Windows業務アプリのスマートフォン/タブレット対応における課題
セッションの冒頭、シトリックス・システムズ・ジャパン(以下、シトリックス)の竹内氏は、昨今加速している「コンシューマライゼーション」の流れについて「皆さんも実感されているのではないかと思う」として、次のように述べた。
「スマートフォンやタブレットなどの新たなデバイス、続々登場する便利なクラウドサービスなど、コンシューマ向けのITは飛躍的に進化し、使いやすくなっている。これに対して、企業のITシステムは硬直化して使いにくいものになっており、両者のギャップは広がる一方。コンシューマIT発の便利なデバイスやサービスを取り入れながら、企業のITも柔軟に変わっていかなければいけない。その大きな波が、今まさに来ているのではないか」
その大きな波の中で必然的に出てきたニーズの一つとして、竹内氏はBYOD(Bring Your Own Device:個人所有デバイスの業務利用)を挙げるとともに、企業はもっとタブレットやスマートフォンなどの新たなデバイスを活用して、場所に縛られずに働けるモバイルワークスタイル導入に真剣に取り組むべきであると強調した。
もちろん、BYODなどを取り入れてモバイルワークスタイルを促進する上では、セキュリティの担保やコストの適正化、業務処理に十分対応できる環境の構築など、クリアすべき課題も多い。
例えば、タブレットを業務端末として使用するなら、業務アプリケーションをいかにモバイル対応させるかを考えなければならない。企業の業務アプリケーションは、現状では圧倒的にWindowsベースのものが多く、既存システムからの移行は困難だ。しかし、これらをタブレットやスマートフォンなどのデバイスで利用できるようにしていかなければ、「企業ITシステムをもっと使いやすいものへと進化させることはできない」と、竹内氏は指摘する。
企業に存在する膨大なWindowsアプリケーションをモバイル対応させる方法としては、まず、iOSやAndroidのネイティブアプリケーションとして作り直すという選択肢がある。プラットフォームごとに専用の環境・言語を用いて一から開発するわけだが、当然それには多くのワークロードとコストを要することになる。
また、HTML5ベースのWebアプリケーションを開発するという選択肢も考えられるが、HTML5対応のブラウザは一部に限られ、古いブラウザでは使えない。Webアプリケーションに期待される効果──デバイスを問わずに同じように使えるといった状況を完全に実現するのは、まだまだ難しいといえるだろう。
そこで、ワークロードやコストを最小限に抑えて既存の業務アプリケーションをモバイル対応させる解決策として有効なのが、シトリックスの「デスクトップ仮想化」の技術だという。
「業務で使用するPC環境の実体であるOS、アプリケーション、設定情報、データといった要素を仮想化して、すべてデータセンター側に集約。独自のプロトコルを使った画面転送の技術をベースに、オンデマンドで必要なときに各要素を呼び出してダイナミックに構成し、ユーザーのデバイスに表示するという仕組みなので、既存の資産であるWindows業務アプリケーションをそのまま活用できる。デバイス自体にはデータを残さずに運用できるので、セキュリティの面でも優れている」(竹内氏)
ただし、画面転送でWindows業務アプリケーションをそのまま利用できるだけでは、十分とはいえない。PCでの利用を前提としたWindowsアプリケーションは、タブレットやスマートフォンなどのタッチ操作に最適化されていないからだ。また、カメラや電話などモバイルデバイス自体の機能を業務アプリケーションで活用することもできない。
それらをカバーするためにシトリックスが提供しているのが、Windows業務アプリケーションをタブレットやスマートフォンなどのデバイスでより使いやすくする「Mobility Pack」および「Mobile App SDK」というツールだ。
モバイルデバイス向けに自動最適化し、プラスαの価値を提供
「XenDesktop、XenAppといったシトリックスの仮想化プラットフォームにパッチを当てる感覚でMobility Packを適用するだけで、モバイルデバイスのタッチ操作などに最適なユーザーインターフェース(UI)でWindowsアプリケーションを利用できるようになる。
また、Mobile App SDKは、モバイルデバイス特有の機能をWindows業務アプリケーションと連携させて利用するためのツールセットで、既存の業務アプリケーションに新たな付加価値を持たせることができる」(竹内氏)
Windowsのデスクトップ画面をそのままモバイルデバイスに表示すると、一つ一つのアイコンがPCよりも小さくなり、各アイコンの間隔も狭いために、例えばスタートメニューから任意のアプリケーションを選んで起動する場合などは正確なタッチ操作が行いにくいケースも多い。それがMobility Packを適用することによって、モバイルデバイスに適したUIに変換され、アイコンサイズやメニューの位置などがタッチ操作しやすい表示となるように自動調整される。もちろん、Windows標準のUIにも簡単に切り替え可能だ。
一方、Mobile App SDKは、モバイル対応に特化した50以上のAPIを提供。これにより、カメラや電話、GPSといったモバイルデバイス特有の機能をWindows業務アプリケーションに統合して利用できるようになる。レガシーなWindows業務アプリケーションをモバイルデバイスでも使えるようにするだけでなく、モバイルデバイスならではの機能と組み合わせることで、既存の業務アプリケーションでは不可能だった便利な使い方や、新たな用途での活用も可能となるのだ。これが、竹内氏のいう「付加価値」の創出である。
セッション後半では、アイネットの横谷隆太氏が登壇し、実際にシトリックスのMobility PackとMobile App SDKを利用した同社のサービス「Mapdemic(Mobile Application Development & Migration Center)」を紹介。その適用事例として、WindowsアプリケーションをiPhone/iPad用にマイグレーションした販売管理システムのデモンストレーションを行った。
販売管理のプログラム自体は元のWindowsアプリケーションと同じものだが、iPhoneで動かす場合には、例えば予約商品の入荷時などに予約リストの画面からタップ操作でそのまま顧客に電話をかけたり、他店舗からの急ぎの在庫取り寄せなども在庫管理画面で店舗名をタップしてSMS機能でメッセージを送信したりと、独自の機能が利用できる。さらに、iPadの場合には顧客への商品説明に使われることも想定し、例えば在庫検索結果などの画面に商品名だけでなく商品写真も表示されるようになっている。
「モバイルデバイス向けに一から新しいアプリケーションを構築するよりも、圧倒的に低コストでこうしたマイグレーションを実現できた。やはり、既存アプリケーションのビジネスロジックには手を加えずにUIだけを変更できるのは非常に大きなメリット」(横谷氏)
Mapdemicのデモ終了後は、再び竹内氏が登壇。まとめとして、シトリックスの仮想化プラットフォームとMobility Pack/Mobile App SDKを利用することで、膨大なWindowsのアプリケーション資産やリッチな開発環境を有効活用できること、コストを抑制しつつ既存業務アプリの付加価値や生産性を高められることをあらためて強調した。それが、「どこにいても会社と同じデスクトップ環境で仕事ができる」というモバイルワークスタイルの促進、ひいては企業競争力の強化につながるのだという。
「企業のITはこれから劇的に変わっていく必要があるが、過去の資産をすべて捨てて新しいものを取り入れなければならないわけではない。現状、業務アプリケーションの多くはWindowsであり、それはまだ当分変わらないと思う。これらをいかにしてモバイルデバイスに対応させ、使いやすくしていけるかが重要。そのために、シトリックスのアプローチを1つの選択肢としてぜひ検討していただきたい」と竹内氏は最後に述べ、セッションを締めくくった。
シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社