商業出版への道――アウトプットが未来を切り開く
最後を飾ったテーマは、商業出版に関する話題だ。技術同人誌やコミュニティ活動を通じて商業出版に挑戦するまでの経緯や、その経験から得られた教訓が語られた。
高橋氏が商業出版に至ったきっかけは、2020年のWomen Developers Summitへの登壇だった。Kubernetesに関するセッションが評価され、「CodeZine」での連載を提案されたことが商業出版への第一歩となったという。
これまで、漫画やイラストを交えた独特のアプローチで読者に分かりやすく技術を伝えるスタイルが評価されてきた高橋氏。商業出版ではさらに表現の幅を広げ、文章主体の書籍に漫画やイラストを組み合わせる形態へと挑戦した。「やることが多くて大変だったが、自分らしさを活かせる喜びも大きかった」と振り返る。
一方、野溝氏の商業出版への道のりは、同人誌イベントでの出会いがきっかけだった。『2時間でハッキングを始める本』という同人誌が編集者の目に留まり、商業出版の提案を受けたのだ。
商業出版について、野溝氏は「社会性を意識する必要がある」と語る。「同人誌では許される『知らんけど』的な軽い表現が使えなくなり、内容を深掘りして正確性を担保するのに時間がかかった」。その結果、想定以上のボリュームになったが、これは「調査を重ねて加筆する中で、読者の役に立つ形に仕上げる努力をした結果だ」と前向きにまとめた。
モデレーターの近藤は編集者の立場から、「カンファレンスの登壇者や記事の執筆者を選ぶ際には、個性のあるアウトプットに着目している」と明かす。そして、「他のイベントでの発表資料やブログなどの積み重ねが商業出版の企画につながることが多い。商業出版を目指す人は、まず身近なアウトプットを意識することが重要だ」と強調した。
商業出版への挑戦は、エンジニアとして、クリエイターとして、多くの可能性をもたらすものだ。高橋氏は「アウトプットをきっかけに、書籍化だけでなく、さまざまな可能性が広がる」と述べ、今回の登壇もその成果の一つであると振り返った。野溝氏も「本を書くことが自分自身の自信となり、名刺代わりにもなる」と語り、執筆を通じて得られる成長や自分の価値を再確認する喜びを共有した。
ブログや同人誌イベントでの執筆活動はもちろん、登壇や記事投稿といった身近な形でのアウトプットも、商業出版への道をつなぐきっかけとなる。技術書執筆が、自分自身の成長やキャリア形成に大きな役割を果たす可能性を秘めているというメッセージは、多くの参加者に新たな挑戦への意欲を芽生えさせたに違いない。