機能の利用状況把握と廃止を進めるポイント
データ収集のあとは、廃止フローの整備を行った。「利用ユーザーなし」「利用ユーザー個別調整」「利用ユーザー多数」と利用状況に応じて3つのパターンを設定した。そのために利用マニュアルでの告知や廃止フローの選定、フロント部門との共有、廃止可否の議論期間の設定、顧客への確認などを実施した。利用の少ない機能を把握したら、2024年6月には廃止対象機能第一弾として約50件を選定し、7月には社内合意を得て、10月から顧客に告知しながら順次廃止をしている。

納谷氏は、廃止対象となる機能のいくつかを例示した。まず、利用がほとんど見られなかった「随時払い日払い勤怠遡及計算」という機能である。これは日払い給与計算で発生した支給額の誤りを修正するためのもので、所得税計算の特別処理も含む非常に複雑な機能だった。税制改正ごとに対応が求められ、負担は大きかったものの、調査の結果、利用者は非常に少数であることが確認され、廃止が決定した。
海外出張に必要な手続き情報を管理する機能は、利用者がわずか3社と判断され、廃止が進められた。この判断は「1年間利用がなければ使われていない」とする調査基準に基づいていたため、新型コロナウイルスによる海外出張制限の影響が考慮されていなかった。
その結果、実際には11社が利用していることが判明し、一部の顧客からは「再開しようと思っていたのに廃止されるのは困る」との指摘を受けた。最終的にはリカバリーに成功したものの、納谷氏は「わずかな認識のずれが問題につながる。判定条件については慎重に判断すべきだと痛感した。廃止の意義を関係者に十分に理解してもらわなければならないと思った」と語っている。
この反省を踏まえ、機能廃止に関わる判定基準については、第三者の視点によるチェックを行って偏りのない判断基準を設けたうえで、利用ユーザーの把握においては初期段階でできるだけ広く候補を拾い上げ、必要に応じて個別に確認・除外していく方針を基本とした。
また、2027年のクラウド移行完了後は、より精緻でリアルタイムな利用状況の把握が可能になるため、それに合わせて判定基準自体も慎重かつ柔軟なものへと見直していく予定だ。
さらに、Windows.exe UIの廃止にも取り組んでいるが、利用者が多いため慎重に進めている。まず、Windows.exeファイル画面利用開始を原則禁止、必要な場合は利用状況を一覧化する仕組みを整備した。その後、利用状況を監視し、使われていないUIを段階的に廃止する計画を立てた。最終的に2025年4月のリリースで廃止を予定している。
不要な機能の廃止に関わらず、提供サービスの利用状況の追跡・把握は必要だ。その成功には地道な準備と調整が欠かせず、社内や顧客の理解も重要となる。特に「COMPANY」のような歴史もあり、ユーザー数も多い製品では、わずかな誤りでも大きな問題につながるため、慎重な対応が求められる。
納谷氏は、現状にそぐわない機能の廃止をリードする立場として、「廃止できるものは廃止できるようにするべき」という強い意志を持って取り組んでいる。最後に、「関係者との調整業務が中心となり、正直エンジニアらしい仕事ができていないと感じることもあるが、自分は調整業務も楽しんで取り組めるタイプである。機能廃止などを進めるには、各所との調整を喜んで行う人がいなければ、なかなか前に進まないのではないかと感じている」と、このポジションの重要性を語った。