AI時代に私たちが「高校数学」を復習する意義
本連載の締めくくりとして、世間で話題になっている「ディープラーニング(深層学習)」をはじめとする最新AI技術と、私たちがこれまで学んできた高校数学の統計学との本質的な違い、そして今あえて基礎を学ぶ意義について総括します。
ディープラーニングの適用領域と限界
結論から言えば、ディープラーニングと統計学を全くの別物として捉える必要はありません。ディープラーニングの正体も、その中身を解剖すれば、本連載で扱ってきた「分散の最小化」や「微分の計算」を基盤とした数学の応用に過ぎません。違いは、扱うパラメータ(変数)の数が数千億〜数兆個と桁違いに多く、それを何百層も複雑に重ねて超高速で計算しているという「規模」の点にあります。
人間が到底言語化できないほど複雑で、かつパラメータの数さえ特定できない世界(画像認識、音声認識、自動運転など)において、ディープラーニングは圧倒的な強みを発揮します。理屈はブラックボックスであっても、人間の「目・耳・認知・作業」を丸ごと「代替(自動化)」する領域では、このAIの力が不可欠です。
しかし、これは「理由の解明」を曖昧にし、「予測の精度」に特化したアプローチであることを忘れてはなりません。
ビジネスの主戦場は「因果関係の解明」と「人間の行動変容」
翻って、現実のビジネスや実務の現場に目を向けてみましょう。私たちが直面する課題の多くは、AIによる作業の代替ではなく「データから原因を突き止め、人間の行動や仕組みを変えること(意思決定の補完)」にあります。
実務において、人間が理解して行動に移せるパラメータの数は、せいぜい数個から多くても20個程度です。どれほど複雑に見えるデータであっても、適切な統計処理(要約)によって扱いやすいサイズまで要素を絞り込むことこそが、データ分析の本質です。
現在、中身の分からないブラックボックスなAIに判断理由を説明させる技術(説明可能なAI:XAI)の研究が進められていますが、実務での運用ではまだ課題が残されています。
だからこそ、あらかじめ仕組み(ロジック)が分かっている統計学の手法を用いることで、「なぜその結果になったのか」という因果関係の証明をより確実に補完できるようになるのです。
自分でコントロールできる「物差し」を持つ強さ
このように、すでに主要な要因(パラメータ)が推測できており、「どの数字を動かせば、どう結果が変わるか」という対策や行動が求められる世界においては、ディープラーニングのような巨大なシステムに頼る必要はありません。そこは今なお、人間である私たちの主戦場です。
自分が中身を100%ロジックでコントロールでき、実務のサイズに合わせて要素を要約できる「統計学の基礎」を身につけておくだけで、現実の課題のほとんどは驚くほど鮮やかに、かつ低コストで解決できます。
流行りのバズワードに振り回され、中身の分からないブラックボックスに使われる側になるのか。それとも、高校数学というシンプルで頑強な武器を手に、自らデータの裏にある構造を理解してAIを利用する側になるのか。本連載で復習した「データの分析」の基礎知識は、まさに後者のデータサイエンティストとして、AI時代をサバイブしていくための普遍的な羅針盤となるはずです。
最後に
本連載を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
学生時代はただテストのために「計算させられていた」だけの高校数学の教科書も、実務の課題やこれまでの経験をベースに視点を変えて改めて開き直してみると、まったく違った景色が見えてきたのではないでしょうか。
ぜひ、これからも手元のアプローチや日々のデータを面白がりながら、新しく手に入れた数学という武器と共に、これからのAI時代をクリエイティブに楽しんでいくための「思考のスパイス」や「新しい一歩を踏み出すきっかけ」として、本連載の内容を使っていただければ幸いです。
