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キーパーソンインタビュー

OSSが持続可能であるために――疲弊する「ボランティアエンジニア」を支援する新たな仕組みとは?

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OSSと伝統建築の意外な共通点とは? 新たなエコシステムヘの取り組み

――経済的見返りのないコントリビューターやコミュニティに参加する開発者という課題に対して、どのように解決していけばいいと思われますか。それがどのようにOSSの発展に寄与するのでしょうか。

黒坂:現在多くのコントリビューターが「ボランティアエンジニア」のような状態に置かれていますね。その多くは「ボランティアでやりたい」と考えているわけではなく、実質そういう状態に置かれてしまっているだけなのですが。

川上:OSSはハッカー同士なら交換し合おうという文化ですが、一方的に「使われる」のは心外だと思います。開発したものには決して「0円」というプライスが付いているわけではありません。Linuxだって「無料で使ってください」ではなく、「参加して貢献してください」として公開したわけですから。そうしたマナーと言うか文化を伝えていくには、やはり使う側の意識改革が必要だと思っています。

黒坂:コミッターが減っているのも、使う側の意識の低下でしょうね。いわば、「利用するだけ」という開発者も増えている。それは企業側の問題もあって、OSSを活用する目的が、コスト削減やイノベーション、利益獲得など自社のために偏れば、ますますビジネスエンジニアだけが増えてOSSの裾野を支えることも難しくなるでしょう。当社もOSSを活用する企業として、得た利益をもってOSS開発者の雇用や、コミュニティへの参加支援、OSSの普及などに努めてきましたが、そうした自発的な個別の取り組みに委ねるだけではもはや難しいと感じるようになりました。そこで、FRAME00さんが開発した「Dev Protocol」に注目し、支援を決めた次第です。

Aggre:実は、FRAME00は私の妻が起業した会社なのですが、その課題感がまさにOSSの状況と似ているんです。彼女の起業のきっかけは、神社や仏閣など伝統建築の収益が、スマホゲームのような短期的に消費される商品の収益の1/12程度であるという衝撃的な事実でした。100年先も残るような文化的な価値に対して、経済的評価があまりにも低い。その経済的価値の乖離を埋めるためには、根本的な構造が変わるべきではないかと考えたわけです。OSSの現状も同様に、技術的な価値と経済的価値に乖離があり、それが技術の持続的な発展の足かせになっているのは間違いありません。そこでDeFiプロトコル「Dev Protocol」の開発に至り、約3年前にOSS推進フォーラムに相談したことをきっかけに、以降、黒坂さんにも尽力いただくようになったんです。誤解のないように付け加えさせていただくと「Dev Protocol」で収益を上げているわけでなく、現状はサイオスさんに支援いただく形で継続しています。

Dev Protocolの概要

Dev Protocolの概要

川上:「Dev Protocol」は、ブロックチェーンによってOSS開発者を含めた「クリエイター」の持続的なマネタイズを図ろうというもので、クリエイティブ作品の利用者側の意識を変えることを目的のひとつとして考えています。まずOSSコントリビューターがOSSをトークン化し、スポンサーが「Devトークン」という仮想通貨(暗号資産)をリポジトリに預けます。ブロックチェーンの「ステーキング」という仕組みを活かし、OSSで得られた利益をOSSコントリビューターとチームに分配し、さらには預けた方も利息を得られるという流れです。寄付だと一時的なものになりがちですが、銀行の定期預金のように「預けたまま」にしておくと利益が得られるという仕組みによって、継続的な支援を促そうというわけです。

 「Dev Protocol」の分散型プロトコルというフレームで、コミュニティ管理者が不在でも自律的に稼働できるのが特徴です。現在は実質的にFRAME00がメンテナンスしていますが、1〜2年以内には完了し、その後は誰でも自由に使えるコモディティな仕組みとしていく予定です。

OSSと、それに支えられている世界が持続可能であるために

――「Dev Protocol」は画期的な取り組みで素晴らしいと思うのですが、このプラットフォームの成功も含めて、OSS開発者が将来もOSS開発に積極的に取り組み、世界がその恩恵に与れるためには、どのようなことが必要だと思われますか。

黒坂:確かに「Dev Protocol」自体はあくまでマネタイズのプラットフォームではありますが、「寄付をしろ」というメッセージではありません。支援者や利用者が、寄付によって社会貢献できているという満足感を得られることが大切だと考えています。

 またOSSは開発者だけで成り立つものでもなく、ユーザーコミュニティや勉強会の開催を行う人、ブログで情報発信する人、単にOSSを利用するだけの開発者や資格取得する開発者、ビジネスを考える人、推進する団体やグループなど、さまざまな人々で構成されている世界です。だからこそ、OSSの開発者自身も自分の価値を社会に持続的に還元していくために、自らマネタイズを考えてほしいし、価値を伝えていってほしいと思います。

Aggre:そうですね。それぞれが自身の経済的利益や満足感など”利己的な動機”で動いても、それが自然とOSSを支援することにつながり、社会に役立つというエコシステムになることが重要だと考えています。つまり、OSSが事業で、そこに資金を供給する人がいる、いわば株式会社のようになればいいのではないかと。そうなれば、OSS開発者も自分が事業の担い手であるという自覚を持って取り組む必要も生じてくるでしょう。

黒坂:単なる株式会社との違いは、事業主体であるOSS開発者が事業を成り立たせるための業務、たとえば資金調達などに奔走せずに、「Dev Protocol」によって作成したOSSが使われて人気になれば収益も上がるという構造になっていることです。開発に集中でき、集中した成果が収入にもつながる。モチベーションのあり方として本質的ではないでしょうか。

川上:ブロックチェーンのメリットは、特定のプラットフォーマーに牛耳られないことであり、自律的で自由な世界はまさにOSSそのものです。その場で、OSS開発者というイノベーターが評価され、持続的に挑戦できる仕組みが実現しつつあることに、大きなやりがいを感じています。

 サービス開始から2年で既に1600を超えるOSSが登録され、ステーキングの総額は3億円を超えました。今後もこの数字は飛躍的に増えると期待されており、ぜひとも多くの方々に参加いただければと思っています。そして、「Dev Protocol」が、OSS開発者だけでなく、OSSを活用するビジネスエンジニアや企業などOSSを取り巻くあらゆるステークホルダーの意識を変え、OSSを盛りたて、その活用によって世界をより良くしていく方向に貢献できればと考えています。

――本日は興味深いお話を誠にありがとうございました。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小林 真一朗(編集部)(コバヤシシンイチロウ)

 2019年6月よりCodeZine編集部所属。カリフォルニア大学バークレー校人文科学部哲学科卒。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/15093 2021/12/13 11:00

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