好きな技術に携わりながら、事業にも貢献したい
人材サービスから始まり、『SUUMO』『ホットペッパービューティー』『じゃらん』『ゼクシィ』など、さまざまなサービスを提供しているリクルート。「まだ、ここにない、出会い。」というテーマを実現すべく、新規サービス開発も積極的に行っている。
佐久間氏が所属する住まい領域の組織では、「誰もが自分にとって最適な住まいに出会い、充実した暮らしができる社会」を目指し、サービス提供を通じて住まい探しを便利にするとともに、住宅・不動産マーケットの活性化に貢献してきた。だがより納得いく住まい探しを実現するには、住まいにかかわる業界の人たちが健全に働き続けられる環境を整備することも必要だ。そのため、住まい領域では、住まいにかかわる業界の人たちの業務改革の支援なども行っている。
佐久間氏が開発に携わっている「引っ越し業者支援SaaS」もその一つだ。同サービスは紙やホワイトボードなど、アナログで行っていたトラックの配車業務・スケジュール管理をデジタル化するサービス。新しい住まいに移るには引っ越しが欠かせない。だが引っ越し業者の約80%が配車業務をデジタル化できていないという。そういう業者の業務効率化を支援し、今後の労働人口の減少などの社会課題の解決にもつながるサービスである。
佐久間氏がリクルートに入社したのは2023年4月。学生時代の専攻はコンピュータ理工学。ニューラルネットワークや機械学習など、AI関連の研究に従事していた。また研究の傍らインターンシップにも積極的に参加。その中にはリクルートも含まれる。
インターンシップを経験しているうちに、「好きな技術を使って、ただものを作るだけで本当に良いのだろうかという疑問が湧いてきた」と佐久間氏は当時を振り返る。もやもやを払拭するため、佐久間氏はインターンシップ先の先輩に、機会があればその会社で働く意味や意義について尋ねたりしたという。そうしているうちに「ただ好きな技術でものづくりするだけではなく、それがユーザーのためになるのはもちろん、売上を上げ、事業や企業の成長に貢献したいと思いました」と語る。そしてリクルートなら事業と技術を両立できると思ったのだ。
リクルートに入社を決めた理由はほかにもある。「エンジニアはコードを書く機会が多いので、ユーザーから遠くなりがちな存在です。自分の担当するサービスのユーザーにヒアリングするなど、ユーザーを近くに感じられるような環境で働きたいと思っていました。インターンシップを経験する中で、リクルートはそれができる環境だと実感しました」(佐久間氏)
入社5カ月で新規プロダクト開発プロジェクトに参加
ユーザーの近くで働きたいという思いが叶ってか、そんな佐久間氏が引っ越し業者支援SaaSの開発プロジェクトに参画することになったのは1年目の8月。約2カ月間の新人研修後、住まい領域エンジニアリング部に配属されて3カ月が経った頃だった。
先述したように引っ越し業界はデジタル化が進んでおらず、トラックを管理するシステム導入もまだまだ進んでいなかった。UI/UXを含めて引っ越し業者の方はどんなものを求めているのか。開発を進めようと思っても、佐久間氏は引っ越し業界に関する知識はない。
さらに、引っ越し業界が繁忙期を迎える前の12月にはプロトタイプをリリースして、フィードバックをできるだけ早く得たいという事情もあった。そのため、開発期間は4カ月という短期間でのチャレンジとなった。
チームは事業戦略を練るプロデューサー、プロダクトへの要求や要件を考えるプロダクトマネージャー(PdM)、デザイナー2人、エンジニア2人、営業1人、QA1人という比較的小規模な構成。実際にプロダクト開発に携わるのは佐久間氏を含めて2人というチャレンジングなプロジェクトだった。ちなみに佐久間氏の担当はフロントエンド。開発する機能も多く、実装方法にナレッジがなかった。
「限られた開発期間でのリリースを叶え、かつ業務効率化につながるよう、要求や要件を優先順位付けしていかねばなりません。また要求の見立て・要件の仕立てが難しかったため、フィードバックループを回しながら開発しました。そこが一番、苦労したところですね」(佐久間氏)。
もう一つ、開発の障壁となったのがコミュニケーションだ。入社1年目で、チームに参画してまだ間もないことから、チームメンバーとの関係性の構築も進んでいなかった。
「『なぜSaaSを作るのか』『事業戦略上、どう影響があるのか』など、事業理解も進んでいませんでした。しかも短納期で開発人員も少ない。自分のモチベーションを維持することも難しく、参画して2~3週間したころに、本当にできるのか、危機感を持ちました」(佐久間氏)
「危機感」から始まり、動き出した先に得られたもの
危機感を解消すべく、佐久間氏はメンターに相談したという。リクルートでは新卒社員に対してメンター制度を導入しており、同部署の先輩がサポートしてくれる。「先輩に業界を理解したいと相談したところ、営業の方や事業戦略を練っている方につないでもらいました」(佐久間氏)
営業担当者やプロデューサーに話をすると、「資料を読むのも良いが、クライアントにヒアリングするのが一番、理解が早い」とクライアントヒアリングに行くことを勧められた。当時はまだヒアリング経験が浅く、若干の戸惑いや緊張があったものの、それでもクライアントヒアリングに赴いたのは、自信を持ってクライアントに良いと思ってもらえるプロダクトを作りたかったからだ。
クライアントヒアリングを複数回行っているうちに、佐久間氏は相手からより多くの情報をいただくコツも掴んでいった。「イエス、ノーで答えられるような質問ではなく、相手がいろいろ話してくれるようなオープンクエスチョンを心がけていました」と佐久間氏。例えば「このプロダクトを使って案件管理をするなら、どう動かしますか」「こんなUIにしようと思っていますが、どう思いますか」などだ。
こうしてクライアントからたくさんの意見をいただきつつ、壁打ちすることで要求・要件の優先順位を付け、フィードバックループを回し、開発を進めていったという。そんな行動を繰り返しているうち、クライアントからも「早く使ってみたい」という意見をもらうことが増えてきた。「未経験の領域で難しいプロジェクトを遂行する中で、その言葉は大きなモチベーションになった」と佐久間氏は言う。
クライアントの生の意見が聞けただけではない。「私だけでなく、もう1人のエンジニアを含むプロジェクトメンバー全員で、クライアントヒアリングに行くことが何度かありました。生の情報をみんなで共有できることに加え、これまでオンライン中心にコミュニケーションを取っていたメンバーたちともオフラインで会えたことで、いろいろな立場の人とコミュニケーションが取れるようになりました」(佐久間氏)
プロデューサーにはプロダクトを開発することになった経緯を、デザイナーにはこのデザインを採用した理由などを聞くことで、プロダクトの輪郭が固まり、納得感を持ちながら開発を進めることができたという。
プロダクトは無事リリース。クライアントに価値貢献でき、社内でも表彰
エンジニア2名という少人数での開発だったが、当初目標通り4カ月と言う短期間で予定通り年内にプロダクトはリリース。引っ越し業界は1月~3月に繁忙期を迎える。佐久間氏たちが開発したサービスは、繁忙期でも滞りなく稼働した。「繁忙期でも使えるプロダクトをクライアントに提供できました。アナログで配車を管理していたクライアントに、大きな価値を提供できたのではないかと思います」と佐久間氏は胸を張る。
プロジェクトが成功裏に終わったことで、佐久間氏は入社1年目の社員に授与される新人賞(エンジニア部門)を受賞。チームでもプロダクト統括本部 住まい領域のVP賞(準MVP賞)を受賞した。どこが評価されたのか。
新人賞については「評価されたポイントが複数あった」と佐久間氏は明かす。まずはクライアントヒアリングをするなど、目的を達成するために自分の職務範囲に縛られず行動を起こしたこと。次に期限内にリリースできるよう機能の優先付けを行い、プロダクトの成長を主眼にし、必要最小限の機能に絞ったMVP(Minimum Viable Product)開発を行ったことなどだ。
必要最小限の機能に絞った背景には、「まずはβ版的な扱いだったので、クライアントが求める機能を必ずしもフルに盛り込む必要がなかったこと」と佐久間氏は語る。今回のプロジェクトの最大の目的は、繁忙期でも滞りなく使えるSaaSに必要な機能を明らかにする検証だったからだ。「とはいえプロトタイプに不要な機能はなかった。そこでちょっとしたデザインの変更でも工数が膨らむことがあるので、PdMやデザイナーと相談しながら、Web標準のデザインを使うところ、使わないところの優先順位付けを行うことで、工数の削減に取り組みました」と佐久間氏は語る。
一方、チームで受賞したVP賞の評価ポイントは、要求・要件の見立て、仕立てが難しい案件でありながら、デザイン、システムの仕様検討を、ヒアリングしながらフィードバックループを重ねて並行して進めたこと。「アジリティ高く開発できたことが、評価されました」(佐久間氏)
今回のプロジェクトの成功の背景には「リクルートにはやりたいことを後押ししてくれる文化がある」と佐久間氏は話す。今回のプロダクト開発で佐久間氏がヒアリングを行ったクライアントは複数社。遠方に出向いたこともあったという。当然、開発時間は減り、交通費などのコストもかかる。だがリクルートの「やりたいことに対して、後押しする」という風土があったから、クライアントヒアリングが実現し、それを通じてメンバーとの関係性構築が可能になった。
「クライアントヒアリングを実施したことで、機能の優先順位付けができ開発スピードも向上しましたし、プロジェクトメンバーとクライアントが同じ方向に向かったからこそ、難しいチャレンジも乗り越えることができました。一歩踏み出すことの大事さ、そして、ものづくりの楽しさを実感することができたプロジェクトでした」と佐久間氏は満足そうに語る。
まだ入社2年目の佐久間氏。今後、どのような将来を描いているのか。「これからも誰かの役に立ったり、世の中を一歩進めたりするようなプロダクト開発に携わっていきたいと思います」(佐久間氏)
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CodeZineの記事「「クライアントの声が聞きたい!」──新卒1年目エンジニアが職務を超えてプロジェクトを成功に導くまで」をお読みいただき、誠にありがとうございました。
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