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トヨタが考えるアジャイル開発とは?

初代プリウス開発からスクラムのエッセンスを探す! トヨタが考える「成功するアジャイル開発」とは?

トヨタが考えるアジャイル開発とは? 前編

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開発を支えたチーフエンジニアの存在、成功するためのポイントとは?

──初代プリウス開発の成功を支えたのがチーフエンジニアの内山田竹志氏だとおうかがいしました。どのような人でしょうか?

南野:内山田さんに「初代プリウス開発はメンバーが優秀だったから、21世紀に間に合ったのでしょうか?」と聞くと「いいえ。各部署のエースが集まったからではありません。トヨタ社員なら誰でもプリウスを開発できたと思います」とおっしゃっていました。

竹内:当時は内山田さんのリーダーシップで心理的安全性をカバーしていたと思いますよ。

南野:クルマの開発は機能ごとに開発を進めていくため、どうしてもサイロ化しがちです。最高のエンジンを作ることができたとしても、その最高のエンジンをクルマに乗せて最高のパフォーマンスを発揮できるとは限りません。部分最適ではなく全体最適の目線が必要になります。

 昔は部分最適を集めて最高のクルマにできることもありましたが、プリウスはエンジンとモーター、さらに電池、回生ブレーキ、電動パワステなどいろんなシステムが結集するものでした。そこで、内山田さんは部分最適ではなく全体最適が必要と考え、常に情報を共有できる環境を整え、マネジメントし始めました。この動きこそ、内山田さんが卓越しているポイントだと感じています。

竹内:内山田さんに「現場が伸び伸びと新しいチャレンジできるように、何をしましたか?」と聞くと、次の3つを挙げていました。

 1点目は「全責任はリーダーが取る。という覚悟を持つこと」。そうすれば信頼関係ができて、メンバーは安心して仕事に打ち込める。2点目は「プロジェクトのビジョンとそれを実現する目標を明確にすること」。メンバーそれぞれにプロジェクトの意義を腹落ちしてもらうことで、互いに自分の領域を越えることができた。3点目は「情報共有を図り、各メンバーが全体把握できるようにすること」。メーリングリストなど最新ツールを導入することで、全体最適を図れる環境を整えた。

川口:すごく基本的だけど重要なことですよね。ソフトウェアで照らし合わせると、各分野の腕利きプログラマやスペシャリストを集めたとしてもプロダクトが成功するとは限らない。それぞれの専門性におけるこだわりが相反することもありますから。だから全情報を共有して、ビジョンを明らかにして、全体を見て調整していくことが必要になります。

アギレルゴコンサルティング 川口恭伸氏
アギレルゴコンサルティング 川口恭伸氏

竹内:当時はまだ古代のやりかたでしたけど「チーム全体の成果を最大化する」という思想を内山田さんはこのプロジェクトで実現していました。だからメンバーは思い切って仕事ができたのだと思います。内山田さんは「みんなフラットだから議論する時に肩書は不要だ。判断する時だけ肩書を使うんだ」と言っていてかっこよかったです。

──これからアジャイルで開発していくうえで、どのような意識を持っているといいでしょうか?

南野:1つは全体最適指向ですね。ただし心理的安全性が確保されていない環境では全体最適指向は難しいと思います。トヨタには「自分以外の誰かのために」という思いが脈々と受け継がれています。これはトヨタグループ創始者の豊田佐吉さんが「毎晩夜なべして機織りする母を助けたい」という思いから人力織機を開発し、トヨタグループの礎となるG型織機へとつながったという逸話があります。

 しかし、こうした思いだけでは全体最適指向は難しいのが現状です。そこで、組織の自律化が必要となってきます。自律した組織が常に全体を意識して、ものを作っていける環境を整えることが大事だと思います。

竹内:ソフトウェアにしてもハードウェアにしても、アジャイル開発をしていくにはマインドとプロセスが大事だと私は思います。マインドは知的生産性を高め、プロセスは短いサイクルで情報を同期して変化に追従していくものなので、どちらも必要です。両方合わせると「変化する環境のなかで、お客様に価値ある商品を早く継続的に提供できる」という状態になります。

 ここで重要になるのが心理的安全性と自律したモチベーションです。心理的安全性は、まずは自分一人では変化の時代の仕事をすることはできないことを認めるのが最初の壁で、お互いを認め合い・学び・相互信頼を高め、自分自身であり続け負担感なく成長する。最終的に、全体最適・全体発展を恐れない状態になる事です。自律したモチベーションは、まずは己を知り、その状態を仲間に開示できるところが最初の壁です。例えば、パーソナルマップを作り、互いに興味を持ち、学び合う。そうしたうえで責任と権限と行動が一致して、互いのコーチングスキルでモチベーションを最大化することで、柔軟かつ俊敏なチームとなると考えています。こうした状態をキープできれば内山田さんが実現した環境を継続できて、現代流のやりかたになると思います。しかしまだ完全に浸透しているわけではないので、引き続きがんばりたいと思います。

 前編では、内部資料から初代プリウス開発プロジェクトを振り返り、スクラムとの接点を見い出した取り組みについてお伺いしました。

 後編では、その取り組みから学んだことを現代の開発に用いた効果や、アジャイル開発を導入する際のポイントについてお伺いします。

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この記事の著者

加山 恵美(カヤマ エミ)

フリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Onlineの取材・記事や、EnterpriseZine/Security Onlineキュレーターも担当しています。Webサイト:http://emiekayama.net

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鍋島 英莉(編集部)(ナベシマ エリ)

2019年に翔泳社へ中途入社し、CodeZine編集部に配属。同志社大学文学部文化史学科卒。

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小玉 莉子(編集部)(コダマ リコ)

 2022年に新卒で翔泳社へ入社し、CodeZine編集部に配属。 公立はこだて未来大学情報アーキテクチャ学科卒。

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