内省で自分を見つめなおす
内省で経験をふりかえる
ここでの内省(リフレクション)とは、自分の経験をふりかえり、意味づけして次に活かす行為です。単なる反省ではなく、自らの経験を言葉にし、つむいでいく「物語化」といえます。出来事を物語として語り直すことで、単なる失敗談が「どのように学びにつながったか」を俯瞰する枠組みになります。これにより客観視しやすくなり、自分の成長物語として再解釈できるのです。
物語といっても、何も小説のような本格的な文章でまとめる必要はありません(もちろん、それができるしやりたい! という方は、ぜひトライしてください!)。箇条書きであっても、いや、もっと乱雑なメモ書きであっても、「そのとき何を知ったか?」「何を知らないと知ったか?」「どう感じたか?」といったあなた自身の物語は、あなた自身の学びのストーリーラインを形づくるものとなるでしょう。
習慣的なふりかえり
「ふりかえり」は学習の中でも最も重要なプロセスの一つです。インプットした知識や経験したことを意味づけし自分の中に落とし込むことで、知識と経験は血肉の通った知恵に昇華されます。
ふりかえりという言葉には、現実に起きたこととそこからの改善に目を向けた「レトロスペクティブ」、個人の内面にある発見を言葉にしていく「リフレクション」が含まれます。ここで扱うふりかえりは後者、リフレクションです。
たとえば、以下のような視点でふりかえると、学びを多角的に捉えることができます。
- 何を新しく学んだか
- これまでの知識とどうつながるか
- 何が想定外だったか
- やりやすかったことは何か
- やりづらかったことは何か
- 明日から変えるとしたら、何をするか
こうした問いを日々、自分自身に問いかけることで、断片的な情報がこれまでの自分の知識・経験と接続していきます。よい問いを立てる力は、日々のふりかえりで意識的に問うことで磨かれます。たとえば、「どのように考えれば別の選択肢が見えるか」「なぜそう感じたのか」といった問いを自分自身や他者に投げかける習慣が役立ちます。
経験学習モデル
組織行動学者のデヴィッド・コルブが提唱する「経験学習モデル」[5]は経験から学ぶプロセスを理論化したものです。
Kolb, D. A. (1984). Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development.
たとえば、開発しているシステムが本番環境でクラッシュしてしまったとします。こういった場面では、可及的速やかにシステムを復旧させることが最優先ですが、実は絶好の学びの機会でもあります。
- 経験:本番環境で特定の操作をするとシステムがクラッシュするという報告を受け、調査を開始した。ログを追い、NullPointerExceptionが発生している箇所を特定し、修正した
- 省察:なぜこのバグが発生したのか、なぜテストで検出できなかったのか、検証環境で発生しなかったのはなぜか。事象をふりかえっていく
- 概念化:常にオブジェクトが返却される想定だった外部APIが、実際にはNullを返却してくることがあるとわかった。外部APIを使用する場合、その挙動はこちら側で完全にコントロールすることはできないので、必ずNullチェック・型チェックをするべきと判断した
- 実践:Nullチェックを追加。また、Nullを返却するテストを作成し、正しくエラーハンドリングしバグが再発しないことを確認する。これをバグが発生したところだけでなく、外部APIを利用している箇所すべてに適用する
上記の例は、本番環境で問題が発生しているのでいってしまえば失敗の経験です。しかし、こういった失敗からも学ぶことができるのです。いや、失敗だからこそ大きな学びが得られるといってよいでしょう。リフレクションを続ける人は、自分の経験を「再利用可能な資産」に変えることができる人です。
思い通りにいかないときのふりかえり
成長の停滞期には、「前よりもがんばっているのに結果が出ない」と感じることがあります。これは実際は能力が落ちているのではなく、これまでのやり方では乗り越えられない段階に入ったサインです。
うまくいっていないときのふりかえりは、「自分ができなかったこと」に着目してしまいがちです。そして、停滞期にはうまくいかない状況がある程度続きがちなので、「できなかったこと」と向き合う場面が増え、気持ちが落ち込んだり、「やっぱり自分には無理なのではないか」という諦念を呼び起こしたりしてしまいます。
しかし、停滞期にこそ大切なのは、「うまくいかなかったこと」そのものを責めるのではなく、なぜそうなったのかを丁寧に観察することです。ふりかえりの目的は、過去を裁くことではなく、次に進むためのヒントを見つけることにあります。
このとき、自分が抱えている負の感情から目をそらさず、あえて感情を切り離さずに記録してみましょう。「悔しい」「焦っていた」「周囲の期待を気にしていた」。そうした気持ちを、分析的にではなく、そのまま言葉にしてみてください。感情を記録することで、事実と感情を区別できるようになります。それは、次の一歩を冷静に考えるための第一歩です。
次に、できなかったことではなく、試したことに焦点を当てていきます。停滞期に陥ると、頭の中が「失敗リスト」で埋め尽くされがちです。しかし、視点を変えて「自分はこの期間に何を試したか」を書き出してみましょう。うまくいかなかった挑戦も、貴重な実験結果です。「どんな仮説を立て、どんな条件で試したのか」をふりかえることで、次はどのように行動していくとよいのかが見えてきます。
また、停滞しているように見えても、そこには必ず変化があります。たとえば、「以前よりも失敗の原因を早く特定できるようになった」「相談できる相手が増えた」などです。小さな変化を見つける力が、再び前を向くエネルギーになります。この「小さな変化を見つける」ことの重要性は、次項で解説していきます。


