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ITエンジニアのための量子コンピュータ入門

機械学習への活用も期待される、今話題の量子アニーリングってなに?

ITエンジニアのための量子コンピュータ入門 第1回

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 2016年、機械学習、人工知能、ビッグデータといったキーワードに至る所で出会う時代になりました。これらの今ホットな技術に興味がある、または実際に開発に携わっている方もたくさんいることでしょう。そして、その話題を追っている中で「量子コンピュータ」や「量子アニーリング」という得体の知れない言葉に遭遇したことのある方も増えているのではないでしょうか。この、「量子コンピュータ」なるものがいったい何者なのか、ゆっくりその正体を暴いていくのが本連載の目的です。

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はじめに

 はじめまして、月に1回、秋葉原で「量子情報勉強会」を主催している宇津木健(うつぎたける)と申します。これから、「ITエンジニアのための量子コンピュータ入門」というタイトルで、今なにかと話題の量子コンピュータやその周辺技術について、直感的にわかりやすい解説をめざして連載していきます。

 さて、昨年末に、量子コンピュータで従来のコンピュータ(シングルコア)より「1億倍高速」に計算ができた! というニュースが話題になりました。これは、アメリカでNASAやGoogleが設立した「量子人工知能研究所(Quantum Artificial Intelligence Laboratory:QuAIL)」という研究所での研究成果で、量子コンピュータの一種「量子アニーリング」と呼ばれる計算方法で実現しています。このニュースはいったいどういうことを意味しているのでしょうか。

 1億倍……日本人が一人1台PCを持ったとして、ほぼ全員分のPCの計算力を総動員して計算しなければ解くことができない問題を、量子コンピュータならたった1台で、自分一人で解くことができる、いうことになります。「ほんまか?」と思う人多数でしょう。本当だとしたらこれは驚くべきことだと筆者は思います。ムーアの法則[1]では「コンピュータの計算力は1.5年で2倍になる」と提唱されており、今まではほぼこの通り進歩してきています。しかし、この進歩のスピードでは、1億倍の早さで計算できるようになるには約40年かかります。40年前のコンピュータ[2]と今のものを比較すると、計算が1億倍早くなったということのすごさが実感できるでしょう。

1億倍の計算速度を達成するためには、ムーアの法則に従ったこれまでのコンピュータの発展速度でも40年かかってしまう。量子コンピュータは、数年の開発期間でそれを達成してしまったのか?
1億倍の計算速度を達成するためには、ムーアの法則に従ったこれまでのコンピュータの発展速度でも40年かかってしまう。量子コンピュータは、数年の開発期間でそれを達成してしまったのか?

 では、これまでのコンピュータの発展の40年分を一気にすっ飛ばすほどの威力があるという“量子コンピュータ”とはいったいどんなものなのでしょう。本当に実現しているのでしょうか? 実現しているとしたらいったいどんな原理で動いているのでしょうか? 我々が実際に量子コンピュータを使って仕事をする時に何を準備していなければならないの? 海のものとも山のものともつかない、この奇妙なコンピュータについて、これから少しずつ正体を暴いていきましょう!

[1]ムーアの法則

 ムーアの法則とは、Intel社のGordon Moore博士が1965年に経験則として提唱した、「半導体の集積密度(計算性能)は18ヶ月(1.5年)で倍増する」という法則。(参考:ムーアの法則 - Wikipedia

[2]40年前のコンピュータ

 40年前のコンピュータはどんなものかというと、例えば1974年4月に発売されたIntel8080というマイクロプロセッサが搭載されたAltair 8800があります。これは、世界初のパーソナルコンピュータで、機能としては電卓に毛が生えた程度でした。

対象読者

 本連載は、「量子コンピュータ」というキーワードに目が止まった以下の方々を対象にしています。

  • 物理に興味があるITエンジニアの方
  • 昔は物理が好きだったけど、今はもう忘れちゃったな~という方
  • マンガや映画で量子力学だの量子コンピュータだの聞いてちょっと理解してみたくなった方

 特に、手を動かして理解する派の方々に向けて、時おり関連するプログラムを添えていこうと思います。ぜひ実際に計算してみることで、理解を深めていただければ幸いです。

なぜいま、量子コンピュータが注目を集めているか

 そもそもコンピュータの計算は、これ以上早くなる必要があるのでしょうか? 日常生活で、例えばエクセルを用いてお金の計算をしている場面では、計算時間がかかりすぎて解くことが難しい問題に出会うことはまずないと思います。コンピュータの中では、トランジスタがマイクロ秒オーダー(100万分の1秒)で高速に計算を行っているために、我々が認識できるような時間単位では、計算なんて一瞬で終わります。

 しかしこれは、数字の足し算、掛け算などのシンプルな問題を解いている場合に限った話で、つまり解き方が分かっているような問題での話です。解き方が分からない問題、例えば、「セールスマンが東京駅から、東京都内のすべての駅を通って、最後に上野駅に帰ってくる最短経路は?」というような問題は大変です。なぜなら、こうやれば解けるよ、という解き方が分からないからです。東京都内の路線図や所要時間の情報をすべてコンピュータ内に持っていたとしても、この問題を正確に解くためには、“考えられるあらゆる経路”をしらみつぶしに調べてみる方法しか知られていません。こういった問題は、経路の数が多すぎて、現実的な時間では調べきれず、下手すると答えを求めるのに一生かかってしまいます。

 このような“解けない問題[3]”は、今流行りの人工知能や機械学習の分野でもたくさん出てくるようです。そして、この種の問題を高速に解く可能性を秘めているものとしてまさに注目を集めているのが、本連載のテーマである量子コンピュータです。年始にリクルートコミュニケーションズが、「RCO Study Night“RCOにおける機械学習と次世代量子情報処理技術『量子アニーリング』」という勉強会を開催しましたが、機械学習を使って新たなサービスを作っていこうとすると、量子コンピュータの威力が喉から手が出るほどほしくなります。そのため、NASA、Google、IBMなどの名だたる面々が、日本のWeb系の企業でも、アドテク領域に活用できるとしてリクルートコミュニケーションズなどが、こぞって研究に参入しているわけです。

すべての駅を通る経路は、膨大なパターンがある。このうちで、最短時間で行ける経路を見つけるためには、すべてのパターンを試してみる必要があり、現実的な時間で計算するのは、普通のコンピュータでは困難。
すべての駅を通る経路は、膨大なパターンがある。このうちで、最短時間で行ける経路を見つけるためには、すべてのパターンを試してみる必要があり、現実的な時間で計算するのは、普通のコンピュータでは困難。

[3]解けない問題

 正確には「多項式時間での解法が知られていない」問題。多項式時間についての意味は、今後の連載で紹介していく予定です。

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この記事の著者

宇津木 健(ウツギ タケル)

 「量子情報勉強会」主催。東京工業大学大学院物理情報システム専攻卒業後、メーカーの研究所にて光学関係の研究開発を行っています。 また、中野付近でお芝居をしています! Twitter:@utsugitakeru

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/9293 2016/04/22 14:00

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