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技術顧問だから、VPoEだからこそできること――社外の知見を社内の文化として浸透させるためには?

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2018/12/27 11:00

目次

暗黙知をヒアリングで明文化

 では、技術顧問からVPoEへどうやって暗黙知を引き継いでいるのか。大場氏は、「井原さんにヒアリングして暗黙知を言語化するとともに、採用や評価の事実と照らし合わせ、その結果としてどのようなインパクトが起こったのかをひもといていきました。井原さんの足跡を掘り起こす、歴史学者みたいな仕事をしました」と笑いながら明かす。

 ラッキーだったのは、井原氏のさまざまな言動がテキストとして残されていたこと。それをさかのぼってサルベージしていくことで、井原氏が発信してきたこと、やろうとしてきたことがおおむね把握できたという。

 評価や採用の基準は1枚のスライドにまとめ、すでにエンジニアに共有している。こうすることで、エンジニア一人ひとりが変化を実感できる。また、技術に関する評価方法をオープンにし、目標をGitHubで共有、それに対するフィードバックをエンジニア同士で行う仕組みを新制度として構築している。

 「これまでメンバーはただ成果を報告する人で、評価する人は井原さん1人という、受け身なものとなっていました。そこで、今はプログラムと同じようにGitHub上でお互いがレビューする形式を採用し、メンバーもほかの人を評価する形にしました。そうすることでメンバーだけでなく、レビュアーの成長にもつながると考えたからです。どういった基準で評価をしていくのか、評価の軸を自分たちでつくることができれば、評価、採用、育成の3つを同じ軸でつなげることができる。今はそれができるような取り組みを行っています」(大場氏)

 もうひとつ、引き継ぎがスムーズに進んだ要因となったのが、2人が以前から知り合いで、互いの考え方の近さを知っていたことだ。「私と井原さんはこれまでも組織づくりやエンジニアリングマネジメントについて情報交換をしてきた仲ですし、入社前から改革のイメージは一部わいていました」と大場氏は笑顔で話す。

 ただし、「考え方が近い者同士で取り組むことが必ずしも正解というわけではない」と井原氏。例えば昨日まで言われていたことが今日から違うとなると、巻き込まれるのは現場のエンジニアだからだ。

課題を見える化するから改革が進む

 井原氏は、大場氏の見える化する能力を高く評価する。というのも見える化することで改善がよりスムーズになるからだ。組織改革を進めるVPoEには欠かせない能力といえる。

 井原氏はこれまで強力なメッセージを発信して組織改革を進めてきたが、「当初と比較すると、自分の能力だけで劇的に変えられることは少なくなってきた」と話す。Speeeの組織がだんだん大きくなってきたことで、与えられるインパクトが小さくなりつつあったこともあり、「そろそろ監督が交代する時期」と考えて大場氏への引き継ぎを行っている。「ここまでできたということよりも、目指すところはまだ先にあるため『ここまでしかできなかった』という思いの方が強いです」と振り返る。

 例えば技術力もそのひとつだという。エンジニアの正社員は25人ほどだが、その中にはRubyのコミッターの村田賢太氏や元・Increments CTOの荻原一平氏、サイバーエージェントグループでグループ全体のセキュリティを統括していた伊藤秀行氏もジョインしている。村田氏は開発、荻原氏は技術基盤、伊藤氏はCISOとしてチームをけん引している。

 それでも井原氏は、「インターネットへの貢献という面を考えると、目標に対してはまだまだ道半ば。本当はもっとできるはずだったのに、底上げしきれなかった。技術顧問という立場ではどうしても動かせないものがありました」と吐露する。OSSへコミットすることも増えたが、それは井原氏の強いリーダーシップがあったからこそ。「尻をたたいて、無理やり発火させていた」と井原氏は振り返る。自発的にインターネットに貢献するエコシステムができれば、もっとより良い方向へ組織が改善されていくというのである。

 井原氏ではなかなか改善できなかったエンジニアのマインド改革に、大場氏は入社してすぐに手をつけた。みんなが思っている課題を出してもらうことにしたのだ。Speeeは設立されて11年の比較的若い会社だが、それでも社内には「こういうものだから」という空気や、機能していない制度があったという。「個別に聞くと、モヤモヤしていることや不満に思っていることが出てくるのに、表面化せず、沈殿していた」と大場氏。

 そこで、心の中で考えていることをタスク管理ツールのTrelloに書いてもらうことにした。「最初は戸惑っていた人もいましたが、いざやってみたら、あふれてしまうくらいの課題が出てきました」と話す。「中には『車通勤をしたい』といったユニークなものもありました」と、大場氏は笑いながら振り返る。

 「少し変わった課題を書いた人を称賛することもしました。とにかく、不満に思っていることや課題を出してもらいたかったからです。現在は、それらを分析し優先順位をつけていくなど、全員で考えながら課題を解消していく体制を整えているところです」(大場氏)

 社外技術顧問から社内VPoEへ橋渡しをし、改革を進めているSpeee。

 「技術を道具として上手に駆使し、少なくとも日本で一番成果を出せるエンジニア集団になってもらいたいです。それを目指せるだけの体制も整ってきたと思うので」(井原氏)

 「現在のSpeeeにある技術や文化、組織は、力を発揮しやすく成長するための基盤になりつつあると、1人のエンジニアとしても感じます。井原さんが培ってきた有形無形の資産を大切に継承し、より大きな課題を解決できるテックカンパニーとなるために必要なことを何でもやっていきます」(大場氏)



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著者プロフィール

  • 中村 仁美(ナカムラ ヒトミ)

     大阪府出身。教育大学卒。大学時代は臨床心理学を専攻。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在はIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。...

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