メタバースの本質とは そのカギとなる4つの視点
――メタバースに必要な4つの視点とは、具体的にどういったものなのでしょうか。
ひとつめが、次世代SNSをめぐる戦いです。インターネットのなかでSNSというのは市場規模も非常に大きいのですが、なぜ注目度が高いかというと、大きなビジネスでありながらも「いちばんひっくり返しやすいから」でしょう。今から検索エンジンを開発してシェアを獲得していくのは不可能にすら思えますし、EC系やオフィス系のソフトも同じことが言えます。ただ、SNSに関しては、LINE、SnapChat、TikTokというように、次から次へと新しいサービスが登場している状況です。
ここで重要なのは、SNSは通信の進化とともに姿を変えてきたということです。最初の3Gはテキストの時代でしたので、FacebookやTwitter、日本であればミクシィが流行しました。4Gでは写真や動画の時代となり、InstagramやSnapChat、TiKTokが台頭しています。では、5GではいったいどのようなSNSが世の中を席巻するのか。動画の先にあるものは何なのかを考えると、いよいよARやVRの時代が訪れるのではないか、という軸がひとつめのアプローチです。
ふたつめはゲームの進化です。ゲームと聞いて連想される誤ったイメージは、「ひとりで家のゲーム機の前で黙々とプレイをする」という図です。今若い世代を中心に広まっているゲームはそうではない。『Minecraft』や『フォートナイト』などはすべてリアルタイムで友達と遊ぶもの。もし、次世代ソーシャルネットワークの定義が「多くの友だちが集まる場所」なのだとしたら、それはすでにフォートナイトが実現しているのではないかと考えることもできます。ゲーム自体がSNS化しているという捉えかたですね。
ポイントとなるのは、「リアルグラフ」(現実の友達とつながる)か「バーチャルグラフ」(インターネット上での関係)かという点です。ゲームがSNS化することで、いよいよリアルな友達ではなく趣味や嗜好でバーチャル上で集まる、バーチャルグラフができるのではないか、と期待されています。
これまでを振り返ってみると、完全にバーチャルグラフによって成り立ったサービスで長く続いたものはありません。バーチャルグラフのみの場合、会話をする話題が尽きてしまうからです。そんななか唯一成立したのは、MMO RPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)。MMOでは、どの武器が良いのか、どうしたら敵を倒すことができるのかといった共通の話題が提供できるからです。
ただ今までのMMO RPGは、PCでもとくにハイエンドのマシンを持っているユーザーに向けたものが多く、非常にニッチでした。これが徐々にいろいろなデバイスでプレイできるようになり、かつクロスプラットフォームになってきたことで、特別なものではなくなりなりつつあります。
3つめは、VRやARの進化です。VRに関しては、2020年10月に登場した「Meta Quest 2」が1,000万台に到達し、普及期を迎えつつあります。VRやARが大切な理由は、ザッカーバーグ氏も話していたとおり「実在感・存在感(=Presence)」です。人が仲良くなるためには、このPresenceが非常に重要です。
たとえばコロナ禍となった当初、Zoomをはじめとしたオンライン飲み会が流行しましたよね。ですがやってみた結果、食事をしたり飲み会をしたりといった人との集まりは、リアルのほうが良いと感じる人が多かったと思います。これがPresenceの有無の差なんです。
いまもZoom飲みを続けている人はほとんどいないと思います。なぜかというと「おもしろくないから」。食事をしたり飲み会をしたりといった人との集まりは、リアルのほうが良いと感じるはず。これがPresenceの有無の差なんです。
バーバル(Verbal)=言語で話すコミュニケーションはオンライン上でも可能ですが、ノンバーバルなコミュニケーションはしづらい。つまり、目の瞬きや頷きなど、非言語のコミュニケーションが会話をスムーズに成り立たせるための大切な要素なのですが、Zoomなどではレイテンシーの問題で非言語コミュニケーションが成立しません。同時に話すと被って聞こえなくなったりしますよね。これもレイテンシーの課題です。
まだたしかなデータはないのですが、人が親交を深めるためには、こういったノンバーバルなコミュニケーションが極めて重要だということの表れなのだと思います。この非言語の部分は、VRやARが補うことのできるひとつでしょう。Meta社がリリースした「Horizon Workrooms」も、AIを使いアバターの表情を非常にリアルに見せてくれます。
ビデオチャットやオンライン会議ツールの場合、動画のデータを送受信しなくてはならないためどうしても遅延が生じます。ですがバーチャルなアバターであれば、そのデータ自体はクライアント側にあり、送るデータ量を大幅に少なくすることができるので、よりリアルタイムに反応することができる。さらにAIがあれば補正をすることもできるのです。
4つめが、ブロックチェーンとNFTです。簡単にいえばNFTとは「デジタルでも限定商品を作ることができる技術」。いままでもゲームで10個限定のアイテムをつくることはできましたが、それが本当に10個であることを証明することができませんでした。ですがNFTではパブリックなブロックチェーン上に記載し改ざんできなくなるため、限定品であることを示すことができる。つまり、資産価値を持ったデジタルデータが登場したのです。
インターネットによって、データをコピーするコストはほぼゼロになりました。その結果、供給量が無限になりデータそのものに価値がなくなってしまった。エンターテインメントやクリエイタービジネスは、そういったデータそのものを販売していたのですが、それが売れなくなってしまったんです。結果すべてのインターネットサービスは“サービス”を提供する形に変わっていきました。NetflixやSpotify、僕らのゲーム業界も同じです。
ただ、ブロックチェーンやNFTを取り入れることで、データそのものの資産価値が再び生まれるようになってきたと思います。
このように供給量を制限できるテクノロジーによって、バーチャル空間上にリアルな経済圏が誕生しました。ブロックチェーン界隈では、情報をやりとりしていたWeb 2.0に対して、価値のやりとりをするという意味でこういった変化を「Web 3.0(ウェブスリー)」と呼んでいます。
たとえば『マインクラフト』などのゲームでも、見事な造形をつくるプレイヤーがいますが、どんなに素晴らしいものをつくったとしても、リアルな世界では無価値。それがもし、ブロックチェーン上にあって世界にひとつしかないとなれば、土地や家具、アバター、洋服やデジタルスニーカー、武器でも絵画でも車でも、お金を払っても欲しいという人が絶対にいるはずですよね。