本でもHCD-netというNPO法人が設立されています。
わたしたちの「よこ式」ではそれらを軸に、Edtech(教育とテクノロジー)や使用される教育現場、そのユーザーについて深く知る必要がありました。それらを知る過程の中で、次のような課題に多く触れました。もちろん、挙げた以外にもたくさんの問題があることは言うまでもありません。
- プログラミング苦手意識
- 学び方がわからない
- フォントやカラーの認識能力
- 教える側の理解深度
- インターネット環境
- デバイスの違いによるギャップ
- 文科省の定める規定
「よこ式」では、「子供たちが使用するサービス」であることは決定していました。ただし実際に触れるのは、使用する子どもたちだけでなく現場で教える先生も含まれるので、先生も理解できるものであることも求められます。各学校のネットワーク環境や、使用デバイスの種類、ユニバーサル対応、文科省の定める規定など、先に挙げたようなさまざまな課題が見つかりました。タブレットの電源がわからないという事例もあるなかで課題に向き合い対処していくことが大切です。しかしUXデザインとは、その課題を解決することだけではないと考えています。
UXとは「課題の先にあるサービスの価値」
UXデザインの価値とは、そのサービスによってユーザーが抱えている課題が解決されることだと思います。ですが、ただ単に課題を解決すればよいという解釈ではなく、課題があるということは「本来目指したい場所(ゴール)」があるということがポイントであるように思います。その場所がどこなのかを適切にとらえ、ゴールを設定しそこに向かうサービスを作ることが「UXデザインの価値」ではないでしょうか。
たとえば私たちの「よこ式」というアプリは、「プログラムの初歩的概念を学ぶ」人たち、や、「どう勉強していいかわからない」人たちの入り口となる部分をサポートし、課題解決を行っています。
そして、それらの課題の先にあるのは、「プログラムを学ぶことで情報を適切に選択し、自分で実行することができる概念を知ってもらうこと」、「論理的思考能力、問題解決能力を身につける」、「ITやサービスの仕組みを理解すること」といった向かいたい場所です。そのため「よこ式」も単なるプログラミング学習ソフトではなく、「体感的に学べて楽しみながら自分自身でプログラミングする」ことをゴールとしています。
単に課題を解決するためだけを目的に作ったソフトであれば、現在数多く採用されているMITにて開発された教育用のプログラミング環境「Scratch」をベースに、縦にプログラムを組んでいく形で、短期間でソフトを制作していたかもしれません。
しかし、シンプルな操作感と段階に応じたわかりやすい学習展開のためには、左から右に流れる時間の概念と電気と信号機の流れに直感的に合うことと、Googleのビジュアルプログラミング言語・環境である「Google Blockly」を採用して、よこ操作(よこ一列につなげていく)の教材が効果的なのではないかという結論に至りました。
明確な目的があり、「体感的に学べて楽しみながら自分自身でプログラミングする」というゴールを到達できるサービスが「よこ式」です。また、さまざまなデバイスが存在する現代で多くの人に使ってもらうためにも、インストール不要・レスポンシブ対応のウェブブラウザアプリとして展開をしています。
課題を解決したその先にこそ、行きたいゴールがあると思います。だからこそ、その先のゴールを見つけ出してサービスを考えていく。これが「UXを考える」ということではないでしょうか。