技術書執筆を始めるには?――"締め切り駆動"とスモールステップのすすめ
セッションの2つ目のテーマは、「始め方がわからない」という悩みだ。過去の自分に教えたいテーマを見つけたり、興味のある技術を選んだりしても、「実際にどう始めるか」で立ち止まる人は多い。この課題に対しても、登壇者たちから具体的な方法が共有された。
野溝氏は技術書を出して以降、読者から「本を出してみたいけど始め方がわからない」という相談を受けることが増えたと話す。そんな相談者に対し、「アウトプットの手段は多岐にわたる。ブログでも、技術書典を目標にした同人誌でもいい。まずは何でもいいから始めてみることが大事だ」と強調した。
また、自身の経験として、noteで反響が大きかった記事を元に同人誌を制作したエピソードを紹介し、「書くことで自分の考えが整理され、反応が返ってくることもある。アウトプットそのものが学びになる」として、ブログや短文記事が執筆活動の良いスタート地点になると付け加えた。
一方、高橋氏は"締め切り駆動執筆"というワードを挙げ、「『自由にやっていい』と言われると、かえって難しく感じるものだ。特に新しい挑戦では、目標を完結させるのが大変なので、締め切りを設定することで自分を追い込む」と語る。例えば、友人に本の表紙デザインを依頼し、「表紙ができたから本を完成させなければ」と自らを追い込む状況を作り出すのもその一例だ。
また高橋氏は、技術同人誌のようなスモールステップから始めることで、最終的に商業出版という大きなゴールにもつながったと振り返る。「物理本は在庫のリスクがあるが、電子書籍ならその心配がない。そのため、まずは電子書籍で本を売ってみるなど、失敗しづらい選択肢を選ぶのが良いのではないか」と提案。ハードルを下げつつ、執筆に挑戦する具体的な方法として、電子出版を活用することのメリットを挙げた。
両者が共通して提案するのは、「本のハードルを下げる」という考え方だ。野溝氏は「同人誌界隈には『紙を折れば本』という名言がある」と笑いを交えながら紹介し、ページ数を気にせず、まず小さく始めればいいと勇気づける。高橋氏も「2ページでも4ページでも、それは立派な本」と賛同し、「まずはアウトプットを形にすることが大事」と加えた。
モチベーションが続かない!――宣言とイベント感で自分を追い込む
3つ目のテーマは、「モチベーションが続かない」という悩み。技術書を完成させるまでは長い道のりであり、忙しい日々に埋もれて執筆の手が止まってしまうことも少なくない。これに対して、登壇者たちは独自の方法で乗り越えていることを明かした。
高橋氏は、モチベーションを維持するために「周りの力」を積極的に活用していると語る。具体的には、「技術書典に向けて原稿を書いています」といった進捗をSNS(XやDiscord)で発信し、他の人の投稿に刺激を受けることで「自分も頑張らなきゃ」という気持ちを引き出しているという。イベントについては、当落にかかわらず申し込みのタイミングで「参加します!」と公表し、自らにプレッシャーをかけて、後戻りできない状況を作り出す工夫をしているとのことだ。
また、執筆の進め方については「申し込んだ瞬間から着手し、締め切りまで粘り続ける」と述べ、長期的なスケジュールの中でメリハリをつけながら取り組む姿勢を示した。時には締め切り直前にスパートをかけることも多いといい、その経験から「無理のない範囲で頭の片隅に執筆のことを置いておくのがコツ」と語る。
野溝氏も、「周囲に宣言して自分を追い込む」ことがモチベーションを維持する鍵だと述べる。一例として、自身が行った「のみぞう10日間同人誌錬成チャレンジ」という取り組みを紹介。ハッシュタグを作り、10日間連続で進捗をSNSに投稿し続けることで、自分を裏切れない状況を作ったという。「ある程度達成できる見込みがないとやらないが、宣言することでモチベーションを高め、完成への道筋を着実に進めた」と説明した。
また野溝氏は、このチャレンジを成功させるためには「まとまった時間の確保」が必要だとも指摘。実施期間がゴールデンウィークだったため、1日数時間を集中して執筆にあてることができたと話す。長期休暇や週末など、まとまった時間をうまく活用することがモチベーション維持のポイントだという。
技術書執筆は長期戦になりがちだが、両氏が示したように、進捗の公開や集中できる時間の確保といった工夫を取り入れることでモチベーションを維持し、完成への道を進めることができるだろう。