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事例インタビュー

技術顧問だから、VPoEだからこそできること――社外の知見を社内の文化として浸透させるためには?

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 2015年8月、Yahoo! JAPAN開発部長やクックパッド技術部長を務めていた井原正博氏を技術顧問に迎え入れ、エンジニアマネジメント責任者を務めていた是澤太志氏と力を合わせて開発体制の刷新および事業領域の拡大を図っていたSpeee。2017年11月末に是澤氏がSpeeeから離れ、改革を進めてきた2人の業務を引き継いだのは今年5月、SpeeeにVP of Engineering(VPoE)として入社した大場光一郎氏である。現在では引き継ぎが進み、井原氏も現在は週1回の出社頻度となり、徐々に技術顧問として関わる機会が減っているという。技術顧問とVPoE、それぞれの立場だからこそ、できること、できないこと。そして、井原氏から大場氏へ橋渡しをしていった際のエピソードについて、両名に話を聞いた。

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カウンターパートであるVPoEがいるから技術顧問が生きる

 2018年5月1日、デジタルコンサルティング事業やデジタルトランスフォーメーション事業などを手掛けるSpeeeに、VPoEという役職が設置された。こちらを務めるのが、前職の大手クラウドソーシング会社で、CTOとして開発組織を率いていた大場氏である。

株式会社Speee 専門執行役員 兼 VP of Engineering 大場光一郎氏
株式会社Speee 専門執行役員 兼 VP of Engineering 大場光一郎氏

 VPoEとは、エンジニア組織のマネジメント責任者のこと。エンジニアの生産性と成長性を最大化させるべく、メンバーの育成や組織課題の解決などを行う役割だ。一般的にエンジニア組織のトップというとCTOを頭に浮かべる人も多いかもしれないが、CTOは技術に対する課題を解決する責任者。一方でVPoEは組織が事業を営むために十分な技術力を保てるように支援し、技術によって生み出される価値を最大化できる組織づくりを担当する。つまり大場氏が組織改革や人材の育成などを担っていくことになる。

 これまでSpeeeにて技術改革とともに組織改革を担っていた技術顧問の井原氏は、「これまでは週3回ぐらい出社してがっつり関わってきましたが、今は週1回ぐらいの出社です」と話すように、徐々にSpeeeから離れつつある。

株式会社Speee 開発部 顧問 井原正博氏
株式会社Speee 開発部 顧問 井原正博氏

 3年半の間に、井原氏はSpeeeにさまざまな改革をもたらした。例えば、これまで事業によってバラバラだった言語をRubyに統一し、フレームワークもRuby on Railsを使うようになったこと。また、評価制度を一から整えるなどして、正しく評価される仕組みをつくったことなどだ。具体的には、目標設計の見直しやグレード制度の刷新を行い、成果に見合った評価をされる仕組みを導入した。また、業務中におけるOSSコミットの推奨・評価や技術チャレンジをする文化づくりも行ってきた。そのためにOKRを導入し、個人の目標を明確化。井原氏も「社外の人間である技術顧問は何のしがらみもなく、正論が言える。だからこそ、思い切ったことができました」と振り返る。

 しかしいくら正論だとしても、外部にいる技術顧問のメッセージが勝手に社内に浸透していくわけではない。当時その役割を担っていたのが、同社のエンジニアマネジメントと採用の責任者を務めてきた是澤氏である。「是澤さんという社内調整に動いてくれる、しっかりとしたカウンターパートがいたから改革を進めることができたのです」と井原氏は語る。

 大場氏も「社内でいろいろな人と話すほど、しがらみが出てきてしまう。だから外部にいる技術顧問から『そもそも論』を言ってもらえることは会社にとってもありがたい。しかしそれを生かしていくには自社に適合させることが必要で、それが社内にいるVPoEの役割だと考えています」と相づちを打つ。このように大場氏もカウンターパートの重要性を実感している。

 前職時代、大場氏は副業でいくつかの企業の技術顧問を務めていた。そこで成功パターンがあることに気付いたという。

 「それは社内に経営陣や現場メンバーを変えていく役割を担う、カウンターパートがいることです。コアとなるカウンターパートがいないと、技術顧問がいくら適切なアドバイスをしても外部から会社を変えていくことは難しい。井原さんの力を最大限生かすためにも、私がしっかりとしたカウンターパートになりたいと考えたのです」(大場氏)

「遠心力」と「求心力」という2つの方向性で組織改革

 現在、大場氏は井原氏と連携しながら、Speeeをさらに成長できる組織にするべく改革に取り組んでいる。方向性は大きく2つ。ひとつは自由度を上げていくこと。これは「『遠心力』をつける活動です」と大場氏は話す。エンジニアにフレックスタイム制を導入したことはその代表例だ。

 「これまでの定時制をフレックスタイム制に変えることは、エンジニアの働き方自由度の向上だけでなく、自身のパフォーマンスに関して責任を持ってもらうことも目的としています。自由度の向上は、採用力の強化にもつながります。制度導入のため、私は入社してすぐに検討を始めました。そして、経営陣との調整、法務や労務の制度の整備も行い、2カ月後には試験導入することができました」(大場氏)

 こうした細かな調整業務は、社内にいるVPoEだからこそできたこと。短期間でフレックスタイム制が導入できたのもそれが大きな理由だ。

 自由度を上げた後は、次のステップとしてエンジニアの成長幅を引き上げたいと考えた。そこで大場氏が取り組む、もうひとつの方向性が「求心力」をつけることである。「『Speeeだからこそできること』を見える化し、打ち出していくのです」と大場氏は話す。

 これまで井原氏が行ってきた改革の中身も、人の入れ替わりなどで暗黙知になり継承されていない部分があった。エンジニアの採用や評価もそのひとつだ。是澤氏の退職後は井原氏1人がこの業務を担っており、属人化してしまっていた。そこで大場氏は評価制度の透明化に取り組んでいる。

 「このまま1人が評価する体制では、スケールすることが難しくなります。しかも井原さんの暗黙知に頼っている部分がありました。それらの素晴らしい知見をミドルマネージャーの育成に活用したり掘り起こしたりしながら、再構築しているところです」(大場氏)

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暗黙知をヒアリングで明文化

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この記事の著者

中村 仁美(ナカムラ ヒトミ)

 大阪府出身。教育大学卒。大学時代は臨床心理学を専攻。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在はIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。...

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