大企業でアジャイルを邪魔する組織に関わる問題
もし組織でアジャイルがうまく効果を発揮していないとすれば、チームの周辺にある問題がアジャイルを邪魔している可能性がある。今回は6つピックアップする。
組織の意思決定サイクル
スクラムガイドではプロダクトオーナーが決定者であり、組織はその決定を尊重すべしとあるものの、日本の意思決定モデルにおいては大組織のプロダクトオーナーが意思決定するのは難しい。良い悪いではなく、そうなってしまうのが現実だ。多くの部署が関わるシステムであればステークホルダーが増え、合意形成が必要になる。
また、アジャイルのサイクルと稟議や経営会議での承認のタイミングが合わないと、リズムが崩れる。例えば「次の部門長会議は再来週だから、それまで開発は進められない」「あの部長はOKと言ったから進めたのに、別の部長はNGで覆されてしまった」などが起きる。
業務との調整と基幹システムとの連携
大組織のDXはIT部門だけでは進められず、業務部門との調整が必須となる。また顧客データやマスタデータなど、新しいサービスに必要かつ価値があるデータは大抵基幹システムに格納されているため、連携が必要になる。基幹システムはウォーターフォールで開発されているため、アジャイルとタイミングが合わずに苦労することがある。
プロダクト構成とチーム編成
「組織が設計するシステムは組織のコミュニケーション構造を反映する」というコンウェイの法則が示すように、過去の組織構造がプロダクト構成やチーム編成に反映されているため、現在のビジネスとミスマッチが起きていることがある。チームが増えれば増えるほどチーム同士の会話も難しくなる。
品質保証
いいプロダクトを世に送り出すためにも、品質保証のためのプロセスは大事だ。ただし、大企業で品質保証のプロセスが開発完了後でないと始まらないとなると、素早いリリースを妨げることになる。
スプリントが完了したものの、その後に経営会議や様々な手続きがありリリースまで時間がかかってしまうケースもある。また品質保証のプロセスでバグが発覚すると、緊急案件となり「電車の飛び乗り」のような禁じ手も起きてしまう。鈴木氏は「品質保証はすごく専門性が高い仕事だが、理解されていないとテストチームに丸投げされてしまい、ボトルネックになってしまうことがあります」と指摘する。
中長期計画と予算管理
企業には中長期計画がある。中長期計画でゴールを定め、そのゴールを実現するために機能を確定させ、その機能に予算承認が下りるように、機能の完成(QCD遵守)をゴールとして計画するとウォーターフォール型になっていく。「何をやるか分からないものに予算は付けられない」となってしまう。これは予算管理だと、請負契約(ソフトウェア資産)か準委任契約(経費)にするかなどによっても変わってくる。
成果の評価
システムがもたらした成果をどう評価するか。機能の提供をゴールとすると、機能がもたらす価値は評価されにくい。MVP(実行可能な最小限の機能群)から開始して、機能追加で価値を積み増していくアジャイルの概念が理解されないためだ。
成果はデータで定量的に評価されるべきところもあるが、数字で示せるものだけが成果とは限らない。しかし評価のための機能開発は認められず、成果を認められなければアジャイルを展開していくのは難しくなる。