成功体験を捨てて「1人目」へ──スタートアップで証明したかった品質への投資価値
小田中:前職での経験を経て、2022年に令和トラベルへ入社されました。すでに大きな組織でのマネジメント経験がある中で、なぜまた「1人目QA」というゼロからのスタートを選んだのでしょうか。
miisan:前職のメルペイは素晴らしい経験でしたが、やはり「メルカリ」という巨大な成功体験の上に乗せてもらっていた感覚が自分の中に強くありました。
だからこそ、もう一度本当のゼロイチであるスタートアップで挑戦したかったんです。まだ何が成功かわからない、明日どうなるかもわからない環境で、「品質が大事だ」と訴え、品質が事業をドライブさせる要素となり、実際に事業を成長させることができるのか。それをゼロから証明してみたいという思いがありました。
小田中:ご自身の実力を、厳しい環境で再定義したかったのですね。入社から数年が経ち、プロダクトも組織も急成長していますが、実際にその挑戦はいかがでしたか?
miisan:やはり難しいですね。0→1(ゼロイチ)と1→10(イチジュウ)では求められるものが全く違います。「昨日まで正しかったことが、今日はもう違う」という前提の中で、高速に判断を迫られ、立ち止まって考える時間もない。常に全速疾走しながら、自らをバージョンアップさせ続けなければいけませんでした。
それに、自分自身が認められないと、2人目のQAエンジニアを採用することすらできません。「品質に投資する価値がある」と証明し続けなければ、組織を大きくすることもできない。そのプレッシャーはずっと感じていました。
「プロダクト品質」から「サービス品質」へ──全社AI活用(AX)で見据える組織の底上げ
小田中:スタートアップにおける品質の考え方は、フェーズによって変化すると思います。miisanの中で、「品質」の定義はどう変わっていきましたか?
miisan:大きく変わりました。以前は「バグのない良いプロダクトを作りたい」という、いわゆる「プロダクト品質」を優先して考えてきました。プロダクトの内部品質や挙動として機能が仕様通りに動くか、といった視点ですね。
でも今は、「サービス品質を良くしたい」と考えるようになりました。例えば、開発チームが頑張って機能的に充分な体験をもつアプリを作ったとしても、それがお客様に届かず、売上が伸びなければ、事業としての品質は高いとは言えません。マーケティングやCS(カスタマーサポート)も含めた、顧客体験全体の価値をどう最大化するか。プロダクト単体ではなく、全社的なボトルネックを解消していく視点が必要だと感じるようになりました。
小田中:「プロダクトの先にはサービスがある」という視点は非常に重要ですね。特にスマホアプリなどは、ストアに並んだ後、お客様がどう手に取り、トラブル時にどうサポートされるかまで含めてが「品質」です。エンジニア視点だけでは見えない部分までスコープを広げているのですね。

小田中:現在、miisanはHead of Engineering Officeとしての役割に加え、全社のAI活用を推進するAX(AI Transformation)室もされています。これも「サービス品質」を高めるための一環でしょうか?
miisan:そうですね。AX室では「全社員のAIスキルを底上げする」というミッションを持っています。エンジニアは新しい技術が好きなので、放っておいてもAIを使いますし、リテラシーも高い。ですが、営業やCS、マーケティングのメンバーはそうはいきません。
「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安を持つ人もいれば、単純に業務への組み込み方がわからない人もいます。職種によって温度感やリテラシーに大きなグラデーションがあるんです。
小田中:確かに、エンジニアにとっては当たり前のツールでも、他職種にとっては未知の領域であることは多いですね。具体的にどのように推進しているのですか?
miisan:職種ごとに「階段」の設計を変えています。「まずは触ってみよう」というフェーズから、「業務効率化に使ってみよう」「評価制度に組み込もう」というフェーズまで、各部門と相談しながら進めています。
例えば、CSの方にとってのAI活用と、マーケティングの方にとってのAI活用は全く違います。それぞれの業務におけるインパクトを定義し、実際に使える仕組みやインセンティブを設計する。ここまでやらないと、全社的なレベルアップは実現できません。今はGeminiやNotionAIなどを組織平均で1日平均10回以上使う状態までは来ていますが、私たちが目指すレベルにはまだ到達していないので、日々試行錯誤です。
