行動分析のさまざまなユースケースとソリューション
Motionloftの技術的特徴に踏み込む前に、一般に行動分析と呼ばれるソリューションにどのようなものがあるか、全体像を簡単に見ておきたい。前提知識があったほうが、同社の技術的長所とマーケットにおける位置づけを理解することも容易になるだろう。
行動分析のソリューションは、何のデータを取得するかという観点から、二通りに分類できる。1つはMotionloftのようにセンサーを用いて捉えた画像データ(動画または静止画)を入力とするタイプのソリューション。このタイプのソリューションに多いのが、リテールの店舗でのマーケティングや業務改善にフォーカスしたサービスである。日本でも事業を展開するRetailNextやスタートアップのABEJAなどが知られている。また、最近ではシェアオフィスの流行を受けて、オフィススペースの有効活用という需要に応えるソリューションも増えてきた。オフィスにフォーカスしたコンピュータビジョンのスタートアップとしては、シリコンバレーにおいても、ポール・グレアムのY Combinatorが出資しているVergeSenseなどがある(注2)。
もう一つのやり方は、Wi-FiやBluetoothによって通信するビーコンから得られた位置データを入力にするやり方である。こちらの場合、基本的に位置情報しか分からないため、出力としても通過した人数のカウントやヒートマップ作成など、マーケティング機能としては比較的プリミティブなものになる。それでも、このやり方が好まれる理由が2つある。
一つは個人情報とプライバシーの問題を回避したい場合である。シリコンバレーには、本社が欧州にある会社も少なくないが、彼らは当然のことながらGDPR準拠への意識が非常に強い。下手にカメラで撮影を行うことで法規制に触れるリスクを高めるよりは、より安全な選択肢に倒すという判断がむしろ顧客に好まれることもある(欧州では、今後ますます規制が厳しくなっていくという懸念もあると思われる)。
もう一つの理由は端的にコストである。一般に、精度のよいカメラを何台も配置して電源を供給し、AIによる画像解析まで行うコンピュータビジョンに比べると、簡易なハードウェアで実装できてソフトウェア側も複雑な処理が必要ないビーコンの方がトータルコストは安くなる傾向にある。
こうしたビーコントラッキングのスタートアップとしては、サンフランシスコ市内にオフィスを構えるShoppermotion(本社はマドリード)や、2019年2月にWeWorkが買収したことで話題になったEuclidが挙げられる(注3)。

コンピュータビジョンとビーコンは、もちろん併用することも可能である。実際、MotionloftのViMoにも、ビーコンが通信を行う際のハブになる機能が備わっている。しかし、「それであっても長期的には、行動トラッキングという市場では、コンピュータビジョンがビーコンの需要を置き換えていくことになるだろう」(Paul氏)というのが、Motionloftの見解である(注4)。
注2
エンジニアやプログラマの方にポール・グレアムの名前はなじみ深いと思うが、Y Combinatorは彼が中心となって運営しているアクセラレータで、主にアーリーステージのスタートアップに少額出資と育成を行っている。投資対象となった企業にDropbox、Airbnb、Stripeなどがある。
注3
「WeWork just made its first acquisition of 2019, snapping up a visitor identity and behavior company」(TechCrunch)
注4
なお、ビーコンにはGPSでは精度が出ない屋内や狭域での位置情報把握というユースケースもあり、この場合は個人の属性情報は不要という割り切りは合理的である。
前編となる本稿では、行動分析の主なソリューションのタイプと、そこにおけるMotionloft社の立ち位置、および同社のソリューション概要を中心に解説した。後編では、同社の技術的詳細に踏み込んで、個人の属性情報を取得する場合のプライバシー保護とセキュリティに関する対策、日本展開の戦略や今後のロードマップについてお届けしたい。
