スペシャリストか、ジェネラリストか?あなたの理想像は?
何かを極めるスペシャリストか、幅広く全体を知るジェネラリストか、あるいはそれらの組み合わせで全体を理解しつつも何か精通している(T字型スキルを持つ)フルスタックか。このように、エンジニアのキャリアにはさまざまな方向性がある。
いま自分はどこまで理想に近づいているだろうか。多くのエンジニアが理想と現実のギャップを埋めるべく、技術への理解を深めているのではないだろうか。

星氏が目指すのは特にAWSに力を置いた、フルスタックエンジニアだ。当初は、狭く浅い状態から始まり、少しずつスキルを深めてきた。しかしこれまでの経験で、星氏は技術を深めるには技術以外のスキルの広さも必要だと実感したという。

AWSを通して見つけた自分の軸
新卒1年目8月、配属直後の技術力は最低限、コミュニティ活動は勉強会に少し参加する程度で、発信も未経験の状態だった。まずは新製品のWebアプリケーションでフロントエンドからバックエンドまで、モブプロしながら開発を始めた。
当時の星氏には「特定の分野への興味がない」「理想のエンジニア像がない」「それらがないことを焦ることもない」という3つの「ない」があった。この「ない」に覆われた殻を破ることができたのはAWSという自分の軸を発見したことだ。
星氏がこれまでの変遷を振り返ると、3つのフェーズ「ふーんAWS?おもしろいじゃん期」「強みがないことに気づいちゃいましたか期」「強み深掘り期」に分けることができた。順を追って見ていこう。
フェーズ1:ふーんAWS?おもしろいじゃん期
AWSが自身の軸となる1つ目のきっかけは勉強会参加だった。星氏が所属するWHIには、40ほどの学習コミュニティがあり、自由に勉強会の立ち上げや参加ができる。そのなかで社会人1年目の2023年9月にSAA勉強会があった。このSAA(AWS Certified Solutions Architect - Associate)とはクラウド設計スキルの認定資格だ。星氏は「私は好奇心旺盛かつ、何も考えずにやってみようと行動してしまうタイプなので、すぐに参加しました」と話す。
勉強会に参加したことだし「せっかくならSAA受けるか」と受験し、一発合格を果たした。星氏は「はじめはAWSのサービスってなんだか呪文みたいだなくらいに思っていましたが、少し分かるようになってきて、面白いかもと思えてきました」と話す。
2つ目のきっかけは、10月にAWSに詳しい先輩が育休に入ったことだ。「AWSに詳しい人がいなくなるから、自分が詳しくなるか」と一念発起し、AWSのアーキテクチャ図作成を進んでやることにした。この仕事をきっかけにDVA(AWSのアプリケーション開発向け資格)とSOA(AWSの運用管理向け資格)も取得し、「AWS、面白いじゃん」とはまっていった。
フェーズ2:強みがないことに気づいちゃいましたか期
新卒1年目の1月、部門長のLTで「一領域を極める」と題して、最初は何かの領域で突き抜けることで、最終的には広く経験する道へとつながるという発表があった。そこで星氏は自身の強みに疑問を持ち「自分にはまだ強みがない」と気づくことになった。
しかし、翌月の2024 Japan AWS Jr. Championsの社内選考をきっかけに「AWSに強くなりたい」という情熱が芽生えることになった。自分が募集要件をクリアしていることに気づき、社内選考会に応募したが、結果はあっけなく落選。星氏は「めちゃくちゃ悔しくて!」と述懐した。
落選理由を星氏なりに分析したところ、募集要件に掲げられていたChallenge、Output、Influenceがどれも浅いと気づいた。そこから、発信やコミュニティ活動にも注力し始める。そして来年の再挑戦に向けてAWSの実績を増やし、AWSの情報をキャッチアップすることを目指した。
フェーズ3:強み深掘り期
新卒2年目の4月、AWSリソースの変更通知機能の実装を担当した。AWS環境でマネジメントコンソールやCLIでリソース変更した時に気づかない状態だったため、CloudFormationとの差分を検出して、Slack通知するような仕組みだ。
5月、AWSに詳しい先輩を追いかけていくなかで「社内AWS Builder Cards会」の募集を目にした。これはAWSのサービスからなるカードを使い、AWSのアーキテクチャを学ぶことができるカードゲームだ。これもAWSのいい学びになった。
6月、上司にAWS Summitへの参加を許可してもらう。事前に社内で他の参加予定者を探しておいて、現地で交流した。またGame Day(障害の模擬訓練)にも参加したので、社内のAWS Summit報告会でオブザーバビリティも含めて報告した。
この報告が同社のAWS学習コンテンツサービスとなるSkill Builder運営の目にとまり、運営に誘われた。星氏には「Jam(AWSを学ぶイベント)もできてAWS環境も触れるなんて夢のよう」と思えて二つ返事で快諾した。

9月、SAA勉強会でファシリテーターの募集を見て、応募した。この時のミッションは4人のコンサルタントにSAAを取得させること。30分の勉強会を隔週で4ヶ月間実施し、結果的に3人が合格した。
10月、それまで取り組んでいたプロジェクトが中止となり、よりAWSに携われる部署へと異動し現職に。今ではモバイルアプリケーションのバックエンドをメインに開発している。最初はAI周辺のAPIをAPI GatewayからCloudFrontに移行することに取り組んだ。もともとAIのAPIはStreamを使う関係で認証を使わず、第三者がLambda関数URLにアクセスできてしまう状態だったため、よりセキュアになるCloudFront経由のみアクセス可能とし、WAFを追加しカスタムドメインでアクセスできるよう実装した。
同じく10月にはJam解説会もあり、回を重ねるごとに内容を工夫することで着実に理解と技術力を高めていった。
11月、メンテナンスページの作成と、その切り替えをCodeBuildで実施するようにした。メンテナンス時には特定のIPからのみアクセスできるように、WAFのルールグループとカスタムレスポンスを使って実装した。切り替えはbashで行うため、CodeBuildから実行できるようにした。
1月、フロントエンドの開発にも挑戦。これでフロントエンドやUI/UX領域にもスキルの幅を拡張することにつなげることができた。
3月、AWS認定資格の全12冠を達成した。これまで全12冠取得はマネージャークラスしかいなかったので、「若手初の全12冠」を目指して、見事達成。星氏は「これでサービス選定の幅が広がり、AWS関連の話にだいたいついていけるようになりました」と自信も付いてきた。
同じく3月、JAWS DAYS 2025に参加し、8セッションとアーキテクチャ道場に参加した。社外におけるAWS活用の実態や、社外ユーザーとの交流の機会になり、世界が広がっていった。
新卒3年目の4月、これまでの発信(主にQiita)活動が社内ブログ運営の目にとまり、運営に参加することになった。記事の通知のためにGAS(Google Apps Script)も勉強した。
同じく4月から6月まではフロントからインフラまで一気通貫した新機能開発に携わっていた。移行データの収集、暗号化と復号、暗号データの保管のためのDB設計、データの送受信、API設計、パスワードミスによる利用制限、技術選定など、これまでの経験を超える範囲の幅広さを持つ、大きな機能開発となるため、グループ内外問わず多くの有識者に話を聞いた。
6月、嬉しい知らせが届いた。2025 Japan AWS Jr.Championsと2025 Japan All AWS Certifications Engineersにダブル選出となった。
AWSを深堀して気づいたエンジニアとしての理想
こうしてAWSを軸としてスキルを伸ばしてきたことで、あらためて目指したい理想も見えてきた。星氏から見ると、社内には「つよつよエンジニアがいっぱい」だ。2025 Japan AWS Ambassadorsは3名、他にも近年はJapan AWS Top Engineers、Japan AWS Jr.Championsが何名も選出されている。
星氏は「私はまだまだひよっこ」と痛感しているそうだが、今は自分の理想とのギャップをうめるべく奮闘している日々だ。

これまでの成長の経緯を振り返り、星氏は「広さは技術に限らない」と強調する。もし発信やコミュニティ活動を視野に入れず、技術しか見ていなければ、技術を広め、深めることはできなかっただろう。
「広く深く」になるためとして、星氏は「何においても深さは強み」と前置きしつつ、次のようにアドバイスする。「広く浅く」に悩むなら、広さは技術だけの話ではない。技術以外の部分にも視野を広げてみると、意外と技術も深まる。「狭く浅く」に悩んでいる場合、その狭さに対してしっくりきているなら、そのまま深掘るといい。違和感があれば、他技術や技術以外にも目を向けてみよう。「狭く深く」に悩むなら、深さは強みなので発信や新たなコミュニティに参加することで思いもよらぬ機会が舞い込むかもしれない。
「理想のエンジニアになれるよう、一緒にがんばって行きましょう!」と星氏は元気よく呼びかけて講演を締めた。