執務スペースのポイントは「変化をつけること」
ここまでオープンスペースについて紹介してきましたが、リノベーションしたのはオープンスペースだけではありません。もう半分の空間である執務スペースについて少しご紹介します。
執務スペースは基本的にはセキュアな空間で作業に集中するエリアですが、その中でも“変化をつけること”がポイントです。いわゆるオフィス的な横並びの単調なレイアウトではなく、使う人の目的や気分にあわせて作業する場所を変えられるように設計しています。
- 個人作業に集中できる一人席ブース
- カフェのような横長机ブース
- 有機的な配置で雑談が生まれやすいワークブース
今回のリノベーションの特徴はオープンスペースを設けたことではありますが、実際に社員が長く時間を過ごす場所は、執務スペースが中心になることが多いです。その空間の中でも働きやすさとともに、「セレンディピティ」や「余白」につながる工夫を設けていくことを大切にしています。
完璧でない方がいい 「余白」が生む無限の可能性
もうひとつのコンセプトである「余白」には、発想力や主体性を刺激する力があります。
最近はさまざまな所で「余白」の重要性が語られています。私たちデザインの現場でも、コミュニケーションや体験の中に、いかに「余白」を設計するかが、ユーザーの心を動かすカギとなっています。
その背景には、一方的なコミュニケーションでは相手が関与できる隙間がなく、他人ゴトになってしまうことが挙げられます。そうならないためにも、隙間となる「余白」を残しておくことが主体性を引き出し、自分ゴトとして取り組むことにつながっていきます。
そういった意味で新しいオフィスで目指したのは、使用用途をきっちりと決め込むのではなく、1人ひとりが工夫する「余白」のある状態です。働く場所として、完璧に整ったオフィスより、変化していくことを楽しんでいきたい。そのためにも、自分たちがどのように働きたいのか、どうやって使っていきたいのかを、一歩踏み込んで主体的に考えていくところからがスタートでした。
2021年6月にリノベーションオフィスが完成してまもなく緊急事態宣言が発令されたこともあり、まだ具体例は少ないですが、以下のような「余白」の使いかたも生まれています。
チームのキックオフでケータリングを頼んでランチ会を実施
何でもオンラインで済むからこそ、最近はリアルで会うことの重要性が増している気がします。一緒にご飯を食べたり、ちょっとしたレクリエーションをしたり、画面上では伝わらない情報やしぐさが、関係性を深めるきっかけとなっています。
居場所やスタイルを変えながら学んでいく新人研修
内容にあわせて、机の配置を変えてディスカッションをしたり、ファミレス席で集中して意見交換をしたり。また自由度があることで、気分を変えながら会話を楽しんだり、予想外のアイディアが生まれることも。これまでとは違う学びの場が模索できています。
多拠点をつないだナレッジ共有会
小上がりスペースにあるプロジェクターを使用してナレッジの共有会を実施。たまたまオープンスペースに居合わせた社員が聞いていたり、自宅で聞いている人もいたり、その場でしかないリアルタイム感を共有することができました。
また、あるデザイナーからはこんな声も。
「リモート中心になって作業と打ち合わせが続き、息抜きができないまま一日が終わってしまうこともしばしば。だからたまに出社すると、移動時間も考えごとをしたり読書をしたり、気分転換になっていたりして、オフィスに出社すること自体が余白になっています」
オフィスに求める役割が社員の中でも変化しているんだと感じました。そこに画一的な正解はありません。多様な考えかたや働きかたが生まれてきてほしいです。
リノベーションが完成して約4ヵ月が経ちましたが(2021年9月時点)、正直なところ、出社率が向上したり、社員の自発的な使いかたや働きかたが完璧に実践できているとはまだまだ言えない状態です。(もちろん緊急事態宣言下で出社に制限がかかっている影響は大きいですが)
ただそんな中でも、今回ご紹介したように、コンセプト「セレンディピティ」と「余白」を活かした「場の使いかた」が少しずつ生まれています。
さらに「使いかた」を超えた立体的な施策も、社員起案でいろいろ生まれ、テスト的に動き始めています。
次回は、リノベーション完成後、オンラインとオフラインが交差する中で具体的に取り組んでいる施策をご紹介します。お楽しみに。