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これから考えるエンジニアのキャリアの形

顧客課題解決に特化した"プロダクトエンジニア"とは何か──フルスタック・フルサイクルエンジニアとどう違う?

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スタートアップ各社が考える「プロダクトエンジニア」とは

 実際にプロダクトエンジニアという役割を定義している各社に、「なぜプロダクトエンジニアを設置したのか」を伺いました。

株式会社hacomonoの場合:開発本部 プロダクトリードエンジニア 稲葉 達也氏

 hacomonoでは、プロダクトエンジニアの役割を「プロダクトの成長を軸に、オーナシップを持って追求・越境していくエンジニア」と定義し、社内への浸透させていくとともに募集職種も「フルスタックエンジニア」から「プロダクトエンジニア」に変えました。

 「フロントエンドもバックエンドもできるエンジニア」と認識されやすいフルスタックエンジニアという職種名では、社内で求めているエンジニア像と乖離が発生しやすいという課題がありました。また、今まで社内でプロダクトエンジニアのような動きをして活躍している人たちにも、改めてスポットライトをあてたかったのです。

 プロダクトエンジニアは、その扱う領域の幅広さから見方によっては「器用貧乏」ともとられがちです。しかし、こういった方々はフロントエンド・バックエンド・プロダクトマネージャーなどとどんどん役割が細分化された中でも、プロダクトづくりのためにあらゆる知識を身につけ、さまざまな関係者とコミュニケーションを取りながらより良いプロダクトを手早くつくっています。会社やプロダクトがフェーズを問わず、常に大活躍してくれている人たちが、「器用貧乏」といった言葉や将来のキャリアについて悩むことがないよう、hacomonoではプロダクトエンジニアというキャリアルートを設置しました。

アセンド株式会社の場合:取締役 CTO 丹羽健

 アセンドは日本においてデジタル化が進みにくい物流産業に対して、オールインワンの業務系SaaSを開発・提供しています。スタートアップで開発リソースが限られた中、業務ドメインが異なる5つ以上のプロダクトを並行して開発するには高い生産性が必要でした。これに加えて物流という複雑な業務を理解して、顧客課題を解決できる業務装着性の高いプロダクトを提供する必要があります。

 このような事業背景のもとで創業当初よりエンジニアがプロダクト志向を持って開発に取り組めるよう、開発生産性への投資とプロダクト中心の開発文化醸成に取り組み続けてきました。創業当初からフルサイクルエンジニアと職種を表現していましたが、技術が中心ではない私たちにとって表現の悩みを抱えていました。2023年夏頃にプロダクトエンジニアの職種名を海外の記事で発見し、私たちはまさしくそうであると考え「プロダクトエンジニア」という職種名に切り替えました。

株式会社LayerXの場合:バクラク事業部 VPoE 小賀 昌法氏

 LayerXでは、創業時から現在まで「ソフトウェアエンジニア」に対して、プロダクトの成功を第一に考え、技術的な領域を越境してプロダクト開発を推進する働き方を期待してきました。いわゆる「プロダクトエンジニア」に相当する動きです。

 特に重視しているのは、「使われないものを作らない」ということです。顧客の声に真摯に耳を傾け、言葉の裏に潜むニーズを探り、本当に価値のあるものだけを作ることを徹底しています。また、プロダクトの価値を最大化するために、エンジニアには以下のような動きを期待しています。

  • ひたすらドメインにディープダイブし、ユーザー理解を深める
  • 最速でヒアリング、仕様作成、設計、開発のループを回す
  • フルスタックに開発し、一人で高速にループを回す
  • 機能・エンジニアリング双方の観点で「コスパのいい」=シンプルな仕様に落とし込む

 LayerXで働くエンジニアにとっては、「プロダクトエンジニア」という名前がついたことで、これまで自然と行ってきた働き方が明確になったという感覚が強いようです。ただ、私たちは職種名に対する強いこだわりはありません。上述した動きが組織の価値観として共有されており、文化として根付いていることが重要だと考えています。

株式会社スマートラウンドの場合:取締役 CTO 小山健太氏

 プロダクトマネジメント関連のSaaS企業であるPendoが2019年に行った調査によると、「作った機能の8割はほとんど(または全く)使われない」と報告されています。この結果からも分かるように、現代のプロダクト開発においては「作ること」そのものよりも、「ユーザにとって価値ある状態へと進化させ続ける」ことが重要です。

 私たちの会社では、「良いプロダクトを創り、速い速度で進化させ続ける」ために、エンジニアが裁量を持つことが必要だと考え、「プロダクトエンジニア」という職種を基本としています。

 例えば、エンジニアがユーザのフィードバックを直接受け取り、迅速にプロダクトに反映させることで、使いやすいプロダクトを提供しています。また、エンジニアが仕様の改善点・疑問点などについて、自ら主導してPdM・デザイナーと議論する文化です。エンジニアが細部まで仕様を考え、優れたユーザ体験を実現することで、柔軟で高品質なプロダクトを提供しています。

 以前までは「フルサイクルエンジニア」という呼称を用いていたのですが、システムをつくることそのものよりもプロダクトの成功にフォーカスした職種として「プロダクトエンジニア」という名称を知り、プロダクト志向をより強く感じてほしい意図から職種名を変更しました。

さいごに

 プロダクトエンジニアという職種の重要性は、現代のソフトウェア開発においてより一層増しています。技術のコモディティ化が進む中で、エンジニアはより本質的なプロダクトの価値に集中できるようになりました。この変化は、企業が迅速かつ効果的に顧客課題を解決できるようにし、事業の成功につながります。

 プロダクトエンジニアは、テクノロジー、デザイン、ビジネスの3つの領域を統合的にカバーし、顧客の課題を解決しながら、事業の成功を支えるプロダクトをつくり出します。その役割は顧客へのヒアリングや利用データの分析、プロトタイプを用いた仮説検証、顧客体験のデザインと向上、プロダクトのロードマップ策定など多岐にわたります。

 本記事を通して、プロダクトエンジニアの具体的な働きやその価値への理解が深まることを期待しています。プロダクトエンジニアとしての役割を担うエンジニアが増え、デジタルの力で多くの課題が迅速に解決されるようになり、より豊かな社会が実現されることを願っています。

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この記事の著者

丹羽 健(ニワ タケル)

 アセンド株式会社 取締役 CTO。7年以上のVertical SaaSの開発経験を持ち、PMやEM、エンジニアとしての専門知識を活かしながら社会課題を解決できるプロダクトエンジニア組織の構築に取り組んでいます。Product Engineer Night主催、TSKaigi 運営理事、Startup CTO of the Year ファイナリスト。 @niwa_takeru

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/20246 2024/10/25 11:00

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