期待と課題が混在。自律型AI「Devin」活用のリアルな声
具体的な活用の実態についても市原氏は紹介した。例えば、Devinは1カ月で330本以上のプルリクエストを作成し、それにかかったコストは4000ドルだったという。「マージ率はまだ不安定で、6割がクローズされた」と語るものの、実際に330本の4割に当たる130本のプルリクエストがマージされたことになる。つまり4000ドルのコストで130本のプルリクエストがマージされた計算だ。

Devinの活用方法としては、CIによる仮実装の自動化、現行プログラムの調査や実装案の壁打ちなどが挙げられる。実装案の壁打ちでは、Devinが必要に応じて調査スクリプトを作成し、実行するという。エンジニアからは「今まで自分で調査していた時間が浮き、より高度なことに集中できるようになった」という声が届くようになった。
また、現在取り組んでいることとして市原氏が挙げたのが、BigQueryとの接続だ。データサイエンティストにもアカウントを発行し、BQコマンドをDevinのVMに導入して分析・アルゴリズム実装支援にチャレンジしているという。
先に挙げた「より高度なことに集中できるようになった」という声だけではなく、さまざまなポジティブな意見も届いている。「修正箇所が少なく要件が明確なものは、精度高く作成してくれる」「プルリクエストの作成から、レビュー指摘対応までやってくれる」「調査系のタスクをDevin Searchで実施する場合、精度の高い情報が得られる」「Devinに仕事を任せている間に他のことができる」などだ。
一方で、ネガティブな意見もある。「コストが高い」「プルリクエストを自分で作り直した」「想定外の範囲まで作業が進められてしまったり、見当違いな修正が反映されてしまったりした」「ジュニアクラスメンバーが多いため、学習機会の観点から利用をNGにした」「小さなタスクに分解するスキルが重要で、それが難しい」「レビュアーの負担が増えている」などがその一例だ。
このようにポジティブ、ネガティブ双方の意見はあるが、「今のところ私たちの判断としては活用を継続すると決めた」と市原氏。だが、変化の激しいAI業界。数カ月後には「活用を辞めるかもしれない」と市原氏は語る。
開発者人気No.1ツール「Cline」の実力と「使いこなしの壁」
Clineについても具体的な活用法が紹介された。同社ではDevinと同じく2025年1月中旬から利用を開始。Anthropic APIを発行して配布した。「メトリクスを見ると、ほとんどの人がClaude 3.7 Sonnetを利用している」と市原氏は明かす。2025年4月に、申請のあったメンバー200人全員に配布し、そのうち約半数の100人がアクティブに使っているという。
Clineは先述したように開発者からの評判が良い。「生産性は向上したか」という質問に対して、約75%が「向上したと思う」と回答。その一方で、「コーディングに集中できるようになったか」という質問に対しては、「どちらともいえない」という人が約半数を占めた。本来、生産性が向上すれば集中も増すことが考えられるが、なぜ、このような結果になったのか。


Clineの利用状況を詳しく見てみると、全体で見るとプルリクエスト作成数に変化はなく、上位2割のヘビーユーザーはプルリクエスト作成数が3割程度向上していた。このことから想像できるのは「使いこなし力に格差が出る」ということ。かかったコストは1カ月約2000ドルとGitHub Copilotと変わらなかった。
アンケートで圧倒的に支持されていることからも分かるように、「非常に便利」など、ポジティブな意見も多く届いている。その一方で、「負荷はそこまで変わらない」「AIの修正だけでは完結できない」という意見もある。市原氏としても「コーディング体験の良さに加え、Vibe Codingを体験するのに非常によい教材だ」と実感しているという。
「継続はありだと考えているが、実際に効果がでるかどうかはまだわからない。社内トレーニングなどを実施して、成果がでるかどうか注視して検討していきたい」と市原氏は語る。
AI導入を阻む「レガシーの壁」というジレンマ
レガシーシステムのモダナイゼーションにAI活用を進めているモノタロウ。だが、レガシーコードとAIツールの相性は良くないと実感している。モノタロウにはShift JISで書かれたコードがあるが、Devinが対応している文字コードがUTF-8のみのため、Shift_JISで書かれたコードを正しく読み書きできず、結果としてファイルを破損させてしまう。「Clineは更新パッチが当たったようなので、これから試す予定」と市原氏。CursorはVSCodeのフォークなので対応しているが、古いVSCodeプラグインが動かず、入れるのにはテクニックが必要になる。「レガシーから脱却するためにAIを使いたいのに、AIを使うにはレガシーから脱却しないといけないという無限ループに陥っている」と市原氏は苦笑する。
またAI駆動開発を推進するには、セキュリティ対策も重要になる。「基本的には従来のセキュリティリスクに学習による流出リスクを加えた視点でマネジメントをしています」(市原氏)
市原氏は生成AI開発ツールを導入すべき理由について、「開発生産性の面で成果を出せる可能性が非常に高いので、やらない手はない」と言い切る。また導入ハードルは金銭コストのみなので、導入ハードルが低いのもポイントだ。