- 講演資料:エンジニアを成長させるための組織作り
組織のスループット増大に貢献するエンジニアの価値とは
2015年10月に開催された「デブサミ秋 2015」において、阿部氏はRCOがかつてのWebサービス開発組織からアドテク開発のエンジニア組織へといかに変化していったかをテーマに講演。その中で、エンジニアが成長できる環境について触れたところ、発表後のアンケート等で「エンジニアが成長する環境を作るためのRCOアドテク部の取り組みについて教えてほしい」との質問を受けたという。
「いただいた質問への回答という意味もあり、今回はエンジニアの成長のために我々が組織的にどのようなことに取り組んでいるのかご紹介させていただきたい」と阿部氏は冒頭で述べ、セッションを開始した。
そもそもエンジニアの成長を重視している理由の一つとしては、「組織のスループットを増大する」という目的があるという。阿部氏によると、組織を1つのシステムとして捉えれば、インプットされた経営資源に対して内部で“変換”を繰り返し、アウトプットとして何らかの企業価値を生み出すシステムということになる。その“変換”プロセスの処理能力が向上すれば、最終的に生み出せる企業価値も大きくなると考えられる。つまり、開発組織を構成する個々のメンバーが成長することで、組織全体のスループットを増大させることができるというわけだ。エンジニア中心の組織であれば当然、組織の価値を高めるコア要因はエンジニアの成長ということになる。
続いて、阿部氏は目指すべき組織の成長のあり方について言及。従来の概念では、組織の成長とは「人が増えること」とほぼ同義であり、似たスキルを持つメンバーを増やすことでスケールし、組織成長に合わせて人をはめ込んでいくといったイメージがあった。これに対してRCOアドテク部が目指すのは、メンバー一人一人の価値が1枚のパネル、その総面積が組織的な価値だとすると、パネルの数ではなく個々のパネルの面積を大きくすることによって総面積を広げること。つまり、エンジニアの価値を高めて組織全体を成長させるということだ。
では、RCOアドテク部にとってのエンジニアの「価値」とは、どのようなものだろうか? 阿部氏は大きく3つの価値があるとして、まず1つ目に「開発プロダクトが提供するサービス価値の向上」を挙げた。これは、新規開発や機能改善による売上・利益への貢献と考えるとわかりやすい。ただし、売上・利益貢献については、当然エンジニアだけでなく企画や営業、運用担当者などの役割もあり、それぞれの役割やプロダクトごとに貢献率が変わってくる。
「その点では、アドテクはプログラムの出来が売上や利益といった価値にダイレクトにつながりやすく、エンジニアの貢献率が高い領域と言える」と阿部氏は補足する。
2つ目は「新規サービス開発等の将来的な価値の向上」。現在は直接の売上にはならないものの、長期的スパンでは売上に貢献するであろう価値というのも存在する。最終的に何らかの価値につながれば、当然エンジニアの貢献価値はあると考えられる。
そして3つ目に阿部氏が挙げたのは、「損失リスクの軽減的な意味での価値の向上」だ。たとえば、発生した場合に莫大な損失が発生するような障害やセキュリティ事故に対する防止対策および、損失を最小化するための取り組みなどがある。大幅なマイナスをゼロもしくは最小限のマイナスに抑えることができれば、それも価値と言える。また、技術的負債を減らすことにつながる貢献も、こうした損失リスク軽減の価値に含まれる。
「一言で表すならば、エンジニアの価値とは『組織に対して+の変化を起こす力』ということになる」(阿部氏)
エンジニアを成長させるための“4つのマッチング”
RCOアドテク部におけるエンジニアを成長させるための取り組みとして、特にマネジメントサイドが注力しているのが“4つのマッチング”だという。4つのマッチングとは、「採用」(=組織とマッチするか?)、「目標設定」(=メンバーのWillとマッチするか?)、「評価」(=ビジネス価値とマッチするか?)、「機会提供」(=世の中のトレンドとマッチするか?)のことを意味している。
まず採用については、「一緒に成長していけるか?」という組織とのマッチングを重視。そのため、人事任せではなく現場の人間も採用のプロセスには強くコミットする。「コーディング試験」を採用のコアに位置付けて、現場のエンジニアが問題作成および採点を担当。これにより、組織が現在進行形で求めているスキルを評価できる。
「エンジニアの方はイメージが湧くのではないかと思うが、コードには書く人の性格や指向性がにじみ出るので、そこも併せて評価する。『一緒にコードを書いていきたいかどうか?』が、かなり重要なポイントとなってくる」(阿部)
そして、目標設定と評価については、表裏一体のものとしてセットで考える。目標は、将来どんな価値のあるエンジニアになりたいかという「本人のWill」と、今どんな業務課題があり、エンジニアとしてどこで価値を発揮できるかという「エンジニア価値」を見極めて設定。また、評価は査定のためだけのプロセスではなく、成長のためのコミュニケーションと捉えて、「目標を達成してありたい姿に成長できたか?」「ほかに伸ばすべき部分はないか?」といった振り返りも行っている。評価をもとに次の目標を設定、さらに評価、次の目標設定……といったように目標達成が繰り返され、目標のレベルが高くなっていけば、自然と成長につながっていく。
なお、「本人のWill」に近い目標を設定する意義として、まず1つは「なりたい姿に近い目標なら頑張れる」ということがある。そうすれば自ずと結果も出やすくなり、結果が出ればなりたい姿に近づける──といったように、成功のループを作り出せるのだという。ただし、このマッチングは難しく、やりたいことと業務課題が完全一致することはほぼあり得ない。
とはいえ、業務課題にもWillにも「幅」があり、複数の選択肢が存在する。たとえば、ある業務課題に対して解決方法が1つだけとは限らないし、本人のWill=ありたい姿・やりたいことを実現するためのスキルというのも複数あることが多い。これらの選択肢の組み合わせで、両方を満たす目標を設定することが求められる。そして、現在のスキルに対して達成目標は高めに設定することも重要だ。
「ここはマネジメントの頑張りどころ。かなり大変だが、このマッチングがうまくいけば、エンジニアの成長はさらに加速する」(阿部氏)
業務を通していかにメンバーを成長させていくかに注力する一方で、RCOアドテク部では、業務の枠にとらわれない幅広い機会提供も重視している。これは、成長の幅が業務の範囲に限定されてしまわないためにも必要な取り組みだ。具体例としては、勉強会や開発合宿などの開催、国内外カンファレンスへの参加支援などが挙げられる。これまで、機械学習大会として“爆弾で戦う某レトロゲーム”をアルゴリズム同士で対戦させたり、開発合宿において新人エンジニアがドローンを機械学習で制御するプログラムを作ったりした実績もある。
組織として、業務領域であるアドテクとは関係のない分野においても「エンジニアがワクワクするチャレンジの場」を提供し、最新の技術トレンドに乗り遅れないようにカンファレンス参加なども積極的に支援しているのは、それが最終的に組織の価値として戻ってくるからだと阿部氏は強調。エンジニアスキルのベースアップはもとより、業務ではなかなか取り入れられない最新技術や理論の組織への還元、対外的な活動によるブランド価値向上なども期待できる。また、早稲田大学と量子アニーリングに関する共同研究を行うなど、エンジニア発の新たなチャレンジ領域発掘にもつながっているそうだ。
「このようにエンジニアの成長を重視する組織で働いてみたいという方がいらっしゃれば、『コーディング試験』で検索するとRCOの中途採用ページがヒットするので、ぜひエントリーしていただけると嬉しい」と阿部氏は最後に呼びかけ、セッションを締めくくった。
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