インテリジェンスエクスプロージョンでソフトウェア、ビジネス、社会が大きく変わる
続いて登壇した、Microsoft Corporate Vice President of the Data GroupのJoseph Sirosh氏は、約5億3,000万年前に「進化の特異点」を経て地球の生命体が大きく変わったように、人類は新たに「AIの特異点」を目の前にしていると述べた。進化の特異点では目を持つ生命体が誕生したが、今AIによってデータを保存するだけでなく、分析、可視化、予測することが可能になった。コンピューティングパワーが増大したクラウド、世界中のセンサーが収集する大量のデータ、そしてそこにインテリジェンスが加わることで、次世代のソフトウェアが生み出され、あらゆるビジネスがAIビジネスに変わろうとしている。
Sirosh氏は、革新的なアプリケーションを構築するためのポイントとして、インテリジェントDB、インテリジェントレイク、ディープインテリジェンスの3つを挙げた。
インテリジェントDBへ進化したSQL Server
AIを利用する場合、データから学習する必要がある。これまでは、アプリケーション内にAI層を設け、分離したデータベースからデータを取得する構造が主流であった。しかしそれでは、データの可用性や信頼性、セキュリティやコンプライアンスを確保するために、アプリケーション内で多くの処理を実行しなければならない。一方、SQL Serverなどのデータベースでは最初からセキュリティやコンプライアンスが担保される。そのため、AI層をデータのある場所、すなわちデータベース内に取り込むことで、高可用性、高信頼性のアプリケーションをより簡単に開発できるようになる。
2017年4月に発表されたSQL Server 2017は、商用データベースとして初めてAIが組み込まれた。RやPythonをベースとしたストアドプロシージャによって学習モデルを呼び出し、データの分析や予測を実行できるほか、Microsoft Graphを使った複雑な関係の分析も可能である。クエリー処理の最適化により、パフォーマンスも大きく向上している。
機械学習エンジンR Serverもバージョンアップした。R Server 9.1では、Rに加え、Pyrhonが利用可能になったほか、GPUパワーを使った深層学習に対応し、SQL Server、Spark、Hadoop上で利用できる。
インテリジェントDBの活用例として、CTスキャン画像を解析して癌の有無を判定するアプリケーションのデモが行われた。このアプリケーションでは、CTスキャン画像、診療履歴など患者に関するデータはすべてSQL Server内に保管されているため、セキュリティやコンプライアンス、整合性の問題は発生しない。データへのアクセスは、ストアドプロシージャを呼び出すだけで済む。このデモでは、ストアドプロシージャでGPU対応のCMTK(Microsoftの機械学習フレームワーク)を使用しており、CTスキャン画像の解析はCPUでは32時間以上かかるが、GPUを使えば1時間弱で完了する。
グローバル規模の分散データベース、Azure Cosmos DB
2017年5月、Microsoftは新しいデータベースサービスとしてAzure Cosmos DBを発表。データは世界中のあらゆるところから収集され、送られてくるため、データセンターが1か所だけでは処理に遅延が発生する。Azure Cosmos DBは、38以上のリージョンにグローバル規模でデータを分散することで、遅延を抑え、スループットを確保する。必要に応じて柔軟なスケールが可能であり、ドキュメント、グラフ、キーバリューなど複数のモデル、SQL、JavaScript、Gremlin、MongoDBなど複数のAPIに対応している。
インテリジェントレイクによりペタバイト級のデータ分析を実現
AIはデータから学習し、モデルを作成する。データ量が多ければ多いほど予測の精度は高くなる。Microsoftは、ペタバイト級のデータにAIを適用できるインテリジェントレイクサービスとして、Azure HDInsightとAzure Data Lakeを提供している。
Azure HDInsightは、管理されたクラスター上でSparkやHadoopによるビッグデータ分析を可能にするサービスだ。必要に応じてクラスターを作成してスケールし、分散されたデータに対してAIを活用した分析を実行できる。Scala、Python、R、Java、.NETに対応しており、R ServerやHadoopエコシステムのOSSを利用できる。
Azure Data Lakeは容量無制限のデータレイクサービスで、サーバレスでデータの保存・分析を実行できる。顔の解析、画像へのタグ付け、顔の感情分析、OCR、テキストからの重要語句の抽出、テキストの感情分析という6つのコグニティブ機能が提供されている。
Sirosh氏は、ペタバイト級のデータに対してAIを適用して分析することをビッグコグニションと呼び、画像、動画、音声、テキストなどのコンテンツと構造化データを横断したクエリーを実行できること、多様なデータセットを異なるユーザが共有できることがインテリジェントレイクの強みであると説明した。
クラウド上で大容量データに対する深層学習を実現
深層学習はAIの最先端技術として、医学、生物学、メディア、セキュリティ、自動機械などさまざまな分野で活用されている。例えば、ノルウェーのeSmart Systemsというベンチャー企業は、ドローンで取得した電線の画像をもとに深層学習を活用して不具合を起こしそうな場所を検出する電線検査事業を展開している。
Azureは、ディープインテリジェンスに適したデータサイエンス仮想マシンを新たに提供。GPU対応の仮想マシンに深層学習機能を組み込んだもので、主要な分析ツールがインストール済みだ。Azure Data Lakeにデータを格納し、ChainerやCNTKなどの深層学習フレームワークをデータサイエンス仮想マシンにインストールして、トレーニングを行うAzure Batch AI Trainingと組み合わせて利用すれば、クラウド上で大容量データを使った深層学習を実行できるようになる。
Sirosh氏は、5億3.000万年前のカンブリア爆発のように、ソフトウェア、ビジネス、社会を大きく変えるインテリジェンスエクスプロージョンが起ころうとしていると指摘。これまでにはない未来をともに創っていこうと会場に呼び掛け、話を終えた。
