エンジニアが自ら成長を求める文化を形成するために「社内勉強会」を開催
須賀氏は、技術者派遣を主な業務としているVSNでテクニカルアドバイザー(社内講師)を務めている。専門はソフトウェア開発で、技術研修はもちろん、キャリアについての相談を受けることもあれば、新人のフォローなど、その担当領域は非常に幅広い。
VSNがカバーしている分野はネットワークやサーバー、ソフトウェアといったIT全般の他、メカトロニクス、エレクトロニクス、ファームウェア、バイオ・ケミストリーなど多岐にわたる。従業員・約3,400人のうち3,000人以上が正社員エンジニアであり、その約半数がIT分野のエンジニアだ。基本的にはお客さま先に常駐する形の契約形態をとっていることが多い。
在籍しているエンジニアの平均年齢は30.7歳、6割が新卒入社。若手を積極的に採用して業界トップクラスの教育を実施し、現場に配属するビジネスモデルだ。
このような背景を持つVSNが「社内勉強会」を開催するに至った経緯、それは次のような課題を抱えていたことがきっかけだった。
当時、VSNには入社時の研修はあるものの、その後の現場エンジニアに対する積極的な技術研修を行っていなかった。そのため、技術的に成長しづらい現場に配属されてしまうと、次の現場へ配属される際にスキル不足が足かせになってしまう問題が発生していた。
また、顧客先に常駐することで、帰属意識が薄れて“VSN社員”としての意識が欠如してしまいがちだった。社内で勉強する仲間が欲しいというニーズもあったが、一方で自己研鑽する姿勢を持てないエンジニアもいた。
そこで須賀氏らは「エンジニアが自ら成長を求める文化をゼロから形成したい」と考え、以下のように段階を踏んでいく計画を立てた。
- 第1段階:スキルアップを渇望する
- 第2段階:仲間を見つける、渇望していることを発信する
- 第3段階:グループの構築や人脈を作る
- 第4段階:スキルアップを進める
目指すのは、現場や世代、分野を超えた技術と情報の共有と、エンジニアの成長にプラスとなり、次のステージの参考となる「場」の形成である。
須賀氏が勉強会の存在に目を向けたきっかけは、2008年から足を運んでいるデブサミだった。勉強会という形で、情報共有や育成活動に対して活発的に取り組んでいる企業が多数あることを知った。
そこで須賀氏は調査のため、いくつかの勉強会に自ら参加するようになった。その経験を踏まえて始めたのが、須賀氏が担当するソフトウェア開発分野での勉強会だ。
月1回開催で、場所は天王洲の自社トレーニングセンター。業務時間ではないため交通費・休日稼働手当の支給は無し。それでも社内SNSで告知したところ数人から反応があり、最初の開催にこぎつけることができた。内容は興味がある技術についてのLTが中心で、他には社外の勉強会やイベントに参加することもあった。まずは継続させることに重点を置いた。
結果としては、参加者が2~3人しか集まらない場合やネタが切れそうになることも多々あったが、なんとか継続開催することができた。地方在住者など、リモートで参加するエンジニアもいたため、「ちゃんとフォローすれば、年間を通じて進めていけると思った」と、須賀氏は語る。
ある程度継続できたことで、ソフトウェア開発以外の分野でも開催することになった。サーバー分野は「LPIC資格取得勉強会」、ネットワーク分野は「Cisco資格取得勉強会」からスタート。まずは若手が参加しやすい、資格の取得にテーマを絞った。
しかし、全てが順調に進んだわけではない。例えば会社主導でCiscoのCCNP取得を目指した、ネットワークエンジニア強化プロジェクト事例でのこと。会社が若手~中堅メンバーを二十数名選定してフォローも行ったが、1年後にCCNPを取得できたのはわずか1名だけだった。
ほとんどのメンバーが途中で脱落してしまったわけだが、その理由として「言われたから来た」「現場の業務が忙しい」「一度休んでしまうと、進捗を追いかけるのはつらい」といった意見が挙げられた。エンジニアにモチベーションを維持させられなかったことが課題となった。
一方で、ポジティブな事例もいくつか出てきた。エレクトロニクス分野のエンジニアから「IT分野だけが勉強会をやっていてうらやましい」「自分たちも始めたい」などの声が続々と広がり、自主的な勉強会が多数開催されるようになった。
多くの失敗を重ねながらも、“自ら勉強する”という文化が少しずつ醸成されつつある。
ゼロからマウスを作ってみる「マウス作ろう勉強会」や、元アパレル業界の社員が講師となった「営業ファッション勉強会」といった、バラエティに富んだ勉強会が多数、自発的に行われている。
勉強会を継続させるための重要なポイントとは
須賀氏が本セッションのタイトルに「Re:ゼロ」とつけたのには、ある理由がある。これは「勉強会を継続させるため、気をつけて運営したが続かなくなった。そこから心機一転して仕切り直し、再び開催した経験」に由来している。
勉強会の失敗は「続かない・実践できない・広がらない・参加できない」ことが主な要因だ。具体的には、現場が異なるため共通の話題が少ない、スケジュールや場所の問題、モチベーションの低下など、さまざまな理由がある。
問題は他にもある。若手向けの勉強会はエンジニアが経験値を積める機会でもあるため、若手エンジニアにリーダーを立て、彼ら主導で運営を行っている。半期~四半期ごとに担当者を決め、運営グループとして活動してもらうのだが、勉強会を引っ張っていた中心人物が転職・退職してしまうこともある。そうなると勉強会自体の運用が止まってしまうので、次世代のリーダーを育成することも今後の大きな課題である。
では、勉強会を成功させるため、大切なこととは何だろうか? 須賀氏の経験では「人・スケジュール・場所・内容について、あらかじめ明確に決めておく」ことが大きなポイントだという。「人」は運営メンバーがちゃんといること。複数名で運営すれば、属人化することなく、仮に誰かが抜けても継続させることができる。「場所」や「スケジュール」については「毎月、何週目の何曜日にどこで開催」というように年間を通じて予定を立てておく。遠方の参加希望者にも細やかに配慮し、ツールなどで情報共有できるようにする。勉強会の「内容」に関しても、せめて「次回は何をするのか」は必ず決めておくようにし、興味・関心を持ってもらえるようにトレンドの技術や盛り上がるネタを入れることが重要だ。「例えば、年間スケジュールで定期開催するようにし、それプラス特集を組んで追加開催すると緩急が付き、継続しやすい」と、須賀氏はコツを説明。勉強会の開催自体が目的ではないが、継続しなければ消滅してしまうので、根付くまでとにかく続けることが重要だ。そのためにも、エンジニアにとって無理のない範囲で参加してもらうことも大切である。
勉強会を開催することにより、社内外で現れた成果
社内の勉強会を開催した結果、実際にどのような成果が現れているのか。
顧客からは「問題意識や自己研鑽の姿勢がわかる」と、取り組み自体に評価を得ている。中には業務時間内に勉強会を実施し、互いのサービスの改善を検討、顧客のマネージャー層に発表を行っているケースもある。
また、エンジニアに対してスキルの底上げを行うことにより、ひとつ上の工程での契約が可能になる事例も出てきた。顧客視点で考えれば、日頃からの自己研鑽によって、プロジェクト加入時の教育時間を節約することにもつながる。
さらにエンジニアの育成および教育について、顧客との理解度・共感度が上昇した。育成や教育はどの企業でも抱えている共通の課題だからだ。客先でも勉強会をやってほしいとの声が挙がり、顧客の若手社員と合同で勉強会を実施することもあった。
勉強会は、先輩エンジニアが若手にメッセージを伝える場としても活用できている。実はこれが最も重要な成果といえる。経験の暗黙知を形式知に変え、働く意義や気持ちなどを直接伝えられる。若手も、現場や分野が違う先輩の体験談やノウハウを聞くことができる。先輩と後輩、どちらのエンジニアにとっても勉強になる機会が生まれ、コミュニケーション能力も向上し、業務や部署の枠を越えたつながりを得ることができている。
もちろん、技術力の面でも相談できる場が生まれたり、集中して勉強できる時間が作れたりといった価値もある。
会社としても、誰がモチベーションの高いエンジニアか判別できるということや、企業のビジョンを各エンジニアに直接伝えることができる貴重な場があることに高い価値を見いだしている。
須賀氏は価値の高い勉強会を運営するにあたり、今後の課題として以下の3点を挙げた。
新技術に対する備え
先端技術を扱う現場に就業できるエンジニアは少ない。勉強会として予算を設け、教育の投資として環境を構築することが必要である。
ハイレベルで経験豊富なエンジニアのスキル・知識・立ち回りの共有
技術分野を超えた形で40・50歳代のエンジニアがどう働いていけるかを考える必要がある。
成長を拒絶するエンジニアの育成
成長することを拒絶するエンジニアも、まれに存在する。その要因を明確に分析し、育成できるように改善しなければならない。
須賀氏は最後に「VSN天王洲トレーニングセンターにて社外の皆さまとも多くの勉強会を実施できればと思っております。一緒に勉強会をしませんか?」と呼びかけ、セッションを締めくくった。
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