AWS Startup Dayは「ビジネスとテクノロジーのラーニングのイベント」
最初に登壇したアマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏は、まずAWS Startup Dayの定義を「AWSが、AWSしかできない形で、(スタートアップの)みなさまにご提供するビジネスとテクノロジーのラーニングのイベントだと位置づけています」と説明した。
AWSならではの取り組みとして、イベント内の企画もユニークになっている。
競合を見てビジネスを考えるのではなく、顧客のニーズを徹底的に掘り下げてビジネスに取り組んできたAmazonおよびAWS。これまでAmazonがイノベーションを起こしてきた手法を学べるワークショップを用意していた。
長崎氏は、「ちょっとしたアイデアを持った起業家が、ホテル業界やシェアリングサービスなどで、ディスラプディブなサービスを生み出している」と指摘。そして、アイデアをいかに早くスケールしていくかが今後ますます重要になっていき、そのためにテクノロジーが必要不可欠だと強調した。
AWSのサービスを活用することで、できるだけ速く、コストを押さえて開発運用していくことが可能だ。AWSには、ベンチャーキャピタル(VC)やスタートアップ起業家と向き合う専門のチームもいるという。寄り添ってくれるAWSの技術者やコミュニティが存在するため、壁にぶつかったときの解決も早い。
さらに長崎氏は、今回のイベントのようなラーニングの場を強化していきたいと考えていると話し、その1つとしてAWS Loft Tokyoを紹介した。これは、AWSを利用中の起業家やデベロッパーに開放されている施設。イベントやセミナーも開催し、実際にここから起業した事例もある。また、うれしいことに、AWSの技術者が常駐している(Ask An Expert カウンター)ので即時に悩みを解決できる。
「まだ(施設のオープンから)1年もたたないのですが、1万人を超える来場者、さまざまなコミュニティ、ネットワークが生まれている。『挑戦をカタチにする場所』として、地に足がついてきました」(長崎氏)
長崎氏はこのように話したあと、AWS Startup Day 2019 Tokyoの開会を宣言した。
機械学習の活用で重要な3つのポイント――AWS Mackenzie Kosut氏
AWSはなぜスタートアップ企業に選ばれるのか――。
長崎氏に続いて登壇したAmazon Web Services Mackenzie Kosut氏は、この問いからセッションを始めた。Kosut氏は、Global Startup Advocateの肩書で、世界中のさまざまな規模のスタートアップ企業を援助、支援してきた。
問いに対してKosut氏は、Amazon S3をローンチした当時を振り返って「簡単に安く、信頼性も高く、オブジェクトをスケールできる形でストアできる。これがスタートアップ企業にどんな影響力を持つのか、当時は予想できていなかった」と話す。現在、AWSによって、多くのスタートアップが低コストで、信頼性の高い形で開発が実現できている。
さらにAWSによってベンチャーキャピタル(VC)のスタートアップ企業への投資方法も変化した。VCは、データセンターに足を運び多くの項目をチェックする必要がなくなった。初期段階のスタートアップ企業への投資を、後押しすることもできているという。
「スタートアップの初期の段階から、AWSがアイデア実現のお手伝いができているのを見ると、喜ばしい気持ちになります。もっとも重要なのは、AWSはスタートアップ企業のあらゆる段階において支援するよう注力しているということです」(Kosut氏)
コストを最小化してスタートアップの挑戦を後押しする
ここでKosut氏はAWSの活用事例として、スモールスタートの企業と比較的大きな企業の2つを紹介した。
まずフロリダのスタートアップ企業、Waiver Master。これはクラウドの文書管理システムを提供する会社で、社員はたったの1名。リリースから数カ月で利益をあげ、1年も満たないうちに3万人の顧客を抱えた。これを実現したのが、AWS Lambda、Amazon API Gateway、Amazon DynamoDBといったフルマネージドサービスだ。開発運用コストを最小化しながら迅速に利益を最大化した。
また、大規模な例としては「Snapchat」で知られるSnap社を挙げた。同社は、従来のモノリシックなJavaのアーキテクチャをマイクロサービスに転換し、Amazon EKSなどを活用することで、小さな変更を加えづらかった課題を克服した。
機械学習のプロダクト開発にあたって重要な3つのポイント
続いて取り上げたのは、世界のトレンドを押さえるにあたって、はずすことのできない「機械学習」について。
AWSのサービス群を見てみると、機械学習にまつわるものがかなり多く、あらゆる企業、業界で活用されている。機械学習のプロダクトやアプリケーションの開発に注力する際、意識すべき3つのコアについて語った。
(1)データこそが最大の課題
まず、「機械学習において、データは燃料。どんな機械学習やデータプロセッシングにおいても必要になります」とKosut氏。AWSのサービスを使うことで、データ収集が簡単かつ安価になり、さまざまなWebアプリケーションやモバイルアプリケーション、デバイスからデータを収集できる。
また、データを暗号化することもでき、コンプライアンスの課題にも対応できる。「顧客は、あなたにデータを預けることができます。セキュリティは、いつでもAmazonの最優先事項です」と信頼性の高さを強調した。
(2)機械学習をさまざまな形で利用
また、Kosut氏は「Amazon SageMaker Ground Truthによって、より高度なデータセットを構築できるようになった」と説明。スタートアップが実際に機械学習を開発する際に使っているアプローチを紹介した。
パフォーマンスの最適化、コスト効率化のためには、TensorFlowやMxNetといったフレームワークを活用できるが、同時にGPUやCPUのパフォーマンスも考慮しなければならない。Amazon Elastic Inferenceでは、Amazon EC2およびAmazon SageMakerのインスタンスに低コストでElastic GPUをアタッチすることで、機械学習コストを75%まで削減できるという。
また、モデル構築に注力するデベロッパーのために、2年前にSageMakerを開発した。現在、ホテルズドットコムなどの企業がSageMakerを活用している。同社のデータサイエンティストによると、モデルの構築とデプロイ環境にSageMakerを使うことによって、データサイエンティストチームの生産性が70%も向上し、チームのアウトプットは2倍に増えたという。
さらに、アプリケーション開発者は機械学習APIサービスを利用したいと考えているだろう。Kosut氏は「APIサービスによって、人間らしい特性を組み込むことが容易になる。これは、画像認識、自然言語解析、対話インターフェースなどの特徴づけられたモデルを直接利用することで実現できる」と話し、Artfinder社の事例を紹介した。
「Artfinder」はオンラインのアートマーケットプレイス。同社では、アート作品をフィードするために、Amazon Rekognitionを活用している。これによってタグやオブジェクトを認証し、ユーザーが「犬」や「猫」といった単語ではもちろん、作品のテイストでも検索をかけることができるという。
(3)デベロッパーが求める開発スピード
スタートアップにとって、開発スピードは非常に重要である。それは、「機械学習モデルの開発においても同じこと」だとKosut氏は指摘する。データドリブンアプローチを改善するために、迅速な開発、検証していくことが成功への鍵だ。
そんな中で、SageMakerは、モデルをスケールダウン、トレーニングし、ABテストできる機能を備えている。これによってデベロッパーは、最適化されたモデルを見つけることができる。
最後にKosut氏は、「2025年までに750億のデバイスがつながれていく」との予測に触れ、「テクノロジーはどんな人間や動物より速く移り変わり、強力になってきた。これまでは不可能だったことも可能にしてきた」と話し、技術の進化の目まぐるしさを強調。
そして、Amazon.comの共同創設者、CEOのJeff Bezosの言葉を引用した。
“すばらしいアイデアを思い付いたとしても、すぐに成功するプロダクトへとつながるわけではありません。アイデアと成功の間には、切り離せない大変な作業がたくさんあるのです。”
以前はパイプラインをセットアップして展開するなどの骨の折れる作業を、開発者が仕方なくやらなくてはいけなかった。しかし今は、165を超えるAWSのサービスが担うことができる。
Kosut氏は「それによって、皆さんは本来の製品サービスの開発に注力することができるのです」と力強く語り、セッションを締めくくった。